第20話 新・人間の終章


 気が付くと僕は見知らぬ場所にいました。そしてただ歩いていたのです。どこに向かっているのかわかりません。なぜ勝手に足が動いているのかわかりません。

 目的地はどこなんでしょうか。

 何もわかりません。

 ただわかっていることはあの名前。

 シロ子というあの名前が僕の頭に響いているのです。どうしようもなく響いているのです。

 そこは何もない真っ暗な森の中でした。右も左もわかりません。どうしてこんなところにいるのでしょう。

 それでも僕の足は歩くことを止めません。

 どれぐらい歩いたかわからなくなった時でした。

「いたっ」

 足に、何か当たったのです。

「なんだこれ」

 僕はそれを手で掴みました。それは薄汚れた器だったのです。

「なんでこんなところにペットの餌入れが――」

 そこで僕はある文字を目にしたのです。

「白い狐……?しろ……い、こ……?」

 何か、何かが――。

「ぐっ……あ……っ」

 餌入れがカランと地面に落ちました。

 突如として激しい痛みに襲われたのです。こんな体で無理をしてこんなところまで来たからでしょうか。僕の体は限界を迎えているようでした。

「ま、まだだ……もう……少し、もう少しだ……け……」

 何かが、何かを思い出しそうなんです。あと少しだけ待ってほしい。薄れゆく視界の中、その餌入れを求めて手を伸ばします。しかし僕の手はそれに触れたのかどうかわかりませんでした。きっと触れる前に――。

 僕の意識はここで途絶えました。

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