第27話 城へ

 走りながら夜見は聞いた。

「あんたが城をでたのは何時だ?」

「お昼頃です」

「俺も連れと別れたのがそのぐらいだ。かなり時間は経っているな」

 ミサはうなだれ再び謝った。

「本当にすいません」

「別に謝らなくていい。それに俺の連れは逃げようと思えば余裕で逃げられるはずだ。なのに戻らないと言うことは自分の意思でそこにいる可能性が高い」

「……お強いんですか?」

 ミサは若干ためらいながら聞いた。

「あぁ強いな」

 それを夜見は笑顔で答えた。

「なんだか信頼しあっていると感じれます。……羨ましいです」

「あんたは家族がいるだろ? 信頼していないのか?」

 少し冷めた口調で答えた。

「……信用はしていますが信頼はしていません」

「ふ~ん……」

 それを聞いた夜見は、何かワケありかと思いつつそれ以上は聞かなかった。そんな時だった。

「サマ!」

 夜見は肩を持たれて呼び止められた。

「あ? なんだお前」

「あっ――すいません人違いでした……」

 そう言われて夜見は鼻を「ふん」と鳴らしてその場を離れる。

「どうしたんでしょうかさっきの人。誰か探していたんですかね?」

「あぁ、たぶんそうだろ。そんな事より、旗色があまりよくねぇな」

「……? どういう事です?」

「今の奴、天界の天使だ」

「え?」

「なんつータイミングだよ」

「な、なぜ天界の天使が魔界のこんなところに……」

「さぁな。しかしこれはうかうかしてらんねぇ。早いとことあいつを見つけださねぇと。万が一あいつが天使に見つかったら面倒なことになる」

「……何者なんですか? 貴方様のお連れ様は」

 聞いてはいけないような気がしたが好奇心の方が勝ってしまった。夜見はそう聞かれて一度目を閉じて言う。

「聞かない方がいい。それにこの状況、俺の連れの方があんたと間違われて災難だと思っていたが、仮に万が一あんたが俺の連れと間違われることがあったら、間違いなくあんたの方が災難になるだろうな」

「……御冗談を」

「冗談ではない。とにかくあいつを早く見つける。天界の天使なんぞに渡してたまるかよ」

 夜見は吐き捨てるように言った。

「それほど大事に想っているんですね。もし仮に捕まって天界に連れて行かれたらどうします?」

「天界に乗り込んで奪う」

「……よほど大事なんですね」

 ミサはその答えを冗談だと思ったが、夜見は真面目に答えたつもりだった。

「さっさと行くぞ」

「はい」

 そしてすぐにそれは目に飛び込んで来た。

「あれか?」

 視線の先には小高い丘の上にそびえ立つ一つの城が見えた。

「あれです。ですが様子が変ですね……急ぎましょう」

 あたりは薄暗くなり見えづらいが、城からは煙の様なものが見えた。夜見は無言でミサを抱きかかえた。首の後ろに右手を回し、左手を膝の後ろに回し持ち上げた。

「な……にを」

 ミサが抵抗する間もなく夜見はそのまま一気に城に飛んだ。ミサが気がつくとそこは城の前だった。

「一瞬でこんな所まで……瞬間移動が出来るのですか?」

 夜見はミサを降ろしながら答えた。

「まぁ似たようなもんだな。行くぞ。道案内を頼む」

「はい」

 二人は再び走り出した。城の中はあらとあらゆるものが壊れ崩壊していた。そして一つの大きな扉を開いた。

「お父様」

 ミサが叫ぶとそこにはこの国の王であると思われる人物、グロリー・ゲルハートがいた。

「おぉ、ミサ? ミサなのか?」

「そうです。私です。貴方の娘のミサです」

 動揺している父親に対して諭す様に語りかけた。

「何があったのですか?」

「……あいつがお前を攫っていったのだ。しかしお前がここいるということは、あの娘が言う通り、あの娘はミサじゃなかったのか……」

 グロリーが地面を見つめたまま言っているとその視界に靴が入った。そして不意に視線を足から上にあげると黒いローブを纏った見たことのない人物がいた。

「誰……だ……」

 言い終える瞬間、胸ぐらをつかまれ凄まじい力で持ち上げられた。

「あんたに聞きたいことがある」

 夜見は冷たい声で返答も待たずに聞いた。

「あんたが間違えた奴はどこに行った?」

「う……ぁ……さ……攫われた……あいつに……」

「そいつはどこにいる?」

「わからない……」

 それを聞いた夜見はグロリーをさらに締めあげ壁に叩きつけた。

「探せ。さもなくばこの国を消す」

 その言葉にミサはそれが冗談ではないと悟った。

「手掛かりはあるはずです。とりあえず落ち着いて状況を整理しましょう」

 ミサの言葉に夜見は無言で視線を送り、その手を緩めた。

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