第15話 存在

 《六道家》滅亡から二年後の天界。

「わかっていましたけど、やっぱり見つかりませんね」

 リリスは溜め息を盛大についた。

 存在が確認されていないものを探すなどそうそう見つかるはずがない。

「まったくどこにいるのやら……」

しかもあれから二年が経つが、その間で【銀魔邪炎】の目撃情報はない。国が一つ一夜にして滅びたとか、魔界の地形が一瞬で変わったとか、そういうことは何度かあったがどれもハズレだった。

「総隊長は……存在すると思って探しているのですか?」

 タルシシュはおずおずとそう聞いた。答えを聞きたいようで聞きたくない。そんな物言いだった。

「存在すると思っていますよ」

 リリスは迷うことなくそう答えた。

「なぜそう思うのです?」

 そう聞かれたリリスはズイっとタルシシュに顔を近づけた。

しまった。そこまで聞くのはまずかったかとタルシシュは思ったが、もはや後の祭りだ。

「これは内緒なんですがね」

 リリスは周りに誰もいないのにもかかわらずに小声で話だした。

「私は会ったことがあるのですよ」

「……はい?」

 何を言っているのかが理解できなかった。リリスはもう一度言う。

「私は【銀魔邪炎】に会ったことがあります」

 ニコニコ顔で言うリリス。それを見たタルシシュはからかわれていると分かった。

「からかわないでくださいよ」

 リリスは「くふふ」と笑う。

「まぁ実際いると思って探していますよ。そして見れば一目でわかるでしょう。その存在は異質ですからね」

「はぁ」

「しかし、見つからないのは深刻なことですよ。他の王族は笑顔とは裏腹にかなりのプレッシャーをかけてきますしね」

「……お、恐ろしいですね。四大天使様たちはどうなのです?」

「あのお方たちはこの捜索がとても大変なことを知っていますからね。でも内心では面白くないはずですよ。あれから二年。なんの手がかりもありませんし」

 どうしたものかとリリスは頭を悩ませる。魔界は広大だ。おまけに世界が四つもある。そのうちのどこを探せばいいというのだろうか。そして天界の管轄があるのは《餓鬼道》だけだ。他の世界に行くにはそれなりの戦力がいることになる。《地獄道》などもってのほかだ。

「でもいるとすると《地獄道》しかないのも事実なんですよね。だから《地獄道》に行く許可を今とっているとこなんですよ」

「しかしそれが中々難しいと?」

 リリスは無言で首を縦に振った。天使が《地獄道》に降り立つのは危険だ。それこそ本当に堕天してしまう恐れがある。ミイラ取りがミイラになってしまう。そんなことは避けたいというのが事実だが、それでもその場所に行かないと意味がないというのも事実。

 故に八方塞がりだ。

「もし《地獄道》に行って魔界四神と鉢合わせにでもなったら、それはそれで見過ごすことはできないでしょうし、それなりの覚悟がいることになるでしょうね」

「……最悪ですね」

「最悪ですよ。今現在魔界四神は抹殺対象ではないですけどね。あんなもの相手にしていたらそれこそ膨大な被害がでます」

「行きたくないですね《地獄道》……」

 それほどまでに危険な場所だ。しかしその危険な場所に【銀魔邪炎】がいる可能性が一番高いとされている。どうするのかは四大天使が決めることになるだろう。

 どっちの選択でも満足はしないだろうとリリスはまた溜め息をついたのだった。

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