第44話 その後

 リリスという天使がロッドエンドという魔族を捕まえて天界へ連れて帰ったその後。

「やーっと見つかったねぇ」

「長かったな」

「長かったですね」

「長すぎだろ」

 四大天使のミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエルの四名はようやく安堵の声をあげた。

「まぁ見つかったのはロッドエンドという魔族だけだけど、《六道家》襲撃の主犯だし文句は言われないでしょ」

「そうだな。しかしそいつに事情を聞いたところによればおかしな点がいくつか出て来たのも事実」

「そうなんだよねぇ」

「【銀魔邪炎】は実行犯ではなかったという点ですね」

「そうなんだよねぇ」

 ロッドエンドと【銀魔邪炎】は同一人物かもしれないという考えもあったが、それは否定された。

「そしてなぜ【銀魔邪炎】がそこにいたかという不可解な点が出てくる」

「そうなんだよねぇ」

 《六道家》を襲ったのはロッドエンドで間違いはない。そしてロッドエンドは【銀魔邪炎】ではない。ならどうしてあの場所に【銀魔邪炎】がいたのか、という疑問が出てくる。

「そして《六道家》のお嬢様を連れ去ったのは【銀魔邪炎】で間違いはなさそうですね」

「問題はなぜその場で殺さずに連れ去ったのか、ということなんだけどー」

「まぁ普通に考えたらもう喰われてるだろうな」

「生きている確率は低いでしょうね」

「う~ん」

 四大天使たちはそこが理解できなかった。なぜ連れ去った? 何か目的があったのだろうか?

「普通に考えて《六道家》はレアだ」

「おい、ウリエル」

 ガブリエルが失礼な事を言うなと止めるが、これはあくまで可能性の話でこういった残酷で失礼な事も話し合わないといけない。

「その血肉は人喰いからしたらたしかに喉から手が出るほどほしいだろうよ」

「まぁウリエルの言う事は一理ある。ならなぜその場で喰わなかったんだろうね」

「成長させて大きくなったら喰うつもりとかか?」

「可能性は無きにしも非ず。そしてそれは好都合だね」

 まだ生きている可能性がある。

「つまるところ、やっぱり【銀魔邪炎】に御同行願うしかないようだねぇ」

「また振り出しか」

「めんどくせー」

「まぁそれも仕方がありませんね」

 ロッドエンドだけでは役不足だ。情報が足らない。

「ときにミカエル」

 ラファエルが何かを思い出したかのように口を開いた。

「ん? なにかな?」

「あの三人の昇進はどうします?」

 あの三人というのはリリス、タルシシュ、サンダルフォンの三人の事だ。この三人がロッドエンドを捕まえた。だから何らかの褒美を与えるべきだとラファエルは言うのだ。

「そうだねぇ。正直なところ、今総隊長を辞められたら困るんだよねぇ」

 リリスは主天使の総隊長をしている。昇進するということはもう主天使ではなくなるという事だ。

「他にそれが出来そうなのはいねーのか?」

「いるにはいるんだろうけど、リリスが優秀だからどうしても今のままの方が何かと楽なんだよ」

「まぁ言わんとしていることはわかりますが」

「んじゃ他の二名は?」

「彼らはまだ実力が伴ってないよ。まだ上へあがるのは力不足だね」

「おいミカエル。やはりリリスに何もないのは可哀想じゃないか?」

 たしかにあれだけの事をし、三人の中でも一番上のリリスに何もないというのは、さすがに酷すぎる気がした。

「まぁそうなんだけどさー。今辞められちゃうと困るんだって~。後釜が出来たら直ぐにでもって事で。それかガブリエルがどうしてもって言うんなら、抱擁でもしてあげれば?」

「……」

 冗談なのか本気なのかわからなかった。ミカエルは真顔で冗談を言うのでとても困る。

「まぁ冗談はともかくとして、リリスには僕から言っとくから大丈夫」

 天使長のミカエルから直々に言われれば、それは光栄なことだろう。それだけで褒美になるかもしれない。



「っとまぁそんな感じだから」

 その後ミカエルはリリスにことの説明をした。いきなり部屋に天使長のミカエルがやってきてリリスはひどく慌てた。

「了承しました」

 そう答えるしかない。昇進するには何か大きな手柄も必要だが、単純に力がいる。それをあの二人はまだ満たしてないというのはリリスにもわかる。

「ま、君はさ、特例だからね。期待はしているよ。それと引き続き捜索をお願いする」

「はっ、勿体ないお言葉で」

 捜索活動が今後も行われるのは予想がついていたので、さほど驚きはしなかった。

「あの、ミカエル様」

「なんだい?」

 本来なら聞くべきことではないし、知らされなくてもいいことだ。でもリリスはそれが無性に気になった。

「一つ聞きたいことがあります」

 答える必要はどこにもない。

「言ってごらん。それが今回の報酬でいいならね」

 リリスはそう言われても迷う事なく聞いた。

「……私共がロッドエンドを捕まえる直前、彼は会っているはずです。その事について教えてください」

 あの場所には確実に何かがいた。少なくともベルゼブブと青龍はいたはずだ。そして最低でもあと一人。

 ミカエルは隠すこともなく言う。

「残念ながら記憶を消されていてね。そこはわからなかったよ」

「……そうですか」

「それじゃ」

 必ずあそこにはいたはずだ。自分がもっと早くたどり着いていればそれは解明されていただろう。自分の弱さばかりが目につく。このままじゃダメだ。もっと強くならなければとリリスは思った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る