第27話 マルクス二丁拳銃 *



 前26話で、卒業して初めて勤めた会社の話を書いた。


 所属課に入って担当者にあいさつして、自分の席についた瞬間。

 髪を真面目にショートにして、ポリバケツ色の制服を着て、めっちゃ緊張している私に早速のカウンターパンチ! まさに目がテン。


 目の前の席に座っていた女性の先輩が、でっかい派手な大柄の花柄のストッキング履いて、耳に牛のはなわのようなイヤリングをぶらさげていたのだ。


 まあ、思い返してみても、その人は社内で1、2を争う、変わった人だったのだけど。


 頭はとびきり優秀で、英語ペラペラ。帰国子女。

 そして、超毒舌。人に的確にあだ名をつける天才。ちなみに私は、住所が動物っぽかったので地名で呼ばれてた。


 3時のおやつは、種類が少ないとクレームが出る。まるで、こどもみたいだ。お菓子の調達は、新人社員のシゴトだったのだ。通勤電車でかさばるおやつをもってゆく女。 ガサガサ。





 そんなある日「映画友の会」というのが結成され、私は雑用係に任命された。

 社割で買える映画のチケットを希望人数分申し込んで、休日に一緒に見に行くというのだ。

 私は一人でふらりと映画を観るタイプだったので、最初すごく抵抗があったのだけど、先輩命令とあれば致し方ない。


 運命の1本「マルクス兄弟の二丁拳銃」

 彼女は、ズバリ行くわよ!と 勝手に私も数に入れていた。知らない、古そうな、白黒映画。うーん、あんまり行く気がしないなぁ……。


 ところが、これが、めちゃくちゃおもしろかった。

 新宿三丁目の小さめの映画館。席がすべて階段状になってるのだけど、前の人が 笑いすぎて、私の膝に頭をぶちつけても笑いが止まらないくらい。

 もうおかしすぎて抑えようとすると、お腹が痛くて息ができないよー。


 マルクス・ブラザーズ。マルクス兄弟。本当の兄弟。映画の中では3人兄弟。(最初の頃は4人)

 髭のグルーチョ、ピアノ弾きのチコ、ハープのハーポ。


 ひたすら喋るマシンガントークの、髭のグルーチョ。

 ハープのハーポは口が利けないのか、サイレントなのか、ゼスチャーだけ。顔の表情だけでおかしい。

 絶妙な掛け合い。そして、素晴らしい演奏。一本指打法でピアノを弾くチコ。


 バーブラ・ストライザントとロバート・レットフォードの有名な映画「追憶」の 中で、バーブラがパーティでマルクスに扮するシーンがあるくらい、アメリカでは有名みたい。


 他にも「オペラは踊る」は、豪華客船の一室にどんどん、ぎゅうぎゅうに人が集まっていったり。ナンセンスって言ったらそうなんだけど、チャップリンとか、ドリフとかすきな人には、きっとおすすめ。



 次から次に、おもしろい映画をセレクトしてくれた先輩に感謝。

 大抵は、古いリバイバル映画とか、単館ロードショーだったな。


 先輩、元気かなあ。結婚したと噂で聞いたけど、お相手はどんな人だったら、暮らしていけるんだろう。やっぱ、外人さんだろうな。


 後輩は、楽しい映画いっぱい教えていただいて、感謝しております! 敬礼!







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