第6話 魔界


「まずは魔界の説明をしよう。魔界には四つの世界がある。《修羅道》《畜生道》《餓鬼道》《地獄道》。この四つがある。お前の家族を殺したのは《地獄道》の住人だ。《地獄道》の連中は強い。強さだけを求める連中だからな」

 家族という言葉が出たとき、輪廻は自然に拳に力が入っていた。それに気づいた夜見は気づかないフリをして先を続ける。

「次に魔族と妖族の違いについてだが、魔族は産まれた時から力が強く人型に近い。その分、寿命があってそれは、まぁ色々だがおよそ千年の時を生きる。病気にもかかるし千年生きず死ぬ者も多い。また魔族は稀に魔気という気を操る者がいる。魔気を操ることができる魔族は凄まじく強い。反対に妖族は寿命がない。殺されるまで死なないし、仮に死んだとしてもまた同じ姿のまま生まれる。記憶を引き継ぐかどうかは、そのとき次第でほぼ受け継がない。その分、生まれたては力が弱く、長く生きれば生きるほど力は巨大になっていく。妖族に至っては皆、妖気を操ることができる。歳経た妖族は魔族よりも強い」

「妖族は死んでもまた同じ姿?」

 輪廻は理解できずに聞き返した。

「そうだ。全てのものは肉体と魂の二つに分けられる。死ねば肉体は滅びて、魂は輪廻の輪に戻る。そしてまた転生をする。妖族に至っては少し特殊でな、その存在が唯一無二なんだ。肉体は変化しない。また同じ姿形で生まれる。ただ魂が違うから見た目は同じでも、全くの別物になる。希にだが、あ~なんと説明したらわかりやすいかな……ん~……妖族の肉体Aと魂Aがあったとしよう。そいつは死にました。当然ながら輪廻転生をする。妖族だから肉体Aは変わらずにそのままだ。そしてその肉体Aに入る魂は普通魂Bになる訳だが、希に魂Aが入る事がある。つまり死ぬ前と肉体も魂も同じ場合だな。そうなった場合は前世の記憶を思い出す、引き継ぐと言ってもいいな。そういう現象が起こったりする事がある。おわかりかな?」

 そう聞かれて輪廻は「なんとなく」と答えた。

「この世の中は、輪廻転生を繰り返すんだ。誰にでも前世が存在する。世界は廻ってるんだよ。お前にだって前世がある。どこかで生き、どこかで死んでお前に転生をしたっつーことだ。ところでお前、何年生きてんだ?」

 魔界においては歳というものは重要ではない。だから夜見は生きている年数を聞いた。歳を聞くより生きている年数を聞くのが魔界流だ。

「十七年ほどですけど」

「王族の寿命は?」

「三百年ほどです」

 それを聞いた夜見は少し悲しげな顔をし「短いな」と呟いた。

「昔はもっと長く、五百年はあったと聞きますけど、今ではどんどん短くなってます」

「時間が惜しいな。さっそく始めるか。奈落、着替えを」

「かしこまりました」

 輪廻は奈落の持ってきた履き物がある着物に着替えた。

 夜見は外に輪廻を連れて行く。外に出るとそこは巨大な空間があった。城の周りは断崖絶壁で城の扉の前方だけ広いスペースがあって、その先には巨大な橋が架けられており、さらにその先に城の半分くらいの敷地があった。そこには何もなく雪だけが降っている。城の右隣には城よりも大きな枝垂れ桜の木がある。上空には満月。なんともバラバラな空間だった。

「何……ここ」

 輪廻は辺りを見渡し、思わず声が出てしまったとばかりに口を抑えていた。

「ここは俺の創った空間だ。俺と奈落とオロチしかいないから安心しろ」

「……オロチ?」

 言った瞬間、崖から風が吹いた。輪廻が振り返ると、そこには化け物がいた。紅い目。茶色い体。鋭い牙。デカイ翼に、そしてデカイ頭が八つ。頭の大きさは人の身長よりもデカイ。体はもっとデカイ。龍が八体融合したかの様なその見た目。

「な……なっ……」

 輪廻が口をパクパクさせ驚いていると、オロチに奈落が近づいて行き一つの頭を撫でた。

「大丈夫ですよ。噛み付いたりしません。この方は輪廻様。仲良くしてあげてくださいねオロチ」

 オロチは輪廻を見つめている。

「よよよ……よろし……く」

 オロチは輪廻に鼻息をかけ、崖の下に戻って行った。

「自己紹介は終わったな。ところでお前、気は使えるのか?」

「使えません」

「だろうな。んー、最初何から始めるかなぁ。やっぱ刀あるんだからそこから始めるか」

 夜見はそう言い枝垂れ桜の木の下に歩いて行く。そして右手を桜に差し出すと、幹が伸びて来て勝手に折れた。夜見が振り向くと、その手には刀の形をした木が二本握られていて、その内の一本を輪廻に投げる。

「あわわわわっ」

 輪廻は当然受け取れるはずもなく落としていた。

「かかってこい」

「……はい?」

「実戦あるのみ。身体で覚えろ」

普通に無理でしょ、と思った。これまでそのような事はしたことがなかったのだ。完全なお嬢様扱いをされ、温室でぬくぬくと育った。しかし輪廻は少し迷いながらも、刀の形をした木を握り締める。 

いや……やるしかない。家族の敵をとるんだと自分に言い聞かせた。決意したのだと。自分は強くなって家族を殺した男に復讐するのだと。泣き言は言っていられない。そして輪廻は夜見に向かって行ったのだった。




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