第1話「街の小さな薬屋さん」5—1

 今度は二人(三人)で再び図書館へとやってくる。そのまま魔法製薬の棚に足を運び、いろいろな書物を手にとっては、中を見通して検証に入った。

 はてさてカレンの読める書物があるかどうか。ルミはとりあえず、自分が読める本を何冊か選び出し、読書用のテーブルに席を取ってはカレンに見せていく。

 ルミの向かいに座ったカレンは、早速その本の中を覗き込む。数冊持ってきたがどうだろう。ルミが読めてもカレンが読めないなんてこともあり得る。ちなみにルミは実践魔法を得意としていて、魔法調合においてはさほど得意というわけがじゃないけど、カレンよりは成績が良い。そんな訳あって、店の経営ができているのかどうかが、ルミにとってはとても心配でもあった。

 長く時間を掛けて、ようやく一冊を選び出した。表紙には『初心者でも大丈夫! これなら簡単! 調合レシピ』と記されている。これならばっちりだろう。ルミは一安心しながら、借りてくるよう薦め、一行はここを後にした。

 ルミとファーマシーの前で別れると、先程と同じく調合部屋へと駆け込んで、テーブルに着いて早速読み始める。この書物なら読み易いようだ。動物に対する製薬の項目もしっかり取り上げられており、漸くお目当ての書物にありつけたといった感じだ。

 しかしながら、やはり問題はレシピを覚えたとして、作れるかどうかだ。まずはレシピを理解し、材料を揃えなければならない。

 ひとまず、今日はこの書物の読解に専念することにした。結局、午後の営業は臨時休業ということになってしまったが――その前に、毛生え薬の件もすっぽかされている。この場にティンが居たら何と言うだろうか……。


 書物の読解を終わらせたころには、すでに時計は閉店時間である午後の七時を過ぎていた。書物を読み続け、途中睡魔に襲われながら、飲みなれないコーヒーを片手になんとか読解していった。

 レシピは何とか理解できた。補足部分は本を読みながら作ればいい。問題は材料集めである。なんたって量が多い。材料集めに時間が掛かってしまいそうだ。勿論作るのもそうだが、猫のリオの体調も気遣う必要がある。

 リーナの賢明な祈りを叶えたい。今からでも集めに行こう。

 思い立ったが吉日。荷物をまとめ上げ、早速メインストリートを下り始めた。何より急ぎなので、ティンの存在をも忘れてしまうくらいだった。


 まずはカーフ草を森林の広場から採取する。一時間ほど掛かる道を急ぎ足に過ぎ行き、南に広がるインサルトの森へと到着――すれば、暗闇に飲まれた広場には、小さい光が漂っているじゃないか。

 もしやお化けかと思い、ギョッとしながら慌てて、光を灯すことすら忘れていたランプをかざしてしまう。それに気づいて焦りながら火をけようとするが、混乱してなかなか蓋が開けられない。

 その間、小さな光は宙を漂い、カレンの元へと近づいてくる。その光に照らされてドギマギしながらそのほうを見ると、すぐ側に人が立っていることに気づいた。

 光はランプから放てられているもので、そこにはリーナの姿があった。

「あ、お姉ちゃん!」

「あ、あれ? リーナちゃん? ……どうしてここに居るの?」

「うん、リオちゃんのケガを治すのに、これが必要かなって思って、お姉ちゃんの為に集めてたんだよ」

「えっ? そ、そんな、悪いよ。依頼した人に手伝ってもらうなんて……」

「ううん。リィね、お姉ちゃんのお手伝いがしたいの。リオちゃんのケガ、治してほしいから」

 なんて健気ななんだろう。感心も感心。カレンは胸打たれる想いに駆られ、こののために絶対完成させると心に誓った。

「そうだったんだ。うん、ありがとうね、リーナちゃん」

「ううん。気にしなくていいよ。それと、リィって呼んで。みんなにそう呼ばれてるから」

「自分のこともそう呼んでるよね」

「うん、えへへ。……それじゃ、明日からお姉ちゃんのお手伝いに行っても良いかな」

「え? でも、学園に行かなくちゃダメでしょ?」

「昨日から春休みだよ。だから大丈夫だよ」

「あ、そういえばそうだったね。それじゃ明日からよろしくね、リィちゃん」

「うん!」

 リーナは元気よく返事をすると、採取していたカーフ草を手渡し、街に帰ろうと言ってカレンの手を引き始めた。この娘は確りしている。今日は、明日の材料探しに備えて早めに寝ることにした。

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