第1話「街の小さな薬屋さん」3—1
カレンが街中を走り回って、ティンの捜索はもう一時間が経っている。されど、ティンは見つからない。カレンはもう家に帰っているんじゃないかと思ったが、ずっとティンちゃんが居なくなったらどうする? というルミの言葉が過ぎり、捜索を続行させていた。
しかし、これほど探しても見つからないティンに、カレンはこぼれ落ちる涙を
この時間帯の公園には、各々の愛を育み、甘い時間を送っているカップルが見受けられた。カレンはそんな人達を少し気に掛けながら公園を後にし、仕方なしに家へと帰っていった。
しかし、家にティンの姿はなかった。やっぱり怒っているのだろう。どこかへ行ってしまったままなのかもしれない。そのどこかなんて、これ以上探しても見つからないと思う。ルミの家に行ったのだが、それでも居なかった。彼女の行きそうな場所は行ったつもりだ。ティンにバカなんて言ってしまったことを、今になって後悔するのだった。
こんなことは初めてだ。いつもはケンカこそすれどすぐに仲直りするのだが、今はそんな彼女すら居ない。カレンはすっかり肩を落として、自分の部屋に入るやいなや布団に潜り込む。心配でしばらく寝返りを打っていたが、探し疲れたせいか、まもなく眠りに沈んでいた。
――その夜カレンは夢を見た。
誰も居ない家、シェリーの部屋のドアに向かって立っていた。いつもそばに居るティンは、辺りを見回してもどこにも居ない。その静まり返った家の中に、少々気味悪さを感じた。
いつもひっきりなしに
窓から見える外の様子を見れば、空は明るく既に昼に近い時間であることが窺える。病のせいでこんな時間でも寝たきりのことがある母なのだが、どこか違和感を覚えてしまう。カレンは少し不安気になって彼女の体を揺さ振った。
しかし、普通ならそれで起きる彼女は、未だ目を覚まさない。何度やっても変わらなかった。次第に焦りを感じ……カレンは思わず胸辺りに耳を押しつけた。
……鼓動が、聞こえなかった。
まさかの事態に錯乱してしまい、何度声を掛けても返事も何もない母を、泣きじゃくって何度も何度も揺さ振ってしまう。死んでしまったのだろうか。そのとき、開かれたままのドアからティンが姿を見せた。泣きじゃくるカレンに近づくなり、強くにらみつけながら怒鳴りつけてくる。
「カレンのバカっ! あれだけ私が注意したのに! 失敗してばっかりして、お店潰されちゃって! その上、その上……っ!」
怒りを込み上げるティンは、顔を真っ赤にしながら、目尻に涙を貯めて、無表情に横たわるシェリーへと視線を向ける。
そして、再びカレンに視線を戻すと、更に大きな声を張り上げる。
「お母さんの病気も治せないで、見殺しにして! あんたなんか出ていって! 早く出て行きなさいよっ!!」
カレンに物を投げ付けてはヒステリックに叫び上げる。何が何だか分からずにいたが、ティンの怒りとその言葉に傷つき、尚更に涙を溢れさせる。そんなカレンの様子をティンは更にこう付け加える。
「あんたなんか……あんたなんかシェリーの子じゃなければ良かったのよっ!」
その一言で、カレンの目の前は真っ暗になってしまった。
……夢はそれで終わりだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます