第12話 四生

「だいぶ様になってきたな。あいつの指導も中々のもんだな」

「ぎゃはははっ。元から才能があったんだろうぜ」

「そうですかねぇ」

 雑談しているのは輪廻、青龍、ベルゼブブ。

「そろそろ夜見に勝てるんじゃねぇのか」

「いやさすがに無理ですよー。いっつも余裕の表情ですし。……あの、前から気になってたんですけど、あの人って何なんですか?」

 前に奈落に同じ質問をした時は、はぐらかされてしまった。この二人なら答えてくれるかもしれないと思いつつ輪廻は二人に聞いた。それに答えたのは青龍だった。

「ん? あいつか? あいつはちょっと変わってるからなぁ。あいつの種族はなんだと思う?」

「えっと……妖族?」

 そう答えた輪廻に青龍は「半分正解」と答えた。

「半分?」

「あいつはな、妖魔なんだ」

「妖魔? 妖魔って……?」

「そのままの意味だ。妖族と魔族が半分半分ってことだな」

「それって……」

 輪廻はよく理解が出来なかった。そんな存在がいるとは聞いていない。

「まぁ、異質だな。妖魔なんぞ夜見以外にいない。妖族と魔族は身体のつくりが違う。それが交わることは決してないが、世の中には例外と矛盾が生じる。それがあいつだ」

「お父さんが妖族でお母さんが魔族だったとか?」

 それにはベルゼブブが答えた。

「それは違うぜ。あいつに親はいない。化生けしょうだからな」

「化生?」

「そうだぜ。化生っつーのは何もないところから産まれる者を言う。妖族は全員が化生だ。他にも胎生たいしょう、卵生らんしょう、湿生しっしょうがある。胎生は母親から産まれる者、卵生は卵から産まれる者、湿生は湿気のある場所から産まれる者の事だぜ。あいつのそういう所は妖族だから、化生になる訳だ」

「はぁ~……」

 説明を聞いても輪廻には今ひとつピンと来なかった。さらにベルゼブブは続ける。

「夜見には気をつけな」

「え?」

「あいつには気をつけた方がいいぜぇ~。油断してると喰われちまうぞ?」

 輪廻はベルゼブブから青龍に視線を移動させる。すると青龍は無言で「うんうん」と頷いた。

「ちょっと首みせてみろ」

 そう言ってベルゼブブは輪廻の髪をどけて首筋を見る。

「今のところ大丈夫だな」

「あの……意味がよく……」

「あいつが妖魔で、っつー事はさっき言ったよな。あいつは妖族の部分はウェアウルフ、魔族の部分はヴァンパイアなんだ。どっちも上位の存在だが、魔族のヴァンパイアの部分に喰われるっつー意味が含まれている。ヴァンパイアは血を吸うからな」

 それを聞いた輪廻は合点がいった。

「そもそもおかしい事だらけなんだぜ?」

「何がですか?」

「あいつが誰かと一緒にいるっつーのが。俺様はてっきり食用かと思っちまったぐらいだ」

「…………」

 それを聞いて輪廻は思考が停止した。

「あぁそれは俺も思ったな」

 と、青龍が同意する。そんな二人を見て、輪廻の血の気が引いていく。

「あぁでも大丈夫だと思うぜ? 喰われるならとっくに喰われてるだろうからよ」

 そう言ってベルゼブブは「ぎゃはははっ」と笑った。

「冗談でも洒落にならないんですけど……」

「ま、何かあったら俺様に言えばいい」

「え?」

「その時は助けてやる」

 輪廻は「ありがとうございます」と礼をいう。

「悪魔は強いですもんね」

 その言葉にベルゼブブは「いや」と答える。

「相手が夜見じゃ俺様は殺されて終わりだぜ。でもお前が望むなら、俺様は未来だって飛び越えてやるし、夜見にだって立ち向かってやるぜ。この血、この肉、この魂。俺様の全てを賭けて神に誓う」

 その言葉を聞いた輪廻は、あぁ本当に元天使なんだと思った。その言葉は天使たちの口癖の様なものだ。決して魔界の者が言ったりする言葉ではない。

 それよりも未来を飛び越えるよりも、夜見に勝つ方が難しいのかと信じられなかった。まぁそこは冗談として受け取っておこう。

 黙って聞いていた青龍は「相変わらずの忠誠心だな」と呆れていた。ベルゼブブは輪廻の事を何があっても命懸けで守るだろう。たとえ輪廻が昔の事だから気にしなくてもいいと言ってもだ。それが悪魔ベルゼブブなのだ。

「まぁ、そうならない様に願ってはいるがな」

「それは私も同じです。あの人にはそれなりに感謝してますし」

 輪廻に言葉に青龍が笑って言った。

「ははっ。あの【銀魔邪炎】が感謝されるとか聞いたことないな」

 輪廻は聞き慣れない単語を聞き返していた。

「銀魔……邪炎……? 誰が?」

「いやだから夜見が……」

 ここまで言って青龍は口を閉じた。口は災の元という言葉がある。

「……【銀魔邪炎】? あの人が……【銀魔邪炎】?」

 輪廻は言葉を繰り返し、何かを考えこんでいた。青龍は「しまった」と顔を手で覆い、ベルゼブブは呆れている。

 魔界において【銀魔邪炎】とは伝説だ。魔界三大御伽噺の一つ。【銀魔邪炎】。その髪は銀髪で独自の気と黒い炎を自在に操るとされる。しかし矛盾があり、誰も姿を見たことがないと言われている。それは出会った者は命を奪われ、通った後には何も残らないからだ。そして、全ての理は意味をなさない。それが【銀魔邪炎】の伝承。

「【銀魔邪炎】の前では全ての理は意味をなさない……」

 輪廻は呟き我に返り、勢いよく走り出し部屋を飛び出していった。

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