episode3 inguz&wunjo
「
「なにそれ。
でも、と草原で薬草を摘みながら、ウィンはにやりと笑って言う。
「親父がかあさんに怒鳴られてる理由は納得だな」
『oyadoya』裏手。かしましい怒鳴り声をバックグラウンドミュージックに、子供たち5人は、いつもの仕事をしながら、いつものようにしゃべっていた。
「アキちゃん、そのスライム……どうなっちゃったの?」
心配そうにおどおどと言ったイングにウィンのようににやりとアキは笑い、小さな弟の相手をしているラドには見えないように、袖口から小さな小瓶を取り出した。
中身は、ぶよぶよとした気味の悪いゲル状物体。スライムの核であり、きちんとした処理さえ行えば、クスリの材料にもなる。しかし、水に入れればまた凶悪なスライムへとすぐに成長するのもまた事実。
さっと顔を青ざめさせたイングと対照的に、アキととても気の合うウィンは、腹を抱えて笑っている。
「おまっ、それ、お前襲ったやつだろ?それを捕まえるとか、お前どっかおかしいんじゃねえの!そういうとこ、さいっこーにクールだよな!」
口は悪いが、褒められているのは悪い気はしない。
ただ、
「アキ!それ持ってきてたの!?」
「げ、ラド」
ウィンの笑い声を聞きつけて、アキの後ろで仁王立ちをするラドに、彼女は顔を引きつらせる。
「捨て置けってとうさんに言われてたよね!?」
その隣で、小さな弟。銀色の髪に金色の瞳のシュウも、仁王立ちをしている。が、こっちは多分、ラドの真似をしているだけだろう。
確かに、ラドの言う通り。父テオには、そのスライムの核はいつものように薬やアイテム作成に役立つだろうと一度拾ったときに、捨てられていた。
「え?そうなの?アキちゃん」
ぷいっとそっぽを向いた仕草だけでわかったのだろう。
「アキちゃん。おじさんがそういうんだったら、捨てておいたほうがいいのかも…」
「でも!珍しい物からは、いいアイテムが作れるって、かあさんもリズ伯母さんも言ってたじゃん!器用な訳の分からないスライムの核なんだよ!?すっごいのが作れるかもしれないじゃん!」
イングの気弱な声を遮って、威勢よく叫んだアキも、本当は分かっている。言いつけを破るのは、悪い子だ。それに、自分より多くのことを知っている父親が捨てろと言う物は、大概が危険で手に負えない物だということを。
でも、なぜだか捨てたくなかった。
「イング、ウィン、シュウ見てて!僕父さんに言いに行ってくる!!シュウ、イングとウィンの言うことちゃんと聞いてね!」
「あ!待っ…きゃ!?」
走っていくラドを追いかけようとし、不自然に足に絡まってきた草に転んでしまい、普段なら追いつける彼はもう裏口をくぐって家に入ってしまっている。
それでも追いついてなんとか止めようと走り出したアキを、三人は他人ごととして見送っていた。
「あーあー。イング、後でアキに謝っとけよ?」
ため息交じりのウィンは、ポケットの中で光る石を握りしめ、俯いたイングの顔を見ずに言う。
「…………うん…」
額にはびっしりと汗をかき、空いた手で心臓のあたりを抑えながら息を荒げるイングは、うっすらと笑い。そして、申し訳なさそうな表情をしていた。
力なく、吐き出す荒い息に乗せて笑い声を漏らし、ひざをついたイングの背中をシュウが小さな手でさする。
「イングねぇね、くるしくない?」
「ふふ、ありがとシュウ。おかげでよくなったよ」
にっこりと笑いかけたイングにシュウは顔を輝かせたが、彼女の顔色はどんどん悪くなっていく。まるで、何かに命を吸われているように。
「シュウ、ちょっとそこどけ」
「??」
首を傾げたシュウを強引に横に避け、ウィンは厳しい表情でイングの背に指で記号を描く。
「
イングには、魔法の才能が有り、その腕は呪文の詠唱なしで現象を具現化することが出来るほど。だが、彼女は父の聖竜の血が強く、魔力量が極端に少ない。加えて不器用で必要以上に魔力を使ってしまうせいで、ほんの少しの簡単な魔法を使うだけですぐにへばってしまう。
だが、これは違うとウィンは彼女に触れてすぐに看破した。
「ラド……あーもう!シュウ、お前イングに何か流れてるの見えるな?」
「うん!」
呼吸の落ち着いたイングを片手で支えながらそう尋ねると、小さないとこは明るく頷いた。
イングでさえ触れればなんとなく感じ取れる程度でしかない、人体を流れる魔力。それを、アイテムなしで視覚的にとらえることのできるマリィ。その力を受け継いだラドとシュウの目は、魔導を志す者にとってはとてもうらやましい力であり。そして、
「ぐるぐるしてるー。でも、さっきみたいにビリビリじゃないよ!」
無邪気にそう言ったシュウの言葉は、まるで具体性がない。だが、いつも通りだと言わない以上、魔力の流れは確かに乱れているのだろう。
「ウィンはすごいね。ママに修行つけてもらってるだけあって」
「お前と違って倒れる心配がないから、こき使われてるだけだ」
儚く笑うイングを軽く小突き、ウィンは彼女を軽々抱きかかえた。
「シュウ、悪いけど、そこのカゴにお前らの重ねて運べるか?無理なら、お前らのだけでいい」
「わかった!」
「………なさけないなあ」
「お前は黙って運ばれてろ。いいんだよ、情けなくても俺がフォローすればいいだけだろ」
兄ちゃんだからな、と言って、年は同じと言い返されるまでがいつもの流れ。
結局、カゴの一つは置いていかれ。
「…………」
そっと。カゴを拾い上げる影があったことに。また、それらが自分たちのことを、薬草摘みを始めたときから観察していたことに。
気づいていたものはいない。
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