笑う首
祭壇とやらにやって来た。
広い。マジ広い。旅館の大広間くらいはあるんじゃねーか?婆さん儲けてんだなぁ。
だが、あんま広さは感じない。と言うのも座布団にお行儀よく座っている奴等。中年のオヤジだったり中学生くらいのガキだったり、年齢は様々だが、30人はいた。
そしてそれを遠巻きで見ている連中。水谷の門下生達。こっちもざっと30人以上。
要するに人が多いから広さを感じないと言う事だな。祭壇とやらもアホみたいにでかいし。真ん中に置いてある手がいっぱい生えた仏像もデカいし。
その中に俺と除霊勝負すると言うカレー臭の姿もある。隣の殺し屋みたいな女が俺をめっさ睨んでいるのが気になるが。
「遅いから逃げたかと思ったよ」
フッと爽やかさを演出しているように笑うカレー臭だが、ちょっと待て。
「遅くねーだろうが。一時に10分前だぞ」
俺は礼儀を重んじる男、北嶋。5分前行動を常に意識している。意識しているだけだが。
神崎達に起こされなかったら絶対に遅刻していただろうけど。
「私は20分前には来ていたんだけどね。あまりお客を待たせるものじゃない。その点から言っても君は事務所を構えるのに相応しくないと思うけど」
「お前は暇だからその時間でもいいと思うが、俺は忙しいんだよ」
「ほう?君も準備をしていたと?」
「いや、寝てた」
「それは忙しいと言わないだろ!!普通の食休みじゃねえか!!」
カレー臭が身体全体を使って突っ込んできた。ホントに飛ぶんじゃねーかってくらい、びょーん、と。
「昼飯食ったら眠くなるだろうが?」
「解るけどよ!!そりゃそうだがよ!!お客を待たせんなっつったよな!?」
「予定時間は一時だからいいだろうが?お前が勝手に早く来ただけだろ。自分勝手なカレー臭だな」
「カレー臭じゃねえっつってんだろ!!鳥谷だ鳥谷!!つかお前俺の方が先輩なんだぞ!!霊能者としても、人生でも、お前より先輩なんだ!!馬鹿にしねえで敬えよ!!」
「敬う程立派とは思えんし、馬鹿にしたつもりも無い。ただ真実を言っただけに過ぎん」
「それを馬鹿にしているっつってんだ!!!!!」
声が枯れてきたカレー臭。そんな大声を出さんでも聞えるっつーの。お客を待たせるなとかカッコいい事言っていたが、お前の大声で客ドン引きしてんじゃねーか。お前こそ客に気を遣えよ。
「お主達、そこまでにせい。依頼者が困っておろう?」
婆さんが俺の声を代弁した。敬うんなら婆さんだろ。こんな気遣いできるんだからな。
「気遣いじゃ無く当然の事を言ったまでじゃが」
「心を読むな!!油断も隙も無いババアだな!!」
「先生をババアっつうんじゃねーよこの野郎!!マジぶっ殺してやる!!」
激怒したカレー臭。このようにこんな大した事の無い、取り柄も無い男ですら慕うのだ。敬われたいのならこのレベルじゃないとイカンだろ。
まあいいや。ちゃっちゃと除霊して屋敷の散策を楽しもう。日本庭園なんかもあるみたいだしな。
「おう婆さん。もう始めてくれ。カレー臭くて敵わん」
「カレー臭いだぁ!?いや、そりゃそうだろうけど…そんなに匂うか?」
「俺からは一言だけだ。毎日風呂には入れ」
「入っているっつーの!!え?俺そんなに臭いの?マジで?」
そう言って袖から自分の匂いを嗅ぐ。自分じゃ解らないだろうから、心優しい俺は教えてやる事にした。
「小物臭がプンプン匂う」
「殺す!!マジ殺す!!本気で命を狙う!!!」
狙いたきゃ勝手に狙え。その都度返り討ちにしてやるから。つか涙目をやめろ。俺が虐めたみたいじゃねーか。
「じゃあ勝負の方法じゃが…この者達に憑いておる御霊を在るべき所に還す。これ以外は認めん。憑依を抜くだけではイカンと言う事じゃ。解ったな小僧」
婆さんがルールを提示するとカレー臭は目を剥いて驚いた。
「いいよそれで」
簡単に了承した俺にも目を剥く。
「お前…そのルールじゃ負けるんじゃねえのか?地獄落としはできねえんだろ?」
俺の心配をした訳か。ホント馬鹿だなコイツ。
「どうでもいいけど、お前ちゃんとやれよな?依頼者も霊魂も助けろよ?」
間違っても地獄に送る真似するんじゃねーぞ。そんなに悪さしている訳じゃないんだから。
「お、お前こそちゃんとやれ!!」
そう言って自分は祭壇の前に行く。儀式?術?とにかくなんかを行う為に。
全く興味ないから世界一どうでもいいけど。
「さて…んじゃサクッと終わらせっかな」
一応やる気をアピールするべく、腕まくりをして回して見せた。簡単すぎて欠伸が出そうなのを我慢して。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
こいつに調子を狂わせられながらも千手観音像の前に座し、香炉やら華瓶やらを並べて行く。
除霊の儀式だ。まあ、視た所善霊、つーかただ居るだけの霊。障りはしているが軽い。対話でも充分離れてくれる事が可能。そんなに難しい除霊じゃねえ。
あいつは地獄落としが出来ないらしいから勿論昇天も出来ないだろう。こりゃ楽勝か?
先生がやけにあいつを高く評価しているようだったから少しばかり警戒していたが、やっぱド素人。ちゃんと修行した俺の敵じゃねえって事だ。
余裕が生まれて、鼻歌を歌いながら道具を並べていると、「おお」と周りがどよめいた。
何があったと振り返ってみる。
「はああああああああぁああああ!!!?なんだそりゃ!?あり得ねえだろ!!!」
つい素で突っ込んでしまう程の珍現象をあいつが行っていた!!
素手で憑依を抜く。そりゃ聞いた。だから驚きはしねえ。いや、驚いたけど!
首に手を当てたかと思ったらズルズルと抜いて行く。依頼者の身体に全くストレスを与えずに!!
そこまではいい。いや良くねえけど、まあいい。百歩譲っていいとしよう。
あいつはそれを並んで正座している依頼者全員に行っていた。要するに、俺が振り向いた時には、既に5人以上の憑依を抜いていた!!
「あり得ねえ!!早すぎるだろ!!こう言うもんはもっとデリケートに!!」
腕をぱたつかせて抗議する。飛ぶ勢いで羽ばたいた。そんな事をしている間にも次々と抜いて行く!!
「ちょっと待てよ!!お前のそのペースじゃ…」
俺の出る幕が完全に無くなる!!
そう口に出そうとしたが飲み込んだ。
こいつは昇天が出来ない。っつー事は、今祭殿にうようよいる霊魂は還れない。
結局誰かが手を出さなきゃいけない訳だ。だったらこいつに全て抜かせてから俺が還す。
実際憑かれているのなら早い所抜いた方がいいに決まっている。あいつの能力(?)に全部任せて美味しい所を俺が全部持っていく!!
そうほくそ笑んでいると、あいつはとうとう全部の霊魂を抜いた。時間にして30分掛かっていない。マジ驚嘆に値するぜその能力…
「全部抜けたな。んじゃお前等は別に悪さをしてない。障り?っつうの?それも結果的にそうなっただけらしいからお咎め無しにしてやる。言いたい事、聞きたい事があったから憑いたんだろうが、そこは我慢しろ。人間死んでも悔いは残るもんだ。いちいち悔いを残さんように努めていたら人間なんてやってらんねえーぞお前等」
…誰に言っているんだと思ったら霊魂に言ってやがるのか?証拠に視線があっちこっちに泳いでいる。一応霊魂を意識して喋っているつう事だ。その視線の先には霊なんていないけど。視えないってのは本当らしいな…
だが、お咎め無しなのはいいとして、どうやって還すんだ?無理だろお前には?ほら、素直に泣き付けよ。仕方ねえから還すのに協力してやるよ。その場合勝負は俺の勝ちになるけどな。そりゃそうだろ?成仏までが除霊なんだ。お前がやったのはただの前振りだ!!
「んじゃ還りな」
そう言ったかと思ったら、拳を握って天を差す。こりゃ某漫画の昇天シーンじゃ…我が生涯に一片の悔い無しってヤツ?
そんな事を漠然と考えていると…
「はあああああああああああああああぁ!!?な、何でだよ!?あり得ねえだろそんな事あああ!!?」
またまた驚愕した!!あいつが天に拳を差したと同時に、霊が安らかな顔になって昇って行くじゃねえか!!
昇って行く先を見ると、天に繋がる光の穴が穿たれている!!本当に昇天だ!!
嘘だろうと何度も何度も目を擦り、確認する。
しかし、俺の目には全く同じ光景が広がっている!!
「見事じゃ小僧。先祖も使者も、神仏の御力すら借りずに自力で送れるとはの!!」
先生が満足そうに言うも、俺はその光景に目を奪われて、何の反応を示す事も出来ない。それ程までにあり得ない、信じられない出来事だった!!!
「終わったか?」
小僧が呑気に聞いてくる。だが、俺はまさに言葉を失ったままだ。なので何も返せない。ただ茫然と、今は閉じて何もない天井を仰いでいるだけだった…
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
北嶋さんの凄さは知っている。『首』の無いお腹にパンチを当ててダメージに繋げた事は勿論そうだが、もっと凄いと思ったのは、一応敵を慮っての行動であろう、男性の遊具の下半身をあげた事。
私なんて私怨で完全に滅する事しか考えていなかったのに、彼は的外れながらも『首』の無念を少しでも晴らそうとした。本来私達霊能者がやらなければならない事を彼は行った。
凄いと思った。強いだけじゃない、優しい人だと。それは霊魂を抜いた後の言葉にも現れていた。
言いたい事、聞きたい事があったから憑いた。だが人間は死んでも悔いは残る。悔いを残さないように努めていたら人間なんてやっていられない、と。
無念を晴らす事は勿論、心残りを無くする事も私達の仕事。だが、彼は人間だからそれは当然と。だから我慢しろと。
あーでもない、こーでもないと説得するんじゃ無い。人間なんだからそれは当然の事だと言ったのだ。『死んで憑りついた霊魂』に対して。
だから彼等は簡単に還った。全員が全員、こう思った筈だ。『人間だし、少しの事くらい我慢しなきゃ』と。
みんながみんな、茫然と、今は閉じた光の輪を眺めている最中に思った事だ。
尚美に目を向ける。尚美は力強く頷いたのみ。
知っていたんだ。彼が昇天出来る事を。だから微塵も疑わずに、何も言わずに祭壇に向かわせた。鳥谷先輩が何をどう画策しようが問題無い、と。
「尚美…色情霊の家でも同じ事が起こったんだね?」
確認する訳じゃないが聞いてみる。
「うん。鈴木に捕らわれていた霊魂全て同じ方法で還したよ。全員安やかなお顔になって昇ったよ」
やっぱりそうなんだ。それを最初に知ったのが私じゃなくてちょっと悔しい。
「北嶋さんは還す方法を知っていたのかな…?」
「還ったんだからいいだろ、ですって。ホントにあの人は無茶苦茶なんだから…」
呆れている表情なれど微笑んでいる。
私達同門は大きく二つに別れる。過去、悪霊悪魔に業を植え付けられた者と、支援している孤児院からのスカウト。私は『首』に、尚美は色情霊に業を植え付けられたから前者になる。
業は自ら取り払わないと意味が無いとは師匠の教えだ。だから私達は業を取り払うべく、仇を討つべく水谷に入った。
私はやや極端だが、前者の人達の表情には必ず影がある。心から笑わない。笑えない。仇を討とうと考えているんだから当然だ。
尚美は親友を殺されたから水谷に入った。しかも高校卒業後。私達よりも遅れて入ったのだ。
一人で悪霊討伐に出られるまで相当頑張った。先に入った私達よりも強くなった。それはたゆまぬ努力の結果だが、そこまでの過程は生易しい物じゃない。
挫折しそうになったり、力不足に嘆いたり、過剰過密な修行で身体を壊しそうになったり。笑える余裕なんて無かった。
そんな尚美がこんなに柔らかく笑うなんて…
北嶋さんは尚美も救ったんだ。だからこんなに穏やかに笑えるんだ。
私もそうなったのだろうか?暗い表情が無くなったのだろうか?
尚美を羨ましいと思う心は一体なんだろうか?そんな心でこんなに晴れやかに笑えるのだろうか?
そんな嫌な考えが私の頭をぐるぐる回る。
いやだ、こんな自分…本当に嫌だ…
自己嫌悪で頭がおかしくなりそうだった。だが、そんな私を救ったのは意外な一言。
「いくら霊力が強くても体力が無けりゃ霊能者としてやっていけない!!」
黒刀先輩の横やりで、私のおかしな感情が流された。自分の心よりも黒刀先輩の言葉の方を向いたのだから。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そんな馬鹿な、と思った。
素手で霊を抜く事は聞いていた。半信半疑ながら見た奴等が沢山いるんだ。間違いないだろうと思った。
それは私の目の前で実際行われた。完全に信じた瞬間だった。
そこまではいい。納得できない部分があるが、飲み込もう。実際抜いたんだから。
一応霊視で視ていたが、引っ付いた霊だけが抜けていた。依頼者の魂、肉体に一切の損傷も無く。
そこもまあ納得できる部分だ。憑りついていたとは言え、障りは深くない。言ってしまえば、ただ引っ付いていただけだからだ。
その後だ。30人くらいいるだろう依頼者に憑いている霊を全部抜いた事だ。それも誰一人としてストレスを感じることも無く。
これは流石に仰天した。あの短時間で全ての霊魂を抜くなんて!!
私がやったら、ただ抜くだけでも三日以上、下手すりゃ一週間は掛かるだろう。離れて貰えないかと真摯にお願いして回るだけでも相当な労力を強いられる。いくら障りが浅かろうが、実際に障っている事に間違いないんだから。まあ、その過程で帰ってくれる霊魂も結構いるだろうから、
その昇天も驚愕だ。あいつはただ拳を掲げただけなのに、全ての霊を天に還した。ちゃんと死者を導く光の輪も出現していたし、本当に素人かと疑ったくらいだ。
あらゆる儀式を全て省き、何の負荷も与える事無く全て終わらせた。そんな出鱈目なモン、少なくとも私は知らない。
「見事じゃ小僧。先祖も使者も、神仏の御力すら借りずに自力で送れるとはの!!」
師匠の一言で我に返る。そういや師匠は自分より上だとあの野郎を評価したらしいんだった。最初は世辞か何かだろうと思っていたが…
額から汗が流れ出る。知らず知らずに拳が握り固められる。
…認めねえ!!認めねえぞ!!世界最高峰より上なんざ、誰が認めても私は認めない!!
師匠は私の目標なんだ。私が師匠を追い抜くんだよ!!誰も私には敵わないと、流石水谷の後継者だと言われるんだ!!
ぽっと出のド素人がこれ以上しゃしゃんじゃねえよ!!
「いくら霊力が強くても体力が無けりゃ霊能者としてやっていけない!!」
鳥谷と約束した言葉が出た。
このタイミングとか、もっとこう言った方がいいとか色々考えていたが全部頭から飛んで行った。
単純に自分が言いたかったから言った。
私は絶対に認めない。私の目標より上だなんて戯言は認めない!!
鳥谷は気に食わないが、あの野郎はもっと気に食わない!!鳥谷と一緒にあの野郎をぶっ殺してもいいと思う程度には気に入らない!!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
なんかいきなり叫ばれたと思ったが、あの殺し屋が文句を言って来たのか。
そりゃそうと終ったか聞きたいんだが。誰も教えてくれんとは、やる気があるのかこいつ等?
まあいいや。取り敢えず横やりを入れてきた殺し屋に聞いてみよう。そう思い、そいつに目を向ける。
「おい殺し屋」
「殺し屋!?私の事かよ!?」
お前以外誰がいるって言うのだ?ヒットマンリボーン宜しくな黒ずくめの格好をしやがって。黒の組織かよ?
ん?黒の組織と言えば名探偵コナンだな?つーことはこいつも心霊探偵か?この俺と被るなんざ生意気にも程がある。
「おい殺し屋。要するに俺に喧嘩売っているっつー事か?」
俺のパクリなんざ俺に喧嘩売っている以外にない。俺は心優しい北嶋なれど、売られた喧嘩は全て買うのが信条なのだ。
「お前?まさか女の私をぶん殴ろうとか思っているのかよ!?」
殺し屋がビビッて身体を引かせて引き攣る。掲げた拳そのままに殺し屋目掛けて歩いたからだろう。
「女だろうが関係あるか。質問に答えないばかりか喧嘩売って来た奴に性別の関係があるか。俺は男女平等主義なんだ」
「質問!?なんの質問も受けていないぞ私は!?」
まだ聞いていなかったっけか?まあいいや。じゃあこの機に聞いてみよう。
「全部還ったか聞いているんだよ。俺は見えないから解らんのだ」
「お前…マジで視えていないってのかよ…それであれか…?ああ、全部還ったよ」
終わったって事か。じゃあこの掲げた拳は降ろしていいな。
「おい…なんで拳骨握ったまま詰め寄って来るんだよ!?」
「いや、終わったんなら、今度は喧嘩売って来たお前をぶっ飛ばそうと思って」
「教えてやったのにその仕打ちか!?お前どんだけ鬼なんだ!!大体私がいつ喧嘩を売ったよ!?霊能者は体力が無いとやっていけないって言っただけだろうが!!一般論だよ!!」
ほう。一般論か。俺はこの業界に入りたてだから、と言うより昨日入ったばかりだから解らんかったが、成程そうか。言われてみりゃその通りだな。エアぶん殴るの最中も結構疲れたし。
「黒刀先輩、いきなり何なんですか?」
俺と殺し屋の間に入る神崎。俺を止めている形になっている。喧嘩売って来たのは向こうなのに。
ん?売られたっけ?まあいいや。売られたんだよ、きっと。俺に勘違いなんてある筈が無いからな。俺は全てにおいて完璧な男なのだから。
「いきなりも何も…こいつにも言ったように一般論だろ?尚美、お前もそう思うだろうが?」
「それは…そうですけど…」
神崎が俯く。やっぱ霊能者は体力勝負なんだな。
「そ、そうだぜ!!この業界は体力が無いと駄目だ!!いろんな場所、様々なシチュエ―ションで戦う事になるんだからな!!」
何故か喚起して乗っかってくるカレー臭。つーかお前の出番は終わっただろうに。俺の圧倒的勝利と言う形でめでたしめでたしで終わっただろうに。
「北嶋さんの体力は鳥谷先輩よりも遙かにあると思いますよ」
桐生が殺し屋の後ろから援護した。見た目も俺の方が体力がありそうだろうし、実際そこは疑うべき余地はない。
「つーかお前との勝負には勝っただろうが。負け犬は約束通り言う事を聞いてからちゃっちゃと引っ込め」
邪魔くせーカレー臭を手を払って追い払う仕草をする。
「ま、まだ負けてねえよ!!言っただろ!!体力が必要だってな!!」
何だよこいつ?負けを認めないって事かよ。しゃーねえな。
「要するに体力勝負したいっつー訳か?無様に負けて更に追い打ちを喰らいたいと。そう言う事か?」
「だからまだ負けてねえっつってんだろ!!」
リアルに地団駄踏んだ奴初めて見たぞ。つかこいつマジうぜーな。面倒になって来たな。
ぶん殴って全て終わらせようと思ったその時だった。
「黒刀と鳥谷の言う通り、霊能者には体力も必要じゃ。お主等は庭に出て体力勝負をやるがいい。祭壇を壊されては困るからの」
婆さんがこれを是とした。糞面倒だな。しかしこれから俺を潤してくれる元請さんの言葉には極力逆らうまい。
実際このゴタゴタ、ライブで見ている依頼者に示しがつかんしな。解り易くケリを着けなければならん。これからの俺の評判にも繋がる。
「よし、解ったカレー臭。お前の言う通りにしてやろう。取り敢えず庭に出るか」
「お、おう…あっさり了解してもらえると不気味なんだが…まあいいや」
そんな訳で俺達はアホみたいに広い庭に出た。興味津々の30人の依頼者と共に。
「じゃあ体力勝負の方法だが、居たってシンプルに行こうか」
カレー臭が腕を組んでニヤニヤしながら言う。
「勿体ぶらずに言え。俺は北嶋。どんな勝負でも受けてやる。気分次第で」
面倒くせえ気分が
「本当にムカツクなお前…まあいいや。勝負の方法はなあ…」
カレー臭がさっと手を上げると男共がワラワラと俺を取り囲んだ。ざっと20人くらいか。
「鳥谷先輩!!これはどう言う事ですか!!」
神崎が声を荒げた。状況を見て察したんだろう。
「どうもこうも、空手の百人組手と同じようなモンだ!!小僧!!素直に謝ればやめてやってもいいぞ!!」
何の事は無い、俺をフルボッコにしたいっつー事じゃねーか。しかも謝ればって、声が弾んでいるぞ。チンケなプライドを護りたいが為に俺に謝罪を要求したって事か。
まあ、こんな連中俺の敵になる筈も無い。快く受けてやる。
「本当に汚い人ですね!!私の下着も盗んで!!人として最低です!!」
…今下着を盗んだ、とか言わなかったか?神崎の下着を?
「ば、馬鹿神崎!!今大勢客が居るんだぞ!!言うなよ!!せめて居なくなってから非難しろよ!!」
今慌てて止めやがったよな?つー事はマジか?
「鳥谷…お前ホントにカスだな…風呂覗きだけに飽き足らず、下着ドロまでしたのかよ…」
殺し屋の弁を辿れば、こいつは風呂覗きも日常で行っているっつー事か…つか味方である筈の男共もドン引きしているがな。
まあいいや。神崎の下着を盗んだ罪は死んで償って貰おうか!!
俺は一番近くに居た男を左の裏拳でぶっ飛ばした。
「ぐあっ!?」
そいつは派手にぶっ飛び、地面で二、三回転がった後に動かなくなる。白目を剥いて気を失ったのだ。
し~んと静まり返った庭。それ程までに唐突だったんだろう。だけどこの勝負を仕掛けたのはお前等だ。俺はただ受けただけ。
「お前は殺す…俺を怒らせたことを地獄で後悔しろやああああああああ!!!!!」
囲んでいる男共に襲い掛かる俺。目に入った野郎をぶん殴る。
ぎゃあ、とか、ぐあ、とか言いながらパタパタ倒れて行く男共。何だこいつ等?マジ弱い。この様でよく喧嘩売って来たな?どうでもいいから知らんけど。
「お、お前こういうのは合図してから…」
「うるせえええええええええ!!!これ以上お前に譲歩するかああああああああ!!!後悔しながら死ねやあああああああ!!!」
フルボッコが望みなんだろうが?じゃあ自分がやられても仕方がないだろ?加担した仲間も同じだ。
何より神崎の下着を盗んだのが許せん!!あれは俺の女!!俺の女に辱めを与えた奴を許す程器量がデカい訳じゃない!!
皆殺し確定!!お前の望みがフルボッコなら、俺の望みは殲滅だ!!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
この展開は俺が望んだ展開だ。全員で小僧を囲んでフルボッコにする。俺のささやかなプライドを護る為に、俺が仕掛けた展開だ。
だけどこれじゃねえ!!フルボッコが望みだがやられる方じゃねえ、やる方だ!!
つーかウチの野郎共も修行途中なれど、結構な場数を踏んでいる。手伝い程度だが現場にも出ている。戦闘スタイルで徒手空拳を選択している奴もいる。
要するにそこいらの素人じゃ勝てる筈がねえって事だ。霊能者は霊力が全てじゃねえ。それは本当の事だから。少なくとも基礎体力は一般人よりも高い。
それを薙ぎ払うように、薙ぎ倒すようにぶっ飛ばしているとは!?
しかも、殆どが一発で気絶しているじゃねえか!!二撃を与えたのは二、三人程度か!?
しかも、しかも!!自分は一発も貰っちゃいねえ!!絶対に当たるであろうタイミングでも紙一重で躱し、まぐれあたりを期待しての投石と軽々と避け、タックルで倒そうとしてもカウンターで膝をぶち当てる!!
何なんだあいつは!?マジ人間か!? 掠るくらいしても良さそうなもんだろ!?
「カレー臭ううううううううううあああああああああ!!!くたばれやあああああああぁああ!!!」
あいつは倒れる寸前の後輩の頭を掴み、俺目掛けてぶん投げる!!
マジか!?どんだけ馬鹿力なんだ!?つかヤベえ!!逃げないと………
「うわああああああああああああああああああああ!!?」
驚愕していたから逃げるのが遅れ…俺は下敷きになった…!!
くそっ!!退けよ!!クソ重いっつうんだよ!!
もがいてももがいても脱出できそうもない。そりゃそうだ。こいつは力士かお前っつーくらいの体格なんだから。
つーかそんな奴をぶん投げたのか!?片腕で!?
一体何度驚愕したか解らないがまた驚愕する。もういいやって思うくらいだ。
「全部片付くまでそこで大人しくしていやがれ!!」
俺が逃げると思って後輩の下敷きにしたのか!?いや逃げそうだったけど!!
しかしマジヤベえ。このままじゃマジ殺されるぞ俺!!どうにかして逃げないと…
「おい退け!!退けよデブ!!」
「ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……ヒィィィィィィィィィィ……」
ち、気を失ってやがるのか?つか器用な鳴き声で反応すんなよ!!
そうこうしている間にも悲鳴は聞こえてきて…そしてやがて静かになって…
デブの下敷きになっている俺にもう一つ影が被さる。
物凄え頑張って頭を上げる。本当に僅かにしか上がらねえが、頑張った。そして頑張らなきゃ良かったと直ぐに後悔した。
「おうカレー臭。待たせたなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
俺を見降ろした形を取っている北嶋と目が合ったからだ。俺は当然のように悲鳴を上げた。
「ひいいいいいいいいいやあああああああああああ!!!」
少ししか動かねえ頭を全力で振った、イヤイヤと。
「そうかそうか。動けないから戦えないと。よし解った。俺は心優しい北嶋。ちょっと待っていろ」
そう言ってデブをこれまた簡単に退かす。と言うかデブを蹴って痛みで転がしたんだが。
自由になった俺だが、顔を上げる事は出来ない。小僧がマジおっかねえからだ。目が合えば殺されるんじゃねえか?って思った程、俺はこいつにビビったからだ。
なので俺は即座に正座にチェンジした。
「すいませんでしがはあああああああ!!?」
土下座で謝罪途中に右頬にアホみたいな痛みが走る。
転がって、止まって、顔を上げたら小僧が蹴りの形で止まっていたのが目に入った。
こいつ、土下座最中の俺に蹴りを入れたのか!?
信じられない気持ちからか、頬の痛みが飛んで行った。
「……なに勝手にリラックスして座ってんだお前?」
我に返って再び正座にチェンジ。恐る恐るながら頑張って聞いてみる。
「あ、あの、土下座していた最中の俺に蹴りを入れだばあああああああああ!!?」
今度は左頬に鋭い痛みが走る。
こいつ、質問している最中の俺にビンタしやがった!!しかも超痛い!!つーか身体ごと吹っ飛んだ!!
「……なに勝手に飛んでんだお前?遊んでんじゃねーよ。お前から仕掛けた喧嘩だろうが?」
「い、いや、今のは不可抗力…つーかお前のせいびゃああああああああああ!!?」
言い訳最中の俺の右頬にビンタした。俺は簡単に反対側にぶっ飛ぶ。
「お前、神崎の下着盗んだんだってな?」
お怒りでいらっしゃる!!いや解るけど!!イヤイヤ、今はそれどころじゃない。どうにかしてこいつを落ち着かせないと!!
「ち、ちょっと待て!!ちょっと落ち着け!!勝負はお前の勝ちでいいから!!何でも言うこと聞くから!!」
腕を伸ばして制する。
「そうか。んじゃ二万発ぶん殴るで手を打ってやろう」
「二万発!?確実に死ぬる!!」
絶望しかなかった。俺の命は此処で終わるんだと。30年生きて来たがそこそこ良い人生だったなぁ…女子風呂を覗いたのは良かった。偶然を装っておっぱいを触ったのも良かった。心残りはリアルラブドールを試せなかった事かなぁ…
……碌な思い出が無いじゃねえか。エロ関係だけかよ、良かった事は。心残りもエロ関係だけか?
じゃあまだ俺は死ぬ訳にはいかねえ。生きてりゃこの先もっといい事があるかもしれねえ!!
「秋!!助けろ!!手を貸すっつったろ!!」
無様にも不倶戴天の敵の同期に頼る。あいつはマジムカつくが、こういう場面だ。約束もあったし心強く感じる。
秋はゆっくりと俺達に近付いてくる。その瞳に闘志を
「秋!!信じていたぜ!!」
ちょっと感動して涙ぐんだ。さっきまで恐怖で涙ぐんでいたので
こんなに同期が心強いと思った事は無い。今まで行き遅れとかババアとか言って悪かった。今度からお前にもちゃんとときめくよ。
秋はとうとう俺達の前に来た。相変わらず力強い瞳だった。
そして片膝を地面に付けて
「…お見事です北嶋様。流石は師匠が目を掛けただけはある。尤も鳥谷如きでは貴方様の敵にはなれませんでしょうが。肩透しで落胆しておられる事でしょうが、我々女子からすれば貴方様は救世主にも等しい。こいつ、女子風呂は覗くし、セクハラするしで、どうしようもない女の敵なのです。貴方様のおかげで我々女子も溜飲が下がろうものです」
「あああああああああああきいいいいいいいいいいいいい!!!?」
こいつ、土壇場で裏切りやがった!!しかも取り入っているぞ!!
そういやこいつには通り名があったな…
『手のひら返しの黒刀』
こいつはこのように簡単に寝返る事ができるんだ。強きに媚び、弱きを挫く。
先生を尊敬しているような事を言っているが、結局は先生が強すぎるから媚びているだけに過ぎねえ!!
もっとも当てにしちゃいけない奴を当てにした時点で俺の敗北は決定していた。
俺は激しく後悔した。不倶戴天の敵はどこまで行っても敵にしかならない事を改めて思い知ったからだ…
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
本気で凄い人だ。北嶋さんは普通に、普通以上に強かった。間違って殺しちゃうんじゃないかと思った程だ。
あんなに居た別館の男共をほぼ一撃で全滅させたなんて。鳥谷先輩なんか泣きそうな顔をしていたし。
だけどもっと凄い人が私達の先輩に居た。
ついさっきまで殺す勢いで見ていた北嶋さんに平然とかしづくとは!!
この身の蓋の無さ、まさしく『手のひら返しの黒刀』!!いいんですか師匠?鳥谷先輩といい、黒刀先輩といい…水谷の名前使わせていいんですかぁ!?
「さて、言う事を聞く約束だよなあカレー臭?」
「死んでもらいましょう。人類にはその方が良い」
便乗までしたー!!とんでもない事を進言しているー!!鳥谷先輩が真っ青になっているー!!
「き、北嶋さん、殺すのは駄目だからね?殺人は駄目!!」
鳥谷先輩の私を見る目が輝いている。いや、別に庇った訳じゃ無いから。その好意的な視線はやめて!!
「流石に人殺しなんかしねーよ。しかしどうすっかなぁ…」
鳥谷先輩に出来て水谷が平和になる事なんか一つしか無い。出て行って貰おう。
「あの、水谷から出て…」
生乃が此処で参加してきた。つか、いつの間にか師匠とお客様がいない。惨劇を予想して客間に移動して貰ったのか?
「桐生か…おう殺し屋。ちょっと頼みがある」
「なんなりと申し付けて下さい」
殺し屋でいいのか?さっき結構怒っていたような?つか何時までかしづいているんですか!?主君に平伏する騎士とか侍みたいになっていますよ!!
「スコップ持ってきてくれ。先が尖っているヤツ」
「仰せの通りに」
一つ頷いたかと思ったらびゅんとスコップを取りに走った。目で追えないスピードだった。
「持ってまいりました」
「おう、ごくろう。つか速いな」
「此処は庭。道具置き場も近くにありますので」
スコップを渡したと思ったら再びかしづいた。いろいろ突っ込みたい事はあるけどもういいや。面倒になったから。
北嶋さんは受け取ったスコップを鳥谷先輩の前に放る。
「穴を掘れ」
穴を掘れとは意味不明な事を…
鳥谷先輩も不思議に思いながらも穴を掘る。北嶋さんは黙ってそれを見ている。逆らわないだけでもいいのか?
一時間は経過しただろうか?結構深く掘ったけど…
「おい、なんで手を休める?まだ半分くらいだぞ」
「半分って…一体どれだけ掘れぶふぁああああああああああ!!?」
質問途中にビンタした!!
「口を開くな。黙って掘れ。俺が掲げた二万発ぶん殴るってのを忘れていないだろうな?」
それを言われちゃ口を開く訳にはいかない。と言うか少しの質問も許す気ないの?
それから更に一時間…
人ひとりがすっぽり入る深さにまで掘った。
「よし、もういいぞ」
漸く許された。鳥谷先輩が安堵する。服が凄く汚れているんだけど。汗と土まみれで。なかなか可哀想になって来た。
「よ、漸く解放された…喉がカラカラだ…水飲みたい…ぶっつべらあああああああ!!?」
穴から這い出た鳥谷先輩だが、北嶋さんのビンタで再び穴に落ちた。
「勝手に出て来るんじゃねーよ。調子乗んなよカレー臭」
穴掘って終わりじゃないのか…何するつもりなんだろう?
そしてスコップを黒刀先輩に渡す。
「埋めろ」
その一言で全員が真っ青になる。生き埋め?それはちょっと駄目でしょう!?死んじゃうじゃない!!
「ちょっと待て!!流石に死んでじまぶふううううううううううう!!!」
抗議する鳥谷先輩をまたビンタで黙らせる。と言うか黙るしかなかった。本気で痛いんだろうな、あのビンタ。喰らう度に涙目になっているし。
「首だけ出せよ。死んじゃったら婆さんが困る」
ホッとした。一応生かす気はあるみたい。師匠の為って言うのが微妙だけど、まあいいとしよう。
じゃなくて!!じゃなくて私!!いくらなんでも酷いでしょそれは!!流石に止めなければ…
「喜んで!!」
止める前に黒刀先輩が土を戻し始めたー!!今日一番の輝いた瞳を以て!!
「ば、馬鹿、秋!!死ぬ!!マジで死んじゃう!!」
訴えるも聞きやしなかった。嬉々として作業してはいるけれど。
「黒刀先輩!!それは可哀想です!!やめてください!!」
「神崎…俺を庇って…もしかして俺に惚れている…?」
「埋めましょう。声も出せないくらい埋めましょう」
「俺には絶望しかないのか!?」
いや、普通に気持ち悪いし。なんで自分の下着を盗んだ男に惚れるのよ。どういう思考回路よ。
まあ兎も角、喜んで埋めている黒刀先輩。やめてやめてと泣き叫ぶ鳥谷先輩。やめるかバーカと黒刀先輩。そんなやり取りが小一時間…
遂に鳥谷先輩は顔だけ出して全部埋まった。
「ううううう…酷過ぎる…」
泣きそうな顔を超えて遂に泣き出した。気持ちは解る。
「おいカレー臭、泣くんじゃねーよ。俺が虐めたみたいじゃねーか」
「みたいも何も、お前が虐めているんだろうが!!現実的にぎゃああああああああ!!!」
苦情もビンタで黙らせる。この人何処まで非道なの!?流石に引くんだけど!!
「お前は俺に難癖付けて喧嘩を売って来た。更に神崎の下着も盗んだみたいじゃねーか。本来なら二万発ぶん殴ってから三途の川を泳がせるところだが、これくらいで勘弁してやる」
「それって死んでないか俺!?」
三途の川を泳ぐと言う事はそう言う事だろう。
「不満なら最初のプランに戻してやってもいいぞ?」
「不満なんかある訳ねぇ!!これで充分だ!!」
涙を流して同意した。せざるを得ないからだが。しなかったら三途の川を泳ぐ羽目になっちゃうしね。
「不満じゃないならなんで泣いているんだ?」
「……え?」
「笑えよ?俺が虐めた訳じゃねーんだったら。不満が無いなら笑え」
物凄い頑張って無理やり笑う。顔があっちこっち引き攣っている。
「なんだその硬い笑顔は?もっと心から笑え」
凄い無茶振りなれど、鳥谷先輩は頑張った。恐らく、修行でも仕事でも、これ以上頑張った事は無い程頑張った。
結果、邪悪で醜悪な笑顔が出来た。
しかし…これ見た事あるような…しかもつい最近…
考えている私だが、生乃の一言で合点がいった。
「これ…『首』みたい…」
昨晩倒した伊田と言う侍の首にそっくりだったのだ。首から下が埋まっているから、遠目で見れば浮いているようにも見えるし。
「北嶋さん凄いよ…こんな場面でも私の事を慮ってくれるなんて…」
「これをどう捉えればそう思えるの!?」
「え?だって私の憂いを晴らしてくれたんじゃ…?『首』を倒してくれたし、私にセクハラして困らせていた鳥谷先輩を『首』にしたし…」
生乃の好意フィルター越しに見た北嶋さんはどこまで行っても生乃のヒーローだった。
と言うか生乃のセクハラは知らない筈なんじゃ…?もし知ってしまったら、今度こそ死んじゃうんじゃ…
……今後の平和の為にこれ以上口を開く事はやめよう。死人が出ていないだけ平和な証拠なのだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
…神崎の連れて来た男によって…俺の趣味の覗きやらセクハラやらが終わりを迎えようとしている…
俺は水谷の全ての女の風呂を覗いていた…
しかし途中から、俺の覗きを避けようとし、鍵を付けたり入浴時間をずらしたりする様を見て、愉快になり、俺の覗きは趣味を超えて意地になった。
俺は無敵だった。
施錠をピッキングして開錠し、風呂どころか女子部屋に侵入して下着を物色して楽しんでいた。
その俺を訳の解らぬ力で完膚無きまで追い詰めたのだ…
俺は抗うのをやめようと思う。
死んで地獄に運ばれるよりは遙かにマシだし、何よりこいつに関わりたく無いのだ。
穴に埋められ、首だけ出して、根性で笑いながら頬に意識を向ける。
頬が熱い。あいつに散々喰らったビンタの痛みで熱いのだ。
その熱さを感じただけで、あいつよりも一人の方がマシだと思ってしまう。
俺は水谷には、戻らないだろう。
再びあいつを見る。
あいつが先生を訪ねて来た時にあいつと会ってしまったら、今度こそ殺される…それを避ける為に…
そう思いながら俺は今日にでも独立する旨を先生に伝えようと思った…………
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