ふたばの初デート

土曜日、松岡がセッティングした待ち合わせ場所、久遠公園に清十郎はいた。


「約束の時間まで、後、1分か。おお、来たぞ」

清十郎の前に、一人の可憐な美少女が、右手を振りながら、走って来た。その姿はあまりにも可憐で美しく、公園にいる、他の男どもの視線を釘付けにしていた。


「何だ、あの娘。女優か?」

「うわ、顔小さい。うちのゴリラと交換してー」

「おいおい、男の方もイケメンだぜ。クソ、俺もあんな美少女と付き合いたいな」

ふたばは清十郎の眼前に現れると、ニコッと、太陽のように微笑んで見せた。


「えへ、今日はよろしくね」

語尾にハートマークでも付きそうである。既に、清十郎は心を撃ち抜かれており、彼らしくも無く、取り乱していた。


「ふたばちゃん。すげぇな。あの演技力」

「ああ、何かお似合いかも」

草場の陰で、明日香と銀二は観察していた。二人のデートがどうなるのか、気になるらしい。遠くから、二人を尾行していた。


「今日はありがとう。その、僕なんかとデートしてくれて」

「ううん、あたしの方こそ。先輩とデートだなんて、恥ずかしくて、でもうれしい」

「あ、ああ、美しすぎる」

清十郎は目眩を覚えた。

「そうだ、河原まで行こうか」

「は、はい」


清十郎は、ふたばの手を引くと、公園の奥にある、河原まで歩いて行った。


「おい、清十郎の奴、どんどん奥まで行くぞ。まさか、ふたばと青姦でもするつもりか」

「ああ、やだやだ。エロ男子は。あの吉田先輩が、あんなに純朴なデートをするなんて、ビックリだわ。女泣かせで有名なのに」

「そうだな」


「きゃあ、冷たい」

ふたばは裸足になると、河原の中に両足を突っ込んだ。

「ああ、まるで妖精だ」

清十郎は、しばらくその様子に見とれていたが。ふたばに手招きされて、彼女の方へ、まるだ催眠術で操られているかのように、吸い寄せられた。


「あ、危ない」

ふたばが足を滑らせて、転びそうになると、清十郎は、走って彼女の身体を受け止めた。柔らかくて、軽い、そして、女子特有の良い匂いがした。


「あ、ああ」

「え、ちょっと」

清十郎は、思わず腕の力を抜いてしまい、その拍子に、ふたばは川の中に、突っ込んでしまった。


「あ、ふたばさん」

「あははは、ほら見て、びしょびしょ」

ふたばは笑いながら、びしょ濡れになった、白のTシャツを清十郎に見せた。

「あ、ああ、ふたばさん」


ふたばの胸元が透けている。そして、中にある赤色のブラが浮き出ている。


「どうしたの?」

「い、いや」

清十郎は目のやり場に困っていた。しかし、そんな中で、メラメラと嫉妬に燃える、自分もいた。もし、誰かにこの姿を見られたら、ふたばのあられも無い姿、それを見て、鼻の下を伸ばしている輩がいたら、この木刀で叩き斬る。彼はそこまで妄想を広げていた。


「あれ、先輩?」

ふたばが困惑したように、眉を潜めると、清十郎は慌てて、顔を左右にブンブン振った。

「あははは、何でも無いよ。それより、お弁当にしようか」

「あ、うん。あたしも作ったよ」

「あ、え、ふたばさんの手料理」

ふたばは弁当箱を砂利の上に広げた。そこには、色とりどりのおかずに、おにぎりがいくつか、綺麗に詰められていた。予想外の女子力を持つ男、それが結城双葉という人間だった。


「食べて食べて」

「あ、じゃあ、遠慮なく。おお、これ美味しい」

「えへへ、それは自信作」

和やかな空気に、銀二は草むらの中で悔しがっていた。

「チキショー、ふたばは男だぜ。確かに中性的で、女みたいな顔してるけどよ。あれは男なんだ。た、確かに今は女の姿かも知れないが、中身は男。ああ、だから羨ましく無いんだよな」

「銀二君、泣いてるよ」

「う、うるせぇ、もうさぁ、男だとか関係無いんだよ。俺もあの弁当食べたい」

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