EX どらごんたいじ 結
――ゆんゆん視点――
「なんで…………なんでなんですか……っ」
私は目の前に広がる認められない光景に『なんで』を繰り返す。
「なんで私をかばったりしたんですか……っ」
きっと私はエンシェントドラゴンの雷撃を食らっても致命傷にはならなかったはずなのに。
「なんで、ダストさんがこんなにダメージを受けてるんですか……っ」
ドラゴンと一緒に戦うダストさんは私なんかよりも魔法防御力が高いはずなのに。
「なんで……、なんで何も喋ってくれないんですか……っ!?」
私がこんなに呼びかけてるのに……どうして、いつもの乱暴な言葉を返してくれないんですか。
「約束したじゃないですか……私にたくさん友達作ってくれるって」
冒険だってまだまだ全然してないのに。ハーちゃんとも喋れるようにやっとこれからなのに。
「…………私とハーちゃんに仇討ちなんてさせるつもりなんですか?」
仇討ちなんてさせるなって言ったのはダストさんなのに。
「なんで…………なんですか…………」
「お、おいアクア。なんか雰囲気がやばいことになってるけど大丈夫だよな? お前がいるんだからダストが死んでも生き返って『あー、死ぬかと思った』って感じでオチを付けられるんだよな?」
「…………あのね、カズマさん。あのチンピラはクーロンズヒュドラの時に一度死んで生き返ってるの。二度目の蘇生は出来ないわ」
「出来ないって…………お前、俺の時は散々ゴリ押しして生き返らせてるだろう」
「それはカズマさんだから出来ることなのよ。カズマさんが選んだチートが私だったからとか、運以外は並で面白いステータスしてるからとか。……生き返ったほうが面白そうだからカズマさんは生き返れるの」
「じゃあ、ダストは…………」
「あいつが本当にただのチンピラならどうにかなったかもしれないけど……あいつは強すぎる。今はまだ辛うじて生きてるみたいだけど、死んだらそこで終わりよ」
そう、ダストさんは一度死んでる。リーンさんに聞いた話だけれど、あのクーロンズヒュドラとの戦いの中、無茶をしてヒュドラに食べられたらしい。誰かに助け出された後、アクアさんに蘇生されて事なきを得たってことだけど、この世界において蘇生が許されるのは本来一度きり。特例らしいカズマさんはそれに当てはまらないけれど、ダストさんはその本来の理の内にいる。
もしもここでダストさんが死ねば……
「だったら、今すぐ治療を……!」
「今の状況じゃ無理よ。あいつの治療に向かったらダクネスが死んじゃう。流石のダクネスもまたドラゴンの姿に戻ってるエンシェントドラゴンのブレスを回復無しで受け続ければ耐えられない。……ゆんゆんには悪いけどダクネスとダストだったら私はダクネスを選ぶわ」
「……どうしようもないのか」
『負けを認めればいい。そうすれば我は戦いをやめ、そなたらを見逃そう。……我に挑みし対価はもらうが』
「…………対価?」
『死にかけているドラゴン使い。その男は我が認めるだけの才能がある。我はもう少しすればこの世界を離れ旅に出るが、その旅にその男を連れて行きたいのだ』
「ま、それもありかもね。死ぬよりかはマシでしょうし。……どうする? カズマさん」
「どうするったって、そんなの負けを認め──」
「──嫌です!」
冷たくなっていくダストさんの身体を抱きしめながら私は叫ぶ。
「ダストさんが死ぬのは嫌です! でも……ダストさんと離ればなれになるのも嫌なんです!」
死んでしまうよりかは確かにマシかもしれない。
でも、離れ離れになれば一緒に冒険ができない。
一緒に夕飯を食べることも出来ない。
ハーちゃんの教育方針で喧嘩することも出来ない。
可能性がある限り、私はダストさんと一緒にいれる未来を諦めたくない。
「お、おい、ゆんゆん。そんなこと言ってもこのままじゃダストは死んで……」
そう困った顔で言うカズマさん。
「らいんさまは、わたしがしなせません。わたしもあるじとおなじきもちです」
危険だからと離れた場所で、でも『もしも』の時のために控えていたハーちゃん──私の可能性──がダストさんの治療を始める。
「小僧! ダストを死なせることは我輩が許さん! だが、トカゲ風情にダストをくれてやるとこも出来ぬ。そのどうしようもないチンピラにはまだやってもらうことがあるのだ」
エンシェントドラゴンとぶつかり合いながらバニルさんはカズマさんに叫ぶ。
「ダストは言っておったぞ、汝がいればどうにかなるだろうと。ダストのどうにかなるという言葉はここで負けるなどというつまらぬ結果ではないはずだ」
「カズマ。少し無茶なお願いをしてもいいでしょうか?」
「……なんだよめぐみん」
「ダストが死んでしまう前にエンシェントドラゴンを倒したいんです」
「そりゃ、少し無茶なお願いじゃないな。凄い無茶なお願いだ」
「……ダメ、でしょうか?」
「その無茶なお願いの理由次第だな」
「ゆんゆんが、引っ込み思案のあの子が、ここまで自分本位なわがままを言ったのは初めてなんです。私はそのわがままを叶えてあげたい。……あの子は私の親友ですから」
「……ったく…………しょうがねなああああああああああああああ!! おい、アクア! 戦いが終わればどんな状態でもダストを助けられんだよな!?」
「もちろんよ。死んでさえいなければ死体だって生き返らせてみせるわ。女神の本気舐めんじゃないわよ」
「ありがとうございます、カズマ。…………それでこそ私の好きな人です」
そうして、無謀な戦いが私の我儘から始まった。
「ウィズ! 10個しか持ってきてない最高品質のマナタイトだ! それで爆裂魔法撃ってくれ!」
カズマさんはそう言ってマナタイトが入ってる袋を私達の方に投げてくれる。
「ゆ、ゆんゆんさん、これ本当に最高品質のマナタイトですよ。…………使ってもいいんでしょうか? 後で請求とかされませんよね?」
「…………今、わりとシリアスな状況なんでつべこべ言わず撃ってください。もしも請求されたら私が一生かかっても返しますから」
貧乏性のウィズさんにとって小さな家を買えちゃうそれを使うハードルが高いのは分かるけど。
「……分かりました。ゆんゆんさん、ダストさんを必ず助けましょうね」
そう言ってウィズさんは私達の前に出て爆裂魔法の詠唱を始める。
「カズマさん! 私は何をすれば……!」
ダストさんを抱きしめてるだけだと不安でどうにかなってしまいそうで、私はカズマさんに指示を求める。
「ゆんゆんはダストが死なないようにしててくれ。心臓マッサージとか人工呼吸とか」
「聞いたことはありますけどやり方はよく分からないです!」
プリーストに頼らない蘇生の方法とは聞いてるけど。
「学校で応急手当の訓練しなかったのかよ!?」
「……あのね、カズマさん。ここ異世界だからね? 元いた世界とは違うんだからね? というか心臓マッサージも人工呼吸も転生者が伝えただけで詳しいやり方とか知ってる人ほとんどいないわよ?」
なんかショックを受けてる様子のカズマさんと呆れ顔のアクアさん。…………結局私は何をすればいいのかな?
「心臓マッサージは…………やり方知らないなら逆に危ないか。ダストの息が止まってたりしたら鼻つまんで口から息を吹き込んでくれ。後はジハードの手伝いだ」
カズマさんの指示を受けて私はダストさんの息を確認する。
「よかった…………息はしてる」
身体は今も冷たくなっていってるけど微かに息はしている。…………ダストさんはまだ生きてるんだ。
「あるじ……きずはふさぎました」
ハーちゃんの言った通り、さっきまでダストさんに空いていた穴は綺麗になくなってる。でも……。
「傷は塞がってるのにどうして……?」
ダストさんは目覚めない。それどころか息も今にも止まりそうなくらい弱くなっている。
「わたしじゃ、きずはふさげても『きのう』のかいふくができないんです」
つまり、このままじゃダストさんはやっぱり死ぬってこと……?
「ハーちゃん、戦いが終わるまで……アクアさんが来るまでなんとかダストさんを死なせない方法ってないの?」
「わたしのせいめいりょくをちょくせつながします」
そっか、今も失われているダストさんの生命力をハーちゃんのドレインタッチを使って外から補填すれば……。
「けど……わたしのせいめいりょくだけじゃ、さいごまでもちません…………」
「私の生命力を奪っても足りない……?」
ダストさんに生命力を流し始めたハーちゃんに私は聞く。
「…………はい」
私とハーちゃんだけじゃ足りないとすると戦ってる誰かから生命力を貰わないといけない。ダストさんを連れて結界の外に行くのは不可能に近いし、もし誰かから貰うとしたらこっちに来てもらわないといけないんだけど……今戦ってる人たちにそんな余裕が有る人はいない。
戦いを止めずにもらえるのは同じ結界内にいるウィズさんだけど、一応アンデッドであるウィズさんにドレインタッチを使っても生命力は貰えない。
…………もしかして、詰んでる?
「やっぱりわがままなんて言っちゃいけなかったんでしょうか……」
そうしていれば少なくともダストさんは死なずに済む。今からでも戦いをやめ──
──ガブッ
…………ガブッ?
「って、ミネアさん!? なんで私の頭噛んでるんですか!? 痛いんですけど! すごく痛いんですけど!」
悩んでいる間にいつの間にか飛んできていたミネアさんに頭を噛じられ、私は涙目になって叫ぶ。
「……はぁ、……はぁ…………い、いきなりなんなんですか…………というか、ミネアさんは前線で戦ってたはずじゃ……?」
なんとか抜けだして息をついた私は頭をかしげる。
「ぼっち娘よ。その中位種のトカゲはバフが切れてるわ、ダストが倒れてからは注意力散漫だわで邪魔なだけだ。そっちで生命力でも何でも絞りとるがいい」
私の疑問に答えるように前線で戦うバニルさんが叫んでくる。
「そっちは大丈夫なんですか?」
ミネアさんがこっちに来た理由は分かったけど、前線は大丈夫なんだろうか?
「我輩を誰だと思っている。トカゲの相手をするくらいトカゲの力を借りるまでもない」
「バニルさんは別に心配してないですけど。ミタ……ミツルギさんは大丈夫なんですか?」
バニルさんは殺しても死ななそうだしあんまり心配はしていない。でもミt……ミツルギさんは魔剣がどんなにすごくても防御力に関してはあくまで凄腕の冒険者レベルのはず。その魔剣もさっきまで通らず苦戦してたみたいだし。
「この剣の本当の力にも慣れてきたから大丈夫だよ。今の僕ならそのドラゴンの代わりまでできる。……それに、その男に借りを作ってしまった。返す前に死なれては困るからね」
そう言いながらミツラギさんは確かにバニルさんと協力してエンシェントドラゴンに攻撃をし、前線を持ちこたえさせている。ブレスはアクアさんの支援魔法や結界によって防げるにしても、爪や尾での攻撃を受ければ掠っただけでも致命傷のはずなのに……。
もしかして、ミタラシさんって私が思っている以上に凄い人なんだろうか? ダストさんに魔剣の扱いのコツを少し教えてもらっただけでここまで強くなるなんて、近接戦闘のセンスだけで言えばイリスちゃんや槍を使うダストさんにも負けてないかもしれない。
「私とハーちゃんとミネアさん…………なんとか足りそう?」
「…………ぎりぎり」
「…………ぎりぎりかぁ」
それでも首の皮一枚は繋がった。後は限界まで……足りなければ限界以上に命を注ぐだけだ。
そうすれば、きっとめぐみんたちが、私の友達がなんとかしてくれるはずだから。
「今のでめぐみんとウィズ合わせて28発目……ラスト一発ずつだ! 頼むぜめぐみん、ウィズ。最高の爆裂魔法を見せてくれ」
「言われるまでもありません。……ウィズ! 最後は同時発射で行きましょう! ちょうどいい機会です、私の爆裂魔法が1番だということをカズマに見せてあげます! ……というわけですカズマ。もっと魔力をください」
既に十分すぎる魔力を受け取ってるはずなのに…………めぐみんの負けず嫌いと爆裂魔法への愛はいつでも変わらない。
「ど、どうしましょう、カズマさんからもらったマナタイトは使いきってしまいましたし、かと言って私の魔力は小競り合いで減ってて爆裂魔法使えるかどうかは微妙な域に……」
めぐみんの同時発射という言葉に焦ったのかオロオロしてるウィズさん。『カースド・クリスタルプリズン』を何度か使っているからか、爆裂魔法使える魔力が残ってるかどうかは微妙らしい。
「……魔力が、たり…なけれ、ば……はぁ、はぁ……私から、奪って…ください」
「何を言ってるんですか、ゆんゆんさん! 今のあなたはただでさえ生命力が足りてないのに、ドレインタッチなんか使われたら本当に死にますよ!?」
「でも、このままじゃ…………ダストさんが…………」
私もハーちゃんもミネアさんももう出せる生命力は出し尽くした。今は命を削ったロスタイムだ。この時間はもう長くは続かない。めぐみんとウィズさんが次撃つ爆裂魔法までが物理的な限界になる。…………めぐみんが2発撃つのを待てばダストさんは死んでる。
だったら、たとえここで私が死んででも、ウィズさんに爆裂魔法を撃ってもらって戦いを終えてもらったほうが100倍マシだ。
私の我儘で続けたこの戦い。ダストさんが死んで終わる結末なんて死んでも認められないんだから。
「だからと言って──」
「──ウィズ! 我輩の仮面だ! 受け取れ!」
ウィズさんの言葉にかぶせるように前線で戦っているバニルさんが『自分の』仮面をウィズさん元へ投げてくる。
「…………これ、どうしろっていうんでしょうか?」
「……被れ、ってことじゃ、……ないですか」
「いえいえ、この仮面からドレインタッチで魔力を奪えってことかも──」
「──何をしているのですかウィズ! もう待ちきれませんよ!」
被るのに拒否反応を示してるウィズさんにめぐみんの催促の声。
「分かりました! 分かりましたよ! 被ります! …………呪われててつけたら剥がせないってことはないですよね……?」
それ、バニルさんの本体だからバニルさんの気分次第だと思いますよ。
――――――
「めぐみんさん! 行きますよ!」
地獄で公爵を務める大悪魔の魔力を借りる、アンデッドの王。
「やっとですか、待ちくたびれましたよ!」
四大元素の水を司る上位神の魔力を借りる、ただひとつの魔法だけを追い求めた魔法使い。
「「『黒より黒く 闇より暗き漆黒に 我が深紅の混淆を望み給う──』」」
相反する力を借りる二人は声を重ね詠唱を始める。
『舐められたものだな…………それとも、そなたは見捨てられたのか?』
「ドラゴンが……あなたがどれだけ凄い存在かはもう十分すぎるくらいに分かってますよ」
古の龍に相対するのは女神に魔剣を与えられし転生者。
「それでも僕がここに一人で立ってるのは舐めてるからでも、見捨てられてるからでもありません。それが勝つために必要だからです」
神々が作りし竜殺しの魔剣、ただひとつを武器にしてその瞬間までの時間を稼ぐ。
「「『──覚醒のとき来たれり──』」」
「ダクネス! 今までで1番大きなブレスがくるわよ! 多分、めぐみんたちの魔法が撃たれるより少しだけ早いわ!」
「分かっている。たとえこの身が燃え尽きようとも、お前たちのもとにブレスは届けさせん」
身も心も不器用な、けれどその硬さだけは人類最硬を誇る騎士。
「まぁ、私の結界がなければ余波だけでめぐみんは黒焦げなんだけどね」
「い、いろいろと台無しだな……」
「でも、結界で耐えられるのはダクネスのおかげ。……信じてるわよ」
女神が誇る最強の盾と鎧は、女神の加護を受け、古龍のブレスがくるのを前に一歩も引かない。
「「『――
(……息をしてない?)
この場ではきっと誰よりも普通な、強さと弱さをかね合わせた少女。
(生きてください、ダストさん…………私はまだあなたとやりたいことがいっぱいあるんです)
死の瀬戸際にいる悪友が手の届かない所へ逝ってしまわないように、その口から息を吹き込む。
「「『──エクスプロージョン!!』」」
完成し、二者から同時に放たれるのは、神を殺し悪魔を滅ぼしうる最強の攻撃魔法。
あらゆるものを破壊するその魔力爆発はエンシェントドラゴンへと二つ同時にぶつかり、今日一番の衝撃を起こす。
『…………あと一歩、足りなかったな。爆裂魔法をあと一発我に撃ち込んでいれば、その男が死ぬ前に負けを認められたものを……』
声に悲しみを含ませエンシェントドラゴンは言う。
「そうか。あと一歩か。…………なら、ぎりぎり間に合ったな」
『潜伏』を解き、エンシェントドラゴンの前に姿を現すのは、運以外は普通のステータスをした最弱職の男。
『その光…………そうか、そなたが──』
「──『エクスプロージョン』――――ッッ!」
最後のマナタイトを使い、魔王を倒したその魔法を解き放った──
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