第12話 狐の章七
今から数百年前の佐賀県。
当時、鍋島家の家臣を務めていた者が、主の機嫌を損ねました。それに怒った主は家臣を殺しました。そしてその家臣の家族は嘆き悲しみました。その家族は飼っていた猫に悲しみや憎しみを言って自害をしました――。
そして飼い猫はその血を舐めて化け猫と成り果てたのです。主人の恨みを晴らすために。
そうして猫は飼い主を殺した者を苦しめて殺そうとするのですが、逆に退治をされてしまいます。
これが世に言う鍋島家を救ったと言われる化け猫伝説。
「でも姉さん。それってすでに化け猫は退治されているんでしょう?」
「それが誤りだったとしたら?」
「え?」
私の質問に姉は間髪入れずに答えました。言い伝えというのは昔からかなりあやふやなものなのです。いいように真実を捻じ曲げられているものがほとんどだと聞いた覚えがあります。
「人間って自分勝手だからね。それに引き金を引いたのは明らかに鍋島の者よ。誰が悪いのかは一目瞭然。その退治したっていう人間がどっかの誰かさんみたいにお人好しの可能性があったとしたら?」
「化け猫を退治したと言って――実は見逃した?」
姉は何も言わずに頷きました。
そんなことがあり得るのでしょうか。そもそもそんな話がありえるのでしょうか。
でも世の中は広い。私たちの考えもしなかった出来事が溢れているのでしょう。
行ってどうなるわけでもありません。人間に化けるやりかたを教えてくださいと頼みこむ?
それこそ馬鹿げていると思います。存在すら確認できていないお話ですし。それでも姉は言いました。
「この話は実話よ」
「なぜ言い切れるんですか?」
「母さんから聞いた。代々伝えられている事らしい」
正直なところ、私は母の言う事を全て信用できません。言い伝えからでは事実はわからないものです。
それでも今回のこの話は信じたい。
「佐賀県、ですか。ちょっと遠いですね……」
私がそうぼやくと姉は深い溜め息をつきました。私がどういった行動にでるかわかっていたのでしょう。
「好きになさい。ただし」
と、一度言葉を切って私の顔を覗き込みます。
「私も行くから」
「え? で、でも……」
「あんた一人じゃ心配なのよ。手のかかる妹を持つと姉は大変だわ」
は~あ、まったく。と頭を振る姉。それでもその仕草は面倒だとかそういった感じはありませんでした。
「先に言っておくけど、人間に化けることが出来るってことは、それはもう化け物ってことよ。あんた、狐やめて化け物になる覚悟があんの? 仮に人間に会えたとして、生きていたとして、その後もう人間には会えないかもしれないのよ? その覚悟があんたにあんの?」
「あります」
そんなもの考える余地もありません。生きているか、それだけを知るためには十分です。
「でも、どうやって化け物になればいいんでしょうか? 化け猫に頼めばいいんですかね?」
姉は冷たく端的に答えを口にしました。
「化け物になるには化け物を食べればいいのよ」
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