屑籠の抗争

 No.7740と、No.0808が消えた屑籠で、またなにか始まるようだった。


 この中は「再生派」と「転生派」に分けられている。

再生派は元の世界に戻れると信じる者、転生派は新たな世界に行けると信じる者、大まかに言うとこんな感じだ。

再生派の人が元の世界に戻れると信じているのは、再生派リーダーのNo.05の「質問部屋に行った人が戻ってこないのは元の世界に戻れたからだよ、だから戻れるチャンスをみんな平等に貰えるんだ、また僕は戻ってきてしまったけれど、きっと皆にもその日が来るんだ」という言葉を聞いたから。

 転生派が新しい世界で生きることが出来ると信じるのは、転生派リーダーNo.168が話した「俺は何度もここに来た事がある、姿形は違っていたが、居たことがある、質問部屋から新しい世界に連れて行ってもらえる、前の世界とは生活様式も違う場所だったが、とても幸せだった」という話があったから。


似たり寄ったり。だが、どちらの主張を選ぶかは自分次第だし、捉え方次第ではどちらに転ぶかなんて答えは明白だ。

戦争を日常としていたものは平和を望み、家族や恋人、友人を亡くしているものが多かった。こういう事があった元の世界には戻りたくないから、転生を望む。

元の世界で幸せに満ちていた者は家族や恋人、友人たちを思い出し、日常を懐かしむ。あの日に戻れれば……と、それだけを思うなら再生を望むわけだ。

 

「シロはまだ無所属でいいの?」

不意に自分に言葉が飛んできた。声の主はNo.037、みんなサナと呼んでいる。安直だが自分もNo.046でシロと呼ばれており何も言えない。

「サナは再生派だよね、なんでそっちなの」

そう聞き返すと彼女はニヤリとして言うのだ「まぁ、とりあえずどちらかに居れば安全なんだから、どっちでもいいのよ」と。

「……俺みたいに無所属になると狙われるから、まあ賢い選択だね。」

 狙われると言うのは、勧誘もある。そして、無所属はどちらの派閥からも削除対象にされる事がある。


「まぁ、あたしがいれば大丈夫だよ、情報掴むのだけは早いからさ」

サナは前の世界で俺の幼馴染だった。今では姿形は異なっているし、名前も失ったけど、関係は変わりなかった。

 そしてこの屑籠では協力して生き残っている。

あとは質問部屋に呼ばれる時まで待つしかない。

今、この屑籠には何十人くらいいるのか、いなくなった人のことを本当に元の世界に再生、転生したと信じてる者はどのくらいいるのか。

毎日そんなことを考えて過ごしていた。


 あと、屑籠には教師のような人がいて、みんなが先生と呼んでいる。多分学校で言うと校長のような、一番上の人。見た目は俺らと変わらない子供みたいだが。

その人はこの二つの派閥の争いを見ているが何も口に出さない。それこそ質問部屋の真実を知ってるはずの人だ。無所属である俺は一度だけ聞いたことがある。

「正解を知ってるのなら、なぜこの争いを止められないのでしょうか」

嫌味を込めた、そんな言い方をしていたと思う。

そしてその質問の彼の答えは「君たちが見てるものはここの全てだから、正解はない、不正解もない」という、なんとも言えないものだった。


 「無所属発見しました!!」

不意にサナが大声を出した。再生派の人間がここは屑籠の外にある森、屑森。本当に名称も雑な場所だ。

茂みから何か構える影が見えた。ああ、今日も狙われ役の逃走劇を見せてやろうと、その矢面に立った。

「無所属のシロ!今日こそ再生派に入ってもらう!尚この言葉を拒否した場合は削除対象とする!」

影の背後にある人影。あいつが再生派のリーダーNo.05だ。

そしてNo.05の前にいる影が構えているのはボウガンだろう、なんか可愛げのないのがこっちを向いている。

とりあえずここから逃げるかと動くと右の木になんか刺さった、これは冗談ではなさそうだ。こちらのこわばる表情にサナが笑っている。

因みにボウガンを持つのは、No.05が操っている影だ。

そしてNo.05の横には小柄なNo.015がいた。…因みにNo.5はイツキ、No.015はイチゴと呼ばれている。この二人は兄妹らしい。本当に全部の呼称が安直だ。


木の影に隠れ、別の場所に移動を図る。

屋内に移ろうと裏口に向かうと転生派の奴が陰から俺を引っ張った。


「やあ、シロくん。ご無沙汰だね、逃げるのを手伝おうか?」


美少年と言うべきなのだろう、キラキラした雰囲気をまとうのは転生派のNo.026。なんかもう俺はこいつを変人だと思ってる。


「やあ、No.026。逃げる名目の勧誘は断る。」


「残念だなぁ、あと、名前。No.026なんて呼ばないで、ジロくんって呼んでくれないかな?」


「俺のと紛らわしいんだよなぁ、ところで、逃げ場所って言うのは……」


「ふふ、このままだと生き残れないよ?さあ、走って僕についてきて。」


イツキがそこまで来ていたと言うのに呑気にしていた。とりあえずジロと逃げることにして、再生派の攻撃を逃れ逃れ、何とか立ち入り禁止エリアに来て、なんだ……。

「ちょっと待てよ、なんで立入禁止エリアに来たんだ」


「シロくんの為だって、無所属の居場所なんて最近教室以外にないでしょ?教室では派閥は関係ないからね。教室の外に出たらあんなのに巻き込まれるんだし、立入禁止エリアの方があいつらだって近寄ろうとしないでしょ?…うん、とりあえずこんな感じ。」

「ジロ、お前何か企んでない?」

「それは別だよ。無所属の隠れ家になると思って、ちゃんと整えておいたんだから。」

立ち入り禁止エリア、屑籠の裏口から先にある長廊下を真っ直ぐ駆け抜け、突き当たりを左に曲がると壁をすり抜けることが出来る。…その壁の中が立入禁止エリア。噂だと削除対象エリアだから壁の中にあるとか言われている。

 「僕の調べだけど、ここは無所属の居場所だったんだ。過去にいた無所属はみんなここに居たよ。…それこそ、この前まで居た再生派のフリをしたNo.7740と転生派のフリをしたNo.0808の事だけどね。二人も調べ物沢山してたよ。このボロボロの部屋で。」

ジロは淡々と話を進めていく。俺に何をどうしろと言うのだろう。

「あのね、シロくんにだけ教えるよ。これはあの二人の実験なんだ。質問部屋の先に行くことが出来るか出来ないかっていう、それでなんだけど」

何かを決めたかのように、見据えられた。ジロの目は綺麗な紫の光をこぼしている。

ああ、彼が恵まれた容姿だけあって、綺麗だと思ってしまった。

「何か、俺に頼みたいの?」

「……シロくんに、質問部屋に行ってもらいたい。僕の能力を使えば、質問部屋から何処に行ったのかを把握できる。もう二人は消えてしまったけど」

これは、いいよと言うべきなのか、言わないべきなのか。そもそも、実験ってなんだ?

「実験で質問部屋に入ったとしてさ、あれは選ばれたわけじゃないのか?」

「それは偶然、二人が質問部屋に呼ばれてしまった。印に反応が無くなったのは、消えたからだよ。」

「それ、結果的にジロしか知れないことだよな、生きてるのに死んでるとか嘘もつけるわけだし。」

「二人が選ばれる前の事なんだけど、僕に印をつけて欲しいって頼まれたんだ。…僕の能力は宝石を生み出して相手に埋め込む、変な能力かもしれないけど、埋め込んだ宝石が生きているのか、死んでいるのかが確認できる印になる。」

抗争の発端は、いつも、こいつだった。


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屑籠 水星 佑香 @Mizuh0si_Ryuu

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