第1話「街の小さな薬屋さん」5—2

 翌日、朝食を取り、家の掃除を軽くしてから、カレンはファーマシーへと向かった。シェリーは、忙しさを見せ始めたカレンに、「焦ったらダメよ」と言葉を掛けていた。そんな心配する母に、ありがとうと告げて今日も一日気合いを入れる。

 店に着くと入り口の前に一人の少女が立っていた。昨日とは打って変わって、彼女はカレンの出勤に笑顔で出迎えてくれる。今日から手伝ってくれることになったリーナだ。店長より早く来るとは良い心掛けである。またもや感心してしまう。

「おはよう、リィちゃん。私より早く来るなんて偉いね」

「えへへ。どんな仕事かなって、楽しみだったから」

「そうだったんだね。それじゃ、中に入って。まずは、商品棚の整理と店内のお掃除するからね」

「はーい!」

 朝から元気なリーナの返事とともに、早速店内の掃除を始め出した。掃除の手際を一通り教えると、カレンは商品棚の整理に取り掛かる。今日一日、何かの期待に胸を膨らませた。

「リィちゃんて小さいのに感心しちゃうね」

「え? 小さいのにって……?」

「リィちゃんのお歳は幾つなの?」

「……幾つに見える?」

「うーん……九歳位かな?」

 カレンが暫しリーナを見据えてそう答えると、彼女はいささか頬を膨らませる。どうやら違うらしい。見た感じから八歳か九歳くらいに見える。口調も少し幼さを感じさせる。するとリーナは頚を傾げるカレンにこう告げるのだった。

「リィ……十一歳だよ」

「えっ!?」

 思わず驚いてしまった。十一歳だよと言われても、しっくりこない。どう見ても初等部の低学年生くらいに見えてしまう。

「お、驚かないでよ! そういうお姉ちゃんだって幾つなの?」

「わ、私、十五歳だけど……」

「十三歳位に見えるよ」

 リーナのそんな一言に打ちのめされた。人のことは言えやしない。

「あうぅ……こ、この話やめにしよう?」

「う、うん、そうだね」

 二人は苦笑いをしながら合意すると、各々の仕事に打ち込み始めた。

 十三歳位に見える……そう思い返しながら、自覚がなかったカレンはそんな風に見えるかなと思いつつ、ふと調合部屋にある立て鏡の前に立って、何気なく全身を見回した。

 確かに、同学年の女の子達よりちょっと身長は小さいかもしれない。

 カレンはまたも首を傾げながら、なんとなく自分の胸元へと視線を向ける。どことなく、ルミよりないような……。そんなことを考えてしまい、我に返って顔を火照らせて真っ赤するのだった。

 店の準備は完了した。しかし、材料集めに行ってしまうので店が開けられるかが問題だ。ティンが居れば彼女に頼めるが、彼女は一昨日から行方不明。リーナに店番を頼むわけにもいかないし、自分が店番していたらリーナ一人で材料集めになってしまう。

 そう、そんなとき、頼りになるのが幼なじみ、お向かいさんであるライム雑貨店で看板娘として名の通るルミ・ライムである。この時間ならルミは店番をしているに違いない。カレンは早速リーナと一緒に雑貨店へと足を運んだ。

 カランコロンと、カウベルが来客を告げる。店に入ると、商品の整理を行っている男性店員が、挨拶とともにこちらを振り向く。女子が一目惚れしそうな整った面持ちに微笑みを見せる彼は、このライム雑貨店店長、ルイ・ライムだ。ルミの兄で歳は十八歳。彼もまた若くしてここの店長を務めている。

 何故かというと、彼らの両親は共に不在なのだ。不幸があった訳ではなく、商品の買い付けなどの旅に出ているという。そういうことで、ルイとルミがこの店を切り盛りしているのだ。

「あ、ルイお兄ちゃんっ」

「やぁ、カレンちゃん。ルミに用かな?」

「う、うん、そうだよ」

「じゃ、呼んでくるからここで待ってて」

 ルイはそう言い残して店の奥へと消えて行った。それを見送りながら、カレンは心なしか頬を朱を浮かべて返事する。と、そこへ兄に呼ばれて店内へルミが姿を見せた。それに気付いてカレンは少し慌てながら、彼女に店番の依頼を持ち掛けた。

「どうしたの? カレンちゃん」

「あ、うん。今日、ちょっと材料集めで忙しくなっちゃうから、お店番、頼んでもいいかな? ティンが居れば頼んでるんだけど、一昨日から居なくって、探してあげられる時間もないから……」

「うん、それならいいよ。この子の依頼のことでしょ? ボクに任せて。お兄ちゃん、ここのお店番お願いね」

 彼女は兄である店長に向かって言を残すと、そのまま雑貨店を後にして向かいのファーマシーへと入っていった。カレンがお店を構えて以来、何度となく頼んだこともあるためか、ルミもファーマシーの店番には慣れたものだった。これでお店のほうは大丈夫だ。

 その背を見届けながら、ここで買える材料は揃えておこうと、陳列された商品を見定める。それをまねてリーナも一緒になって、興味津々に見て回っていた。

「猫の薬って、カレンちゃん作れるのかい?」

 店内に戻ったルイがカレンにそんな声を掛けてくれる。彼もまた、ファーマシーを応援してくれている。あまりこの街で動物に関する薬を耳にしないためか、そんな心配をしてくれているようだ。

「あ、うん……。やってみないと分からないけど、図書館から本を借りて読んだりして、勉強したから……」

「そうなんだね。きっとカレンちゃんなら、作れるよ」

「え?」

「お母さんの病気を治すのに、一生懸命なカレンちゃんなら、必ずできるよ。もし、分からないことがあったら、何でも聞いてよ」

「うん、ありがと……」

 材料になる商品を買い、ルイにお礼と別れを告げると雑貨店を後にする。それから、二人は次の材料を集めに足を運ばせた。

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