第35話 再会

 そして明朝。

「さて行きますか」

 天界の天使三人は噂の変な強い奴がいるという山を目指す。あれからまた少し情報を収集しておおよそである山を突き止めた。

「ほんとにいるんですかねぇ」

「さぁわかりませんが、気を付けなければならないですよ。決して気を抜かないように」

 実は山を突き止めると同時にもう一つ情報が入ってきた。それはその変な奴が黒い炎を使うということだ。

「【銀魔邪炎】の可能性がかなり高いですしね」

「……ロッドエンドという魔族が【銀魔邪炎】ということになるのでしょうか?」

「おそらく」

 タルシシュは肯定したが、それに異を唱える者が一人。

「いえ、きっと違いますよ」

「え?」

 二人は思わず聞き返していた。

「ロッドエンドといのは魔族でしょう? 魔族はそんなに長く生きれませんしね」

「――あっ」

 失念していた。そうだ。そんなことはありえないことだ。ただの魔族が永遠に近い時を生きるはずがない。

「しかし、何かしらこの事は勘違いがある気がするんですよ」

「と、いうと?」

「おそらく変な強い奴は【銀魔邪炎】ではない。しかしあの時にあの場所にいたのは間違いがないでしょう。どこかで食い違っている。まぁこれからその全ては解明されるんでどうでもいいですけどね」

「はぁ」

 もはやリリスが何が言いたいのかもわからなくなってしまった。考えても仕方がない。リリスの言う通り、これからその謎を解き明かせばいいだけの話だ。

「行きますよ」

 三人はゲルの国を出たのだった。







 その後、二人はクロヤシャが言っていた山へと向かった。夜見は輪廻に内緒でロッドエンドを既に捕まえていた。しかし探し当てるのも復讐の一つだと輪廻に言われて、どこにいても分かる様に首輪をつけて逃がしたのだ。その反応が自分たちの向かっている方向と重なっていた。恐らく本人なのは間違いない。問題は輪廻が敵を目の前にしてどういった行動をとるかだ。

 復讐をしろと言ったのは夜見でそれを承諾したのは輪廻だ。しかし本当に復讐が出来るのか夜見は輪廻を疑っていた。夜見がそんな事を考えているとは露知らず、輪廻はいつもと変わらない様子だった。夜見にはそれが逆に不安だった。

「ねぇ、まだかなぁ?」

「ん? あぁ、あの山を越えて次の山だろうな」

「そっか」

 輪廻はそっけなく返事をした。平常心。

「ちょっと聞きたい事があるんだが」

「なに?」

「今でもあの男が憎いか?」

「……」

 その問いに輪廻は即答しなかった。ひと呼吸おいて「絶対殺す」という言葉が返ってきた。

「私はね、あの時に決めたのよ。夜見も知ってるでしょ? 絶対に復讐をしてやるって。私の気分がおさまれば……それでいいのよ。相手がどうなろうが知ったこっちゃないわよ」

 気がすまなかったらどうなるのだろうか。このまま会わせても大丈夫なのか。精神がついていかないのではないか。たしかにあの頃よりは確実に成長はしている。復讐したいという気持ちも薄れてはいない。しかしそれでも夜見は何かが引っかかる様な気がした。

「そんな心配しなくてもいいよ。綺麗に殺してあげるつもりだからさ」

 そんな事を笑顔で言う。まるで自分を奮い立たせているかの様だった。自分を落ち着かせる為にキセルをくわえる。

 山を超えるとそこには草木一本生えていない山が目の前に飛び込んできた。草木は枯れたのではく、存在そのものがなくなってしまったかの様な感じだ。

 輪廻は夜見に視線をやり、それに気がついた夜見は両手を胸の高さまであげた。明らかに異質。その山は、いや、すでにそれは山とは呼べないかもしれない。別の言葉で表すなら牙城。生物は近寄らないであろう異質さ。二人はそれを見て確信をする。間違いないと。

 夜見が隣を見ると、そこには全く余裕のない表情をした輪廻が前だけを見据えていた。夜見は「はぁ」と溜め息をつき、右手を前に出した。すると掌からは透明な箱の様な物が現れて、それは一瞬で巨大になりその牙城をすっぽりと包み込んだ。

「……いいぞ。暴れても」

 そう言われて輪廻は無言で夜見を見る。

「……」

「洸気を使っても構わない。ここからはお前の好きにするといい」

 輪廻は視線を外すと、キセルをギリと噛み締めて前に飛び出した。

「やれやれ」

 一人取り残された夜見はゆっくりと輪廻の後を追ったのだった。



 牙城の裏手には一つの大きな洞窟があった。暗く、深く、全てを飲み込んでしまうかの様な闇。輪廻はその洞窟の前に立っていた。

この中から気配がする。確実にこの中にいる。でも――。

 罠かもしれないと輪廻は思った。たとえ敵が目前に迫っているといっても何も考えもなしで危険な場所に飛び込むほど馬鹿ではない。輪廻は頭の中を必死で整理する。

「殺す前に聞かないと……」

 それはなぜ、自分たち《六道家》を狙ったのかいう疑問だ。おそらくは後ろに誰かがいる。それは間違いない。それを誰なのか聞き出す。後に殺す。これが輪廻の考える順番だ。

 真っ暗な洞窟の前に輪廻が立っていると、夜見が追いついた。

「どうした? 入らないのか?」

「……」

 輪廻は目を閉じて今一度覚悟を決める。そして目を見開き、神気を纏った。その時だった。

 ズズズ。

 洞窟の中から音がした。それを聞いた輪廻は妖刀紅桜を持ち、構える。

 ズズズズズズ。

 その音は次第に大きくなっていく。

 ズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズズ。

 何かを引きずるかの様な音だった。暗闇の中に微かに動くそれが視界に入る。それは次第に鮮明になっていき、それは二人の前に現れた。

「……」

「……」

 左足を引きずり戦闘を終えた直後の様で衣服はボロボロ。頬はこけていて生気がまるで感じられなかった。それでも二人は見覚えがあった。間違いはない。

ロッドエンドだ。

 二人とも口を開かなかった。三人の中で一番最初に言葉を発したのはロッドエンドだった。ただ一言。

「……こ……ろ……してくれ……」

 ただ一言そう言った。二人は呆気に取られている。これがあの時のロッドエンドなのかと。その姿はまるで別人だし、あの強気なロッドエンドがそんな言葉を言うとは思わなかったのだ。夜見は口を挟まずに二人を見つめている。ここからは二人の問題なのだ。

「な……にを言っているの……?」

 輪廻は次第に怒りがこみ上げてきた。

「何を馬鹿な事を言ってるのよッ!」

 怒りの形相となり、輪廻はロッドエンドの胸ぐらを掴み締め上げていた。

「何を言っているの? 何を言っているの?」

「殺して……くれ……」

 ロッドエンドはそれしか言わなかった。そしてその言葉は輪廻にとって許せないものだった。


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