第22話 不思議現象

 あれから天界はまだ【銀魔邪炎】の捜索を行っているが何も成果がないまま歳月だけが過ぎていた。

「いい加減どうにかしないとまずいねぇ」

 ミカエルは緊張感なくそう言った。

「あれから約八十年ですか。さすがに百年は勘弁願いたいですね」

 ラファエルは苦悩し頭を横に振った。

「さすがに伝説を見つけるのには時間がかかるな」

 ガブリエルは天井を仰いだ。

「これ、いつまで続けんだよ」

 ウリエルは深い溜め息をついた。

「探そうとしているから見つからないのかもしれないよ」

「と、いうと?」

「ほら、探してるときは見つからずに、探してないときに限ってそれが見つかるってゆー不思議現象」

 それを聞いた三人は「あ~」と納得がいったようだった。

「しかし探さないという選択肢はないだろ」

「まぁそうなんだけどねぇ。本気で探さないとか?」

「意味がわからん」

「だから散歩、いや魔界旅行でもしてたらばったり会うんじゃないかな?」

「…………」

 他の三人は本気で言っているのだろうか真面目に悩んだ。

「まぁ冗談はさておき」

 冗談かとホッと一息。

「状況はとても芳しくない。《地獄道》に行った能天使は三人中二人が行方不明だしねぇ」

 あれからサマエルは見つかっておらずに、後を追うようにアナフィエルも行方がわからなくなっている。サンダルフォン、サマエル、アナフィエルは幼馴染だ。いつも一緒にいた三人。誰かが欠けるなど今までになかったことだ。三人で努力して天使になった。三人で力を合わせて能天使まで上り詰めた。いつもはケンカばかりしていた二人だが、お互いを信頼していた。

 だからあの時に、戻った時にサマエルがいなかったことが信じられなかった。あいつが負けるはずがない。あいつは強い。あいつが自分たちに黙っていなくなるはずがない。あいつが――死ぬ訳なんてありえない。

 アナフィエルはサンダルフォンの説得を踏み切って単身魔界へとサマエルを探しに行ったが帰ってくることはなく、それ以降アナフィエルを見た者はいなかった。

「手がかりとしてはベルゼブブが探していたという人物、ロッドエンドという魔族だけだねぇ。そいつが【銀魔邪炎】の可能性もなくもないけど、どうしてベルゼブブが探していたのか、という疑問が残る」

「それを言い出したらキリがありませんね」

「まぁそうだけど。どうにも違和感を感じたらしいからね。何かしらの人物なんだろうけど、その魔族も一応視野に入れるべきだし、そうしてきたんだけど、そちらも成果はまるでなし」

「これだから魔界の広さはやっかいだよなぁ」

「そうなんだよ。闇雲に探してもダメだね。ここはやり方を変えてみようかと思う」

「お次はどんな作戦で?」

「次は動かない。獲物が引っかかるのを待ってみようかと思う」

「ふーん。なるほどねぇ」

「魔界の街や国。なるべく天使が紛れていても違和感がない大きな都市に張り込みをしてみよう。そしてその場所で情報を収集する。どお?」

「いいんじゃないか?」

「そーだな」

「そうですね。やっぱり地道に何年かかっても捕まえるという我慢強さが必要ですね」

「そうだね。忍耐力がいる。これは中級天使以上の階級で行おう。あんまり一つの場所に多くいたらまずいし、三人一組のパーティーを作って潜入。以上」

 今後の方針は決まった。あとは獲物がかかればすべてがうまくいく。

 その後すぐに中級天使以上の階級の天使たちは魔界へと散らばった。その中にはサンダルフォンもいる。二人は絶対に生きている。そして必ず見つけ出すと密かに誓って魔界の地に降り立ったのだった。

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