「ほったん」

その04「むーたん」





『こんぴゅーた』と言う物が、私は苦手だ。


 一応『ゲーム機』みたいな単純な機械なら、そこそこ使えるんだけどさ。

 今時の大学生のくせに、極端にそう言う物が苦手なんだよね。マジで。


 基本的に私はね、興味が無い物の情報は、まったく頭に入らない性分しょうぶんって言うか。

 そんな感じなんだから、仕方ないよね。


 こんぴゅーた音痴の私が、何故にパソコンと言う物を買うことになったのか。


 うん、まあ。何と言うか。

 正直に白状すると、とある『ゲーム』で遊びたかったからだったりして。



    ◇



 今から丁度一年前。

 一般人の私でもよく知っている、ゲームの新作が発売された。


 普段私は、あんまりゲームをやらない。

 だけど、そのシリーズだけは何となく好きで、大体の作品はプレイしている。

 時には、ゲーム機と一緒に購入する事もあった。それ位には、好きなシリーズだ。


 私は、ゲーム関連の情報誌などは全く読まない。

 だから新作が発売された事も、たくちゃんから聞かされるまでは知らなかった。


 あれ? でも確か、このゲームの一番新しい番号って『十三』じゃなかったっけ?

 しかも最近『十五』が出るとか、そう言う話を聞いたんだけど。

 いつのまに『十四』なんて出たの?


 え? 三、四年くらい前からあったの?

 うっそだー。聞いたことないもん。

 しかも、一年前に新しく出たんでしょ? おかしいじゃん。



 え。『新生』した?

 前の奴は『メテオ』で滅んだ?



 何それ。意味わかんないよ。


 そんな疑問を抱きつつも、せっかくだから今回もプレイしてみようと私は考えた。

 色々と情報を漁っている内に、そのゲームが『おんらいんげーむ』なる物だと言う事を知る。

 どうやらインターネットを利用して、全国の人達と一緒に遊ぶたぐいのゲームらしい。

 たくちゃんは、結構前から遊んでいるとのこと。

 その為、私はたくちゃんから、ゲームについての手ほどきを色々受ける事になる。


 課金がどうの、クレジットカードがどうの。

 そもそもどの機種で遊ぶのか、友達紹介キャンペーンがどうの。

 オマケで貰える二人乗りの鳥や、ドラゴンがどうのこうの。


 始める前から頭が痛くなった。


 私はゲームをやりたいだけなのにさ。

 それなのに何故、クレジットカードの有り無しなんかを聞かれるのか。

 まったくわけが解らなかった。

 

 敷居が高すぎると、なかばプレイをあきらめかけていた私。

 そんな時。何気なくながめていた、インターネットの『まとめサイト』なるページ。


 そこで『ある物』を見た事で、私の運命が一変する事になった。


 それが、後に私の最愛の友となる、召喚獣『むーたん』との出会いである。



    ◇



『むーたん』は、そのゲームに登場するキャラクターである。


 本当の名前は、なんだったっけ?

 まあ、みんなむーたんって呼んでるし、むーたんで良いよね。


 むーたんは、いわゆる『召喚獣』と呼ばれている存在だ。

『はじゅちゅし』と言う名前の職業で、使役しえきする事ができる。


 見た目はエメラルドグリーンの体色。

 長い耳と、ふさふさのしっぽを持ち、ネズミの様な姿をしている。

 ひたいには、真っ赤なルビーが埋まっている。

 胸からお腹のところあたりが真っ白で、すごくもふもふしてそうで、かわいい。


 その『まとめサイト』でむーたんの姿を見た瞬間しゅんかん、私の体に稲妻いなづまが走った。


 そう。とにかく、かわいいのです。


 緑むーたんの他にも、黄色むーたんもいるんだけどさ。

 そっちは何だか、著作権ちょさくけん的にもヤバそうな位、すごくかわいいのですよ。


 ちなみにわたしは、黄色むーたんの事は『ぴかむーたん』と呼んでいる。


 そんなこんなで、気が付けば私は、すっかり『むーたん』のとりこになっていた。

 体が大きい私は、小さくてかわいい物が何よりも好きだったりする。

 そんな私のストライクゾーンに、むーたんの可愛かわいさはピッタリとはまった。


 もう、むーたんしか見えない。

 むーたんに、会いたい。


 私はむーたんとたわむれたい一心で、その日の内にゲームの購入を決心したのでした。


 このゲームは、パソコンとP◯3、それからP◯4で発売されている。


※追記※

 P○3版は、2017年6月16日でサービスが終了します。


 機種をどれにしようかと悩んでいたところ。

 最終的に、たくちゃんに猛烈もうれつされた結果、私はパソコンを選ぶ事になる。


「どうせならパソコン買っちゃいなよ。大学生なんだし、持ってた方が便利だよ」


 と言われ、結局パソコンを買うことになってしまった。


 パソコン選びは、全てたくちゃんにお任せした。

『びぃーてぃーおー』とか言う名前の、よくわからない機種を買う事になった。


 しかも、メーカーも聞いたことのない名前でさ。

『つくも』とか言う名前だった。


「ゲーム用途で買うなら性能で妥協しちゃあいけない。既にここからが戦いなんだ」


 との事で、いつの間にか『つくも』さんのパソコンを買うことになっていた。


 まったく、意味が解らなかった。


 パソコンってさ、本当に高いんだね。

 まさか、諭吉さんが十枚以上も飛んで行くなんて、思わなかったよ。


 幸い、アルバイトをしていたので、貯金は結構あった。

 少し使う位なら、頑張った自分へのご褒美だって事で、納得した。

 後日、預金通帳を見て、なんとも言えない気分になった。


 と言う事で、私はパソコンを購入した。

 

 最初、パソコンなんて言うからさ。

 大学の友達とかが講義で使っている『ノートパソコン?』って言うのを想像していたんだけれど。

 実物がアパートに届いた時、私は驚愕きょうがくする事になる。


 何、この箱。

 箱としか形容けいようできない何か。

 ダンボール箱を開けたら、中から更に黒い箱が出てきたの。


 なにこれ。マトリョーシカ?


 パソコンのセッティングは、たくちゃんにお願いした。

 設定なんかも全て、たくちゃんにお任せ。

 ゲームソフトも無事に購入し、『インストール』とやらも終わり。

 その日からついに、念願の、私とむーたんの素敵ライフが始まる事になる。


 やっぱりね、むーたんは素晴らしいのですよ。

 寝ても覚めても、私の頭の中にはむーたんの事ばかりだった。

 ゲームを進めるのもそっちのけで、最初の街でむーたんをながめる日々が続く。


 むーたんと一緒に、ダンジョンに行ったりもした。

 でも他の人から、「お前のむーたん山に捨ててこい」なんて言われたの。

 しかも、それが「お約束」ってヤツなんだって。知るかそんなん。

 むーたん、こんなにかわいいのに。酷くない?


 私の日常も、むーたんであふれるようになった。


 大学の講義中も、むーたん。

 気が付くと、ノートにむーたんのイラストを描いていた。


 通学に利用している電車の中でも、むーたん。

 窓の外を散歩している犬の姿が、むーたんに見えてくる。


 隣の席で、小学生が3○Sでポ○モンをやっている。

 あ。ぴかむーたんだ。


 むーたん。

 むーたんむーたんむーたんむーたんむーたんむーたんむーたんむーたんむーたん。


 そんな感じで私は、大学と家の往復時間の大半を、むーたんで過ごした。


 以上、回想終わり。


 結論を言うとですね。

 私はむーたんをでたいが為に、パソコンを購入する事になったのです。

 

 今日も私は、ウキウキ気分でむーたんを満喫まんきつする為に、帰宅する。

 それが、冒頭のやり取りから、数分前のお話。


 そこまでは、いつも通りの日常だったんです。


 そう、


 大切なむーたんとの素敵ライフが。

 その日、一瞬で崩壊してしまったのですから。



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