第24話 情報収集
総隊長であるリリスは第五階級・力天使のタルシシュ、第六階級・能天使のサンダルフォンを連れて
「この国、だいぶ発展しましたねぇ」
リリスは辺りをキョロキョロしながらそんな言葉を漏らした。
「そうなのですか?」
「えぇ。昔は町だったはずなんですけど。ここまで大きくなるとは、いやはや」
昔を懐かしむように景色を見渡す。しかし、そこに過去の記憶と重なる場所などない。それほどまでに様変わりをしている。
「それでは三人バラバラになって情報を集めましょうか」
「はい」
「かしこまりました」
それぞれが散って行った。
今三人がいる国の名はゲルという国だ。そこに長期にわたり滞在をして、入ってくる情報を集める。リリスはとりあえず国の中心部へと足を運ぶことにした。そこには城があり、この国の王族が住んでいる場所だった。
「王族、か」
思い出すのは天界の
「《六道家》滅亡は偶然起きた? それとも狙われていた?」
そんな事を口にして首を横に振る。誰かに恨まれる人たちではない。それに仮に恨まれることがあった場合、それはまぎれもない天界の住人から恨まれていたことになる。それはあり得ないことだ。
天界で争いなど起こらない。そんな事を実行に移そうとする住人はいない。すべて神が見ているし、そんなこと出来るはずがないのだ。
「やっぱり、偶発的に襲われた」
それしか考えられない。うーんと頭を悩ませていると横を男三人が「お嬢様お嬢様」と騒ぎながら走って行った。
「何事でしょうか」
その後ろ姿を眺める。まぁ自分には関係のないことだろうとリリスは探索の続きを始めた。
タルシシュは一人酒場へと這入っていった。
「情報を集めると言えば酒場、という言葉があるみたいですしね」
適当に注文をして席に座る。そして耳を澄ませる。そこから聞こえてくる内容は平凡なものばかりだった。しかしその中で一つ、気になるものがあった。
それはどこかの山の中にいる変な強い奴。
「変な、強い奴、ねぇ」
しかしそれ以上の情報はそこでは得られなかった。
「まぁ一応チェックで」
頭の片隅に置いた。そしてもうしばらく情報を収集していると同じように聞き耳を立てている二人組がいるのに気が付いた。深くローブをかぶっているので素性はわからない。きっとこの国来た旅行者なのだろう。
「やはり、情報を集めるには酒場、ですね」
自分は間違っていない。同じような仲間がいることに少し安堵した瞬間だった。
サンダルフォンは当てもなく国の中をぶらついていた。
「どこにいるんですか貴方たちは……」
思わずつぶやいてしまった。ここにサマエルとアナフィエルを探しにきたわけではないが、思わず二人の影を見てしまう。探しているのは【銀魔邪炎】とロッドエンドという魔族。二人が同じ人物ならそれはそれでいい。しかしサンダルフォンの問題はそれを探し当てたところで終わらない。そんな存在するかわからない存在よりもベルゼブブを見つけたいと思った。
あの悪魔はサマエルについて必ず何か知っている。そしてロッドエンドという魔族も、おそらくは【銀魔邪炎】さえも知っている可能性が高い。
サンダルフォンの目的はリリスとタルシシュとは少し違っていた。そしてそれが危険だということを本人はわかっていない。それは引き金になるかもしれないのだ。堕天の引き金。
リリスはサンダルフォンの状態がわかっているからこそ自分に同行させた。自分の傍にいさせて監視する。危険を遠ざける。そして万が一、堕天することがあればそれを即座に処理する為に――。
「ふぅ」
最近溜め息ばかり出る。あの二人がいなくなってから自分は元気がないと自覚できている。自分が自覚できているということは、まわりから見たら簡単にわかるほどだろう。
「まったく貴方たちのせいですよ、これもあれも全部。見つけたらお仕置きなんですからね」
そのお仕置きをするときの事を想像して無理やり笑った。そんな時だった。
「何やら騒がしいですね」
人だかりが見える。サンダルフォンはその方向に近づいて行った。そこには看板が立てられていて、こう書かれていた。
『強者を求む』
ただ一言。そしてその下には衣食住完備の文字。
「なんですか、コレ」
その看板の意味をとらえようと考えていると、その答えは周りの人だかりから聞こえてきた。
「お姫様を嫁にねぇ」
「攫うって手紙がきたらしいぞ」
「それで護衛を雇ってるのか」
「いい金になりそうだ」
「気を扱えないとダメらしいぞ」
「相手は一人なのに大勢雇うんですねぇ」
内容を聞いてサンダルフォンはその全貌が把握できた。
「いつの時代にも変な人っているんですね……」
変な国来てしまったと後悔の念が押し寄せた。あまり面倒事に発展しなければいいのだがと切実に思う。あまりこの事態が大きくなると情報収集どころではなくなってしまうからだ。そうなれば業務に支障が出るかもしれない。
「とりあえずお二人に報告しなければ」
サンダルフォンは静かにその場を離れたのだった。
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