第47話 映画に観る演出のコツは?

 映画や舞台を観るのも小説を書く上では大事な勉強になると師匠に教わり、今年後半はこれまでになく映画館に足を運んだ。

 それでも大した回数ではないが、今秋に観た中でのピカイチは『この世界の片隅に』であり、次が『君の名は。』だ。


 いずれもアニメーションというのが嬉しいところでもある。今の若いみなさんには想像も付かないだろうけれど、私たちが小中高の時代は、「漫画やアニメなんてくだらないものを読む暇があれば小説を読め」と大人に説教されたからだ。

 それがいま、ここまで高いレベルの大作アニメを劇場で観られるなんて、感激だ。宮崎駿のハイジを観て育った世代としては、拍手したい気分だ。


 さて、本題に戻ろう。

 ほとんどの映画を「これを小説なら、どういう展開・順序にして書くだろうか」という視点で観た。純粋な観客として楽しめた点ももちろんあるが、やはり気になるのは、演出や展開のさせ方である。つまりは、見せ方なのだと思う。


 なぜこの映画のストーリーはこの場面をこの順番で繋げるのか、登場人物像を語るショットの絵の作り方、背景や大道具のしつらえ、なども気になるし、そもそもどんな層を視聴者に見込んで作ったのだろう? 企画書ではなんて書いてあるんだろう?などと勝手な想像も膨らせませた。


 例えば、天才と謳われながら夭逝した棋士、村山聖氏を主人公に据えた『さとしの青春』は、天才ライバルの羽生善治氏との好対照で描いているが、将棋に関する素人への解説は一切なく、観客にある程度のルール知識等があることを想定した作りになっている。

 そもそもそういう将棋通が観に来ると想定して製作したのかもしれないが、たまたまいまTVで『3月のライオン』という、こちらも若き天才棋士を主人公にしたアニメでは、一般視聴者にも分かり易く将棋世界を伝えようと非常に努力している点が見えるだけに、つい比較してしまう。

 それによって前者の映画の評価が下がるわけではないけれど、誰に観て欲しいのか、そのためにどんな演出方法で何をメインに据えるのかは、変わってくるのだろうと思った。


 また、『オケ老人』は、主人公の若い数学教師を演じる杏が老人だらけのだめだめオケに振り回され最終的には感動の演奏会へ、というストーリーはとても面白かったし、脇役陣の見事さに拍手喝采だった。往年の名優たちが本当に楽しそうに演じている様は、観る者に勇気と幸せを運んでくれる。

 

 しかし、主人公の人物像を冒頭からどこまで視聴者に伝えられるかという点では少し疑問が残った。

 ここで偉そうに演出家や監督に意見する気は毛頭ないが、例えば、引越してきたばかりの彼女の部屋を映し出すショットで、なぜ本棚に数学や数学教授法の本を並べずにただ布を掛けてあるだけにしたのか、分からなかった。もっと主人公の為人ひととなりを貪欲に伝える方法をなぜ取らなかったのだろうか、と気になった。

 ストーリーの鍵を握る女生徒の人物像も、キャラクター設定がブレル時がたまにあって、それは演出との兼ね合いなのか、演技力の問題なのか、映画製作に携わったこともないので想像するしかないが、やはり2時間程度の時間枠に全てを納めなければならない総合芸術&エンターテイメントとしての映画の難しさを感じた。

 

 かつて、『あん』で主役を演じた樹木希林が、河瀬直美監督が如何に素晴らしい監督であるかをインタビューで応えていたが、「あの市原悦子が延々とセリフを喋った箇所を、遠慮会釈なく、最後にばっさり全部カットした。私のだってカットされた場面の方が多い。それでもより良い映画にするために思い切ってそれができるのが、やはり優れた監督というものなのだ」と。


 翻って、ようやく連載を再始動した拙『青空と潮風と』だが、無駄なところはないか、書き手の自己満足のためのシーンになっていないか、必然性がどこまであるか、メインに据えたいのは何か、等々、上記のような完成度の高い映画と比べると見る影もないが、落ち込む暇があれば精進するしかない。どこが不味いのか、どうすれば良いのか。そう思いながら推敲を重ね、並行して古典の名作を読み続けるしかない。


 なお、最初に上げた『この世界の片隅に』は、途中から涙を禁じ得ないだけでなく、観る者を幸せに導く力を大いに感じた。

 そしてもちろん、演出や展開も、セリフも、人物造詣も、ただただ素晴らしく感動した。見せ方も伝え方も、観客を信じて委ねる部分も心地よい。

 あの作品はぜひ映画館で観て欲しい。そして後世に語り伝えて欲しい。一人でも多くの人に、世界の片隅で一人一人が幸せになれるのだと伝わるように願っている。



 

  

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