第46話 漫画原作の映画化について

 前話でもお話した『のだめカンタービレ♪』はフジTVの「ノイタミナ」でもアニメ化されており、アニメ・ドラマ連載・特別ドラマ化・映画化(前後編)と、昨今のエンタメ・ミックスを網羅しています。


 それぞれに良さがあり、アニメでは漫画原作の劇画的な面白さを味わうことが出来ましたし、ドラマでは紙媒体では想像するしかなかった音楽シーンの再現と、「次はどうなる?」と次回予告で妄想を膨らませながら翌週の放映を楽しみに待つ、という「結末が分かっていても楽しめる作り」になっていました。

 

 こうしたアニメ・連続ドラマは、ある程度の話数&放映時間を確保できますし、「続きは来週」と余韻を添えて聴衆を惹き付ける点で漫画原作に近い展開が可能になります。


 それに対し、映画はせいぜい120分で、前後編に分けても240分程度です。

 それで漫画原作の10巻分近くをまとめてファンを満足させようというのですから、そのプロジェクトがどれほど大変かは想像に難くないところです。


 映画化にあたり、原作者の二ノ宮知子氏は当初から製作側に深い理解を示し、千秋真一(主人公のひとり)の父親に関するエピソードを外す事を了承していたと伝えられています。

 その御蔭で製作側(脚本や監督など)は安心して作業に臨めたそうですが、その際の二ノ宮氏の発言は興味深いものでした。

「映画の時間枠で展開するなら、のだめと千秋の恋と成長に絞るのは当然のことだ」


 千秋真一の人格形成に父親との深い確執は大きなテーマです。幼少期に自分を捨て母を裏切った許せぬ存在である父親は、世界的ピアニストであっても親として失格、と遠ざけてきました。しかし嫌悪しながらも同じ音楽の世界に進み、また同じ男性として自らに潜む本能部分の類似を見出して苦悩するなど、真一が音楽的天才&かなり性格に難あり、という人物造詣を醸し出す重要な要素となっています。


 しかし、それを映画の中で真正面から取り上げるとなると、もちろんワンシーンで済ませるわけには行かず、伏線の盛り込み方も含めて多くの検討が必要になります。ただでさえ、漫画10数巻分の内容を凝縮して描くしかない上、誌面では数ページで済むオーケストラの演奏シーンを撮影しなければならず(欧州での劇場ロケは相当大変だったようです)、上映時間制限を切るのは必死です。


 多くのファンにとっても気になるエピソードではあったけれど、もし作者がそれに固執していたら、あの映画は完成しなかったでしょう。


 二ノ宮氏が「本筋を大切に」と伝えた中に、メディアを通して作者がものを伝える上での大切なポイントがある気がしました。


 小説を書いていると、ああ自分はやはり素人なんだなあと痛切に感じるのは、こんな時です。

 書きたいことを書きたいようにただ書くのではプロではない。

(プロの定義@はる(haru8)が「稼ぐかどうか」ではなく「伝えたいことを正確に読者に届けることができる力量を持つ」であることは繰り返しお伝えしてきた通りです)


 聴衆にとって、読み手にとって最高の視聴経験をもたらすにはどうしたらよいのか。

 お話を書いていると、それぞれの登場人物に愛着が湧いて、その魅力を余すところなく伝えたくなる衝動に駆られます。

 しかし、それは書き手の自己満足です。

 そのすべてを書き綴るのではなく、敢えて背景に落とし込んでしまうことも時には必要なのだと、この1年で学びました。

 書き手の拘りを一旦捨てて、俯瞰して自作を見ることが出来る力は、だからこそ必要なのだろうと思うのです。

 もし自作の小説をドラマ化するとしたら、削るべきはどこか、本筋を外さないためにはどうしたらよいのか。そういう視点で観ることも役立つように思います。


 今期のTVドラマの多くは漫画を原作としており、原作とドラマを比較しながら観るのも楽しそうです。と、もちろんそれは楽しみながらの修行の一環でですが。


 さて、今週はお休みしていた読む読む修行を明日から復活させます。いまはとにかく、名作を①一つでも多く、②丁寧に読むこと、を最優先しようと思っています。

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