第32話 魔弾
「っとまぁこんな感じで今に至る」
輪廻は得意げに話した。
「ざっくばらんだな」
夜見は呆れた様に言った。
「まさか麒麟を従えたとは……いやはや恐れいったよ」
麒麟が誰かに懐いたという話は本当に聞かない。そもそも姿すら見せない。これは確実に輪廻の中にある王族の、《六道家》の血なのだろう。
「麒麟ちゃん、ありがとね」
輪廻は麒麟の顔を包み込む様にして礼を言った。
「おい。神獣に『ちゃん』付けはどうかと思うぞ?」
「え~別にいいじゃない。ね~麒麟ちゃん」
輪廻の言葉に反応し麒麟は首を縦に振った。夜見はそれを見て無言で両手を胸の高さまで上げたのだった。
そんな事をしていると麒麟が今来た方向を見つめた。それで一同も何事かと同じ方向に視線を向ける。黒い点が見えた。それはこちらにどんどん近づいて来ている。全員が人だと理解した時には土煙を立てて城の壁に激突していた。
「いてて……」
もうもうとしている中、夜見は輪廻を見ると結界によって守られていた。麒麟が結界を創り守ったのである。
視線を土煙の方へと移動させるとそこには一人の青年がいた。
「大丈夫ですか?」
ミサが声をかけ近寄って行く。その土煙の中にいたのは紛れもない今回の騒動の人物、クロヤシャだった。
「ミサ? ミサか?」
「はい。ミサです」
「本当に? あの暴力女じゃないんだな?」
ミサは暴力女が誰のことかは知らなかったが、少し考え自分と同じ見た目のあの人だろうと思いつつも答えた。
「……私は暴力など振るいません」
そんな二人のやりとりを見ていた暴力女が口を開いた。
「ちょっと。誰が――」
と言い終える前に口を挟んだ者がいた。
「誰が暴力女だっ!」
夜見だ。なぜかその顔は不機嫌丸出しだ。眉間にしわをよせ、口は八の字になっている。輪廻は呆然とし夜見を見て、いやいやなんで夜見が怒るの? と思った。
「お前が例の魔族か?」
「誰だあんた?」
「お前が間違って連れて行った奴の連れだ。お前のせいで面倒くさいことに巻き込まれたんだがな」
「あぁ暴力女の」
その言葉に夜見は冷たい声で言った。
「……どうやらお仕置きが必要みたいだな」
「ハッ。返り討ちにしてやるよ」
「「ちょっとー」」
同じ顔をした二人が声を合せ言った。どうにもこうにも二人は性格が合わないらしい。会ってまだ少しだがそれをお互いに感じ取ったのだろう。だからケンカ腰になった。
「なんでこうなるかな……」
「なんだか……お互い嫌っているのが手にとる様にわかりますね」
二人は呆れた。どう説得したところで気がおさまるとは到底思えない。だったらやり方はシンプルだ。ここは魔界。その解決の方法は一つしかない。
夜見は左の掌を上に向け、前に差し出した。すると掌から透明な丸い箱の様な物が出現した。
「なんだそれ?」
クロヤシャはそれが何なのかわらず聞いた。するとその透明な箱は一瞬で大きくなり城を包み込んだ。
「これは結界だ。この結界内の気が外にもれない様にした。この中で何が起きても外には伝わらないし俺のことを知ってる奴しかこの結界は認識できない。だから――」
「へぇ。便利だな」
「存分に暴れていいぞ」
夜見はクロヤシャを挑発した。そしてクロヤシャはその挑発に乗ることにした。
「じゃあ遠慮なく」
クロヤシャは腰から闇より黒い一丁の拳銃を取り出す。それを左手で持ち前方に向けた。もちろんその銃口の先には夜見が立っている。
「逃げないの? 撃っちゃうよ?」
「ご託はいい」
その言葉にクロヤシャはニヤリと笑い、拳銃の引き金を引いた。ドンという、けたたましい音が鳴り響く。銃口からは煙が出て弾は勢い良く発射された。
ふっ、と左に身体をずらし夜見はその弾を見事に避けてみせた。
「中々やるじゃないか。まさか避けられるとは思ってもみなかったよ」
クロヤシャは避けられたのに余裕の表情をしていて、それを夜見は無言で見つめている。すると一瞬、風を斬る様な音がし夜見は再び身体を捻った。先程発射された弾が後ろから飛んできたのだ。
それは、魔弾。気を弾丸に込め、自由自在に操る事が出来るというもの。説明では簡単だが実際に自由自在に操るのはかなりの高等テクニックが用いられ魔弾使いは少ないとされている。弾丸を空中で止め、弧を描き、相手を何度も貫く。魔弾が外れる事はない。極めれば一秒弾丸一発で百人は殺せるという。
後ろから飛んできた魔弾を夜見は見もせずにまた避けてみせた。魔弾はクロヤシャの目の前で止まり、次の機会を伺っている様に見える。
「あんたやるねぇ。じゃあ少しスピードをあげるよ」
すると魔弾は夜見の周りをもの凄いスピードでまわり始めた。
「ふむ。中々いい腕しているじゃないか」
それでも夜見は余裕たっぷりだ。それがクロヤシャには気に食わなかった。魔弾の軌道が変わる。夜見の後頭部目掛けて上から下に貫いた。クロヤシャは確実に殺ったと思った。が、魔弾は夜見を捕えることなく地面へと消えていった。
「おしかったな」
そんな言葉を口にしクロヤシャに視線を向けると笑っていた。
「ふふふははは、あははっはー」
クロヤシャは声をあげ大笑いしだした。
「あんた最高だよ。なんで避けれるんだ? でも見くびってもらっちゃ困る」
言い終える瞬間、クロヤシャは右手の人差し指と中指を立てて、下から上に振りあげた。すると先程地面へと消えたはずの魔弾が再び現れたのだ。魔弾は夜見の顔に目掛けて向かっていった。パッと赤いしずくが散る。夜見はなんとかギリギリで魔弾をかわしたが、しかしその頬には一瞬だけ一筋の赤い線が入った。しかしそれが一瞬で消える。
超速再生。傷を負った瞬間から再生が始まる、夜見の異形の身体の代名詞とも言える能力の一つだ。
「あれ? 今たしかに当たったと思ったんだけど……」
クロヤシャは手応えがあったのにもかかわらず、夜見に傷が見当たらず首をかしげた。
「なるほど。中々の使い手だな。訓練すればいい魔弾使いになるだろう」
なるだろうということは、まだそれになってないという事だ。
侮辱され、更にからくりがわからないクロヤシャは苛立つ。
「何様だ! ならこれならどうだ」
連射。魔弾を十発自分の前に出した。無音で魔弾が空中で止っている。クロヤシャは不敵な笑みを浮かべ、夜見は無表情だ。
「死ねよ」
言葉と共に魔弾が動いた。夜見に向い全ての魔弾が飛んでいくが、夜見はそれをことごとく避ける。縦横無尽に迫り来る魔弾。前後から上下から左右から、ありとあらゆる方向から魔弾が襲った。
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