第34話 別れと約束

 日付も変わり翌日。

「ぐはぁ~っ」

 そんな呑気な欠伸をして夜見は目を覚ました。

「起きるの遅い」

 そんな夜見に文句を飛ばす。伸びをし、再び欠伸をする。

「昨日は色々な事があって疲れたからな」

 白々しくもそんな事を言うと鼻で「ふん」と、いなされてしまった。この国来て一日も経たないうちに面倒事に巻き込まれてしまった。だからゆっくり寝るのは当然だと夜見は主張したいのだ。

「まぁ目的地は決まった訳だし」

 昨日あれから輪廻は夜見にクロヤシャから聞いた事を話した。山の洞窟に住む変な奴。それを聞いた夜見は「とりあえず行ってみるか」と次の目的地をそこに決めた。

「でもその前に下に降りて何か食べようよ」

「それは賛成だな」

 二人は部屋を出て一階の酒場に向かう。そして適当に注文して物が出てくのを待っていると輪廻が口を開いた。

「あの二人……どうなったかな?」

 輪廻には少なからずミサの気持ちがわかる様だった。元は自分もお嬢様であのまま過ごしていれば今回の様な感情が自分にも生まれたかもしれない。そう思うととても他人事とは思えなかった。そして何よりもその姿かたちがソックリなところがまた拍車をかける。

「……見に行ってみるか?」

 夜見が言うと輪廻は満面の笑みで頷いた。

 城に向かっていると不意に「あれ?」っという声が聞こえた。そちらを見れば今回の騒動の発端となったミサがいた。

「どうしたんですか? お二人とも」

「気になって様子を見に来たのよ。その後は?」

 そう問いかける輪廻にミサは微笑み答えた。

「おかげさまで」

 その答えにまた輪廻も微笑んだ。それ以外の返答は認めない。だからその通りで良かった。

「お前こんな所で何をしている? またあの父親に文句を言われるぞ?」

「その心配はもうありませんよ」

「どういうこと?」

「この国の中でなら私は自由に行動してもいいのです」

 嬉しそうにミサは言う。

「へぇ。良かったじゃないか。よくあの父親が許したな」

「えぇ。これもお二人のおかげです。ただし外に出る際には護衛付きですけど」

 そんな言葉を悲しげに言うのではなく、ひたすら嬉しそうに言っているので護衛というのはあの魔弾使いのことなのだろう。

「城に寄って行かれますか?」

 夜見と輪廻は顔を見合わせ答えた。たしかにその提案はとても魅力的だ。もっとミサと仲良くなりたいし話を聞きたい。でも自分たちには優先する目的がある。

「いやいい。このまま俺たちは次の場所に行く」

「そうですか」

 ミサは少し寂しげに言った。

「また来た時に寄らせてもらうわ」

 輪廻のその言葉にミサの顔がパッと明るくなった。

「ぜひお待ちしてます。でもいいですね。私も旅、したくなっちゃいました」

「楽しいよ。たまに変な事に巻き込まれるけど」

 その言葉にミサはそうくるかと目を見開き答えた。

「耳が痛いですね」

 二人は笑い合っている。

「さて、そろそろ行くぞ」

「は~い」

「お気をつけて」

「じゃあ、またねミサさん」

「えぇまた。輪廻さんに夜見さん」

 お互いに手を振り別れた。ミサは歩いて行く二人の姿を、いつまでも見えなくなっても見つめていた。

 羨ましい。単純にそう思った。お互いが信頼をしている。その絆の強さにミサは憧れた。あんな風になれるのかと少し心配になったが、絶対にあの二人を超えてやると気持ちが大きくなる。目標を持てたことに感謝をして再会を心から願った。

「ミサ」

 不意に自分を呼ぶ声がしてふりかえった。クロヤシャだ。

「そんな所で何してるんだ?」

「今、見送ってたんです」

 少し寂しげだった。

「あの二人をか?」

「はい」

 クロヤシャは少し沈黙し、言いづらい様に重く口を開いた。

「なぁ……【銀魔邪炎】……の伝承……知ってるか?」

「もちろんです」

 ミサは即答した。

「魔界で知らない人なんていませんよ」

「だよな……。あいつ……どう思う?」

 ミサは二人が去った方角を見つめ言った。

「違うと思います。だって私たち生きてますし」

「でもなぁ……」

「でもそうであってほしいですね。【銀魔邪炎】と知り合いなんて自慢いっぱいできますよ」

 笑いながらミサは言いふりかえった。

「そういう問題か? 僕は確実にあのとき殺されると思ったし出来ることならもう会いたくないなぁ」

「残念ですけど再会の約束しましたから」

「……」

 クロヤシャは言葉も見つからずに口を開け愕然とした。あれは災厄に近いというよりも災厄そのものだと言える。それほどまでに異質で不吉な存在だった。でも自分の信頼する人物が言うのだからそれに応えなければならない。

「さぁ行きましょう。また色々連れて行ってください」

 クロヤシャはやれやれと思いながらミサの手をとり、二人は街の人ごみの中に消えて行ったのだった。


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