第1話「街の小さな薬屋さん」2—2

 街に着くと、道端に立っているガス灯が、道標みちしるべの様に街の所々で光っていた。このガス灯のおかげで、街は夜でも明るい。

 カレンはルミとファーマシーの前で別れると店の中に入り、調合部屋の材料棚にカーフ草とネリノ石をしまい込んで、西区にある家へと帰宅する準備を整えた。

「ティン、お家に帰るよ。……あれ? 居ないのかな。先に帰っちゃったのかな?」

 荷物をまとめ、いざ家路に就こうとするが、店内のどこにもティンの気配はなかった。先ほどのケンカのこともある。もしかしたらカレンが戻るのを待たずにさっさと帰ってしまったのかもしれない。そう思い至り、カレンは店の鍵に錠を掛けると早速南区のメインストリートを自宅へと足を運んだ。

 家は住宅街である西区の中央より南にずれた、サイドストリート沿いにある。ちなみにルミの家はカレンの家の隣である。

 マジカルファーマシーがライム雑貨店の向いにある理由は、商店街には点々と空き店舗や空き家があり、運良くそこに使われていない家があった為、昔からお店を持つ夢があったカレンは、ルミと約束を交わしていたのだ。そんなところから、彼女達の仲の良さが窺える。

 カレンは急ぎ気味で家に帰ると、まずはティンの名前を呼んだ。しかし、返ってきた声は母、シェリーのものだった。

「ティン? 一緒じゃなかったの? ……またケンカをしたの?」

「え? ……う、うん」

 シェリーにそう訊かれ、返答に詰まってしまう。もしかしたら、自分が思っているよりもずっと彼女は怒ってしまっているかもしれない。不安になってしまった。

「どうしたのかしら? まだ帰ってないわよ」

「え? そ、そうなんだ……。また失敗しちゃって、ティンのこと、怒らせちゃって……」

「そうなのね。でもね、ゆっくりでいいのよ。私のことは大丈夫よ。私が死んじゃうわけじゃないんだから」

「そ、そうだけど……今のままじゃ、ずっと寝たきりだよ」

「ううん。調子が良いときは、今みたいに歩くこともできるわ。そう遠くは行けないけど」

 母の表情は穏やかだった。そんな優しい笑みを湛える様子に、ほっと安心する。その笑顔には、何度胸の中のもやもやを払い除けてもらっただろうか。やはり母の存在は、とても大きかった。

「……私ね、お母さんにお店を見てもらいたいの。それとね、いっぱい色んなところに一緒に行きたい。だから、私が作ったお薬で、お母さんの病気を治してあげたいんだよ」

「えぇ、ありがとう。でもね、焦ったりしちゃダメよ」

「うん。ありがとう、お母さん」

「ティンが怒るのは、あなたのことが心配だからよ。あの子、素直じゃないから。でも、分かってあげて」

「うん。これからもっと頑張るからね。私、ティンのこと探してくるね!」

 カレンはシェリーに明るい笑みを返すと、外へと出ていった。

 シェリーはそんなカレンを見て、思わず胸に溜め込んでいた想いを、その瞳から溢れさせてしまう。病のせいで、自分の子供に苦労を掛けてしまう。それが辛くてならない。

 自分の為に店を構え、苦労をして、壁にぶつかっては悩み、それを解決させるのにまた苦労。十五歳の若さでそれは膨大な試練であるに違いない。それに向かって一生懸命に立ち向かう健気なカレンに、母は胸を打たれてしまうのだった。

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