第1話「街の小さな薬屋さん」4—1

 そんな中、近所のパン屋さんから昼食を買って戻ってきたとき、お店の前で佇む人影があった。取っ手にクローズと下げられた入り口の前で、女の子がドアに背をつけてしゃがみ込んでいる。いささか俯いて暗雲を帯びた表情からは、どこか辛さが感じられた。カレンは少女に近づき、しゃがみ込んで顔を覗き込みながら声を掛けてみた。

「どうしたの? 私のお店に何かご用かな?」

 少女は顔を上げ、若き店長の顔を見ると、せきを切ったように涙を溢れさせてしまう。そんな少女の反応に、道を行く人々から一集されてしまった。何はともあれ、ここで泣かれては困りものなので、少女を店の中へと招き入れることにした。

 少女を調合部屋へ通し、テーブルの椅子に座らせる。彼女が落ち着いたところで、お店に陳列されているハーブティーを差し出す。カレンは少女の向いに席を取り、話を伺うことにする。

「ねぇ、お名前は?」

「リィ……リーナ」

「リーナちゃんね。リーナちゃん、私のお店に何かご用かな?」

 そんな質問に彼女は再びまなじりに涙を浮かべ、支え口で話し始めた。

「リィの飼ってる猫のリオちゃんが、ケガしちゃって……」

「猫のリオちゃんね。それで、お医者さんには診てもらったの?」

「ううん。動物のお医者さんって知らないから……」

 カレンはその言葉を聞いて思い至る……この街に医師は居るが、獣医は居ない。獣医は他の街にしか居ないのが現状。この街の欠如している部分かも知れない。

「そっか……それでここに来たの?」

「……ホントは雑貨屋でお薬買おうとしたんだけど、動物のお薬って置いてなくて……。だから、ここに来たら作ってもらえるかなって思って……」

「そうなんだ。そういうことなら、私に任せて」

 語尾を弱くして肩を落とすリーナを見るなり、思わずそんな言葉が口を出ていた。幼さを見せる少女が心を痛める姿に、カレンはそれに応えたいと胸を痛めるのだった。

「ホントっ!?」

「本当だよ。だから、もう泣いちゃダメだよ。今日はお家に帰ってリオちゃんの看病しようね。私は今日からお薬作ってあげるから」

「うん! ありがとう、お姉ちゃん!」

 そう言って明るい笑みを見せると、約束だよと言ってうれしそうに店を後にした。

 機嫌良くお帰りになった小さなお客様を見送るやいなや、ここに来て自らが下した決断に、カレンは重苦しい空気が室内に流れ込み始めたことに気づき、思わず顔を引きつらせていた。

 どうやって作っていいのか分からない……。約束したまではいいが、結果はこれだ。今日も後先考えず突っ走るカレンだった。


 昨日から消息を絶っていたティンはそのころ、ライム雑貨店の店番をする、ルミの肩掛けバッグの中に隠れつつ、カレンの行動を追っていた。

 実を言えば、昨晩からルミの家に泊り込んでいたのである。山にルミを行かせたときからルミの家に居たのだ。街の中を探したって見つからないわけだ。居たとしても白を切れば分かるまい。

「ねぇ、いいの? カレンちゃんのところに戻らなくても」

「構わないわ。あの子、私をバカって言ったのよ。私が居なくてどれだけできるかを試すのよ。カレンに声を掛けてもいいけど、私の居場所は教えちゃダメよ」

「う、うん、分かったよ。そういえば、さっきまでお店の前に居た女の子、出ていくときに元気な顔してたけど、カレンちゃんと何か話したのかな?」

「さぁ、後で聞いてみたら?」

「さっきお店に来て、猫に使える薬があるかどうか聞いてきたんだけど、ないって言ったら帰っちゃって。カレンちゃんには作れないかなって思ったから勧めなかったんだけど……」

「おそらくカレンのことだから、その猫の薬を知らないくせに、作るって言ったのよ」

 ティンは呆れ混じりにため息をつくと、バックの中に潜り込んだ。しばらくすると彼女のいびきが聞こえてくる。偉そうなことを言ってもカレンが心配で、昨日の夜、カレンが自分を捜しに夜中捜し回っているのではないかと、眠れなかったらしい。やっぱりティンは今日も素直じゃない。そんな彼女にルミは笑みを見せていた。

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