EX どらごんたいじ エピローグ
「ほら、いい加減起きなさい」
ぺしぺしと遠慮無く自分の額が叩かれる感触。
「っ……アクアのねーちゃん……か。また世話かけちまったみてぇだな」
それに起こされ目を開けてみれば、青い髪をしたチンピラな女神の姿があった。意識を失う前、目を開けたらパッドの女神様がいることを予想していたんだが、どうやら俺の予想は外れたらしい。
…………実はアクアのねーちゃんが天界に遊びに来てるだけで、近くにエリス様がいるのかとも一瞬思ったが、周りを見渡す限り意識を失う前にいた場所と変わっていない。間違いなく生き延びられたようだ。
「別にこれくらい感謝されることでもないわよ。あんたが感謝しないといけないのはそこで寝てる子たちね」
アクアのねーちゃんの言葉に横を見てみればミネアが横たわっている。そのお腹の辺りではゆんゆんとジハードも仲良く眠っていた。
「あんたを助けるために限界越えて生命力を消費してたからね。リザレクションかけてあげたから少ししたら目を覚ますだろうけど、それまでは眠らしてあげてちょうだい」
「そうか。……またこいつらに借りを作っちまったな」
ただでさえこいつらには返しきれないくらいのものを貰ってるっていうのに。
「限界と言えば、あんたも最近限界超えたでしょ? それの反動は私でも治せないから、元に戻るまでは無茶しないほうがいいわよ」
「あー……そっちが原因だったのか。今のアクアのねーちゃんでも治せないのか?」
レベルドレインとどっちが原因かと思ってたが、俺とドラゴンたちだけでエンシェントドラゴンに認められる時の無茶が俺の不調の原因だったらしい。
「蘇生の後の後遺症と一緒だから。魂の方の損傷でこっちの世界じゃどうしても治せないのよ。魂だけでエリスの所に行けば治せるでしょうけど」
「それどう考えても死んでるよな」
ま、元に戻るって話だし、時間経てば治りそうなのが確信できただけでもましか。ヒュドラに食べられてから蘇生して調子悪かった時と感覚が似てたから、そのうち治るだろうとは思ってたが。
「しっかし、アクアのねーちゃんがなんか頭良さそうなこと言ってると違和感すげーな」
頭弱いだけで、知識には関係ないのは分かってんだが…………って、しまった。流石にこの言い方は助けてくれたってのに失礼だよな。アクアのねーちゃん怒るんじゃ……。
「…………じゃ、私はエンシェントドラゴンにお願い言ってくるから」
「……って、あれ? 怒んねえのか?」
「…………別に。今日は見逃してあげるだけよ。次同じこと言ったら聖なるグーを喰らわしてあげるからね」
そう言い残してアクアのねーちゃんはエンシェントドラゴンの所に向かっていく。
「んー? 怒ってるのは確かみたいだが……なんだったんだ?」
いつものアクアのねーちゃんなら言い返すくらいはすると思ったんだが……。
「アクア様は優しい方ですから。…………ダストさんのことをすぐに助けてあげられなかったことを気にしてるんですよ」
「ウィズさん。……すぐに助けられなかったって言っても、あの時の状況考えれば当然じゃないですか?」
アクアのねーちゃんが俺を助けようとすればすぐに戦線が崩壊したはずだ。それくらいにはアクアのねーちゃんが戦いの要だったし、俺以外の誰かが死ぬ可能性もあった。知らない仲じゃないとはいえ、知ってる仲程度でしかない俺を助けなかったくらい気にすることでもないだろうに。
「それでも気にするから、アクア様は女神様なんですよ」
「…………そんなもんすかねぇ」
なんにせよ、アクアのねーちゃんにはまた借りを作っちまったな。何かで借りを返せればいいんだが。
「カズマ! あなたという人は……! 紅魔族を差し置いて1番美味しい見せ場をもっていくとはいい度胸じゃないですか!」
「わ、悪かったよ。俺もあくまで保険で唱えてただけで、めぐみんから見せ場を奪うつもりはなかったんだって」
「……本当ですか? カズマはなんだかんだで美味しい所を持って行きますから信用ならないんですが。今回だってウィズに10個あるマナタイトを9個しか渡さずに1個隠し持っていたみたいですし」
「…………。そんなことよりめぐみん。俺の爆裂魔法の点数はつけるとしたら何点だ?」
「……露骨にごまかしましたね。威力とかそういうのを見れば50点も行かないですよ」
「まぁ……そうだよなぁ」
「でも、演出的には100点です。…………だから本当に悔しいんですが」
「……悪かったよ。夕飯のプリンやるから機嫌直してくれ」
「2個ですよ。…………後、あーんも付けてくれたら許します」
「フハハハハハ! エンシェントトカゲが我輩に負けを認め、我輩の命令に従うと思えば笑いが止まらぬわ!」
『…………別に勝敗に関しては拘らないが、我は貴様の願いなど叶えないぞ。何故悪魔の願いを叶えねばならないのだ』
「…………なんだと? それでは我輩は何のためにこんな辺境に来たのだ!? どこぞの盗賊団とポンコツ店主のせいで破産したカジノを再建する足がかりにと来たというのに」
「プークスクス。受けるんですけど! 何でも見通すとか偉そうなこと言ってる木っ端悪魔が無駄骨折るとか超受けるんですけど!」
「駄女神の分際で我輩を笑いおって…………」
「負け惜しみが心地いいわ。というわけでエンシェントドラゴン。うちのドラゴンであるゼル帝をドラゴンの帝王にしてちょうだい」
『同じことを二度も言うのはアレだが…………。何故女神の願いを叶えねばならないのだ。我が叶えるのは我に力を認められし人間の願いだけだ』
「なんでよー! 叶えてくれないんだったら何で私がこんなに苦労しないといけなかったの!? けっこう大変だったんですけど! 支援魔法かけたり回復したり結界はったりカズマさんにドレインタッチで魔力奪われたり大活躍だったんですけど!」
「フハハハハハハハハハハ! 目論見は少し外れたが駄女神の悲鳴が聞けたことで満足するとしよう」
「上等よ! 性悪悪魔! フルパワー女神様である私に喧嘩売るなんていい度胸じゃない!」
「どんなに力が強かろうとそれを扱うのが頭と運が残念な女神であれば怖くないわ! 見通す悪魔が断言する。貴様は我輩の嫌がらせを受けて鬼畜な保護者に泣きつくであろう」
「…………旦那も命がけでアクアのねーちゃんからかうなよ」
後ろに守るものがいないなら旦那が倒されるとは思わないけど。
「ん…………ダスト……さん?」
声に振り向いてみれば。瞼をこすりながらゆんゆんが身体を起こしていた。
「お、ゆんゆん目が覚──」
「──ダストさん!」
目が覚めたかという言葉は、その途中でゆんゆんに体当たりを食らい、その上締め付けを受けることで中断される。
「おい馬鹿、いてぇって。締め付けてくんじゃねぇよ」
「馬鹿はどっちですか! ダストさん、あなたもう少しで死ぬところだったんですよ!」
「?……おい、ゆんゆん。お前もしかして泣いてんのか?」
「…………どうして、私をかばったりしたんですか?」
質問に質問で返してんじゃねえよ、このぼっち娘が。
「どうして言われてもな…………気づいたら動いてたとしか」
エンシェントドラゴンの魔法がゆんゆんに向けられてるのに気づいたら、いつの間にか俺の身体が動いてて……。その次に気づいたら俺に大きな穴が空いてた。
…………ほんと死ななかったのが不思議で仕方ない。
「……そんなの、ダストさんには似合いませんよ。チンピラのくせに」
「うるせぇよぼっち娘。一応は助けられたんだからお礼の一つや二つしやがれ」
……なんて、こいつらに命を助けられた俺が言える台詞じゃねぇか。
「……お礼なんてしませんよ」
だよな。
「ダストさんが死ぬかもしれない……そう思った時私がどれだけ胸が締め付けられる想いをしたと思ってるんですか。怖くて……本当に怖くて。自分が許せなくて、悲しくて。……寂しくて。こんなに苦しい思いをしたの初めてだったんですよ」
「…………悪い」
「そんな言葉じゃ許しません。……ゆる、うぅっ……ゆるさない、……んですからぁ……うぅぅっ……あぁああああああああっ!」
「…………やっぱ泣いてんじゃねぇかよ」
抱えていたものが決壊したのか、嗚咽を抑えられなくなったゆんゆんの頭を撫でて落ち着かせようとする。
(……ほんと、こいつには借りを作ってばっかだな)
借りを返そうとしているのにどんどん借りが増えていく。俺はこいつに借りを全部返せる日が来るんだろうか。
「……ねぇ、ダストさん」
「あん? どうしたよ。落ち着いたんだったらそろそろ離れて欲しいんだが……」
俺達を見るロリっ子の不機嫌そうな目とウィズさんの生暖かい目が痛いから。
「責任…………取ってくださいね?」
「責任?……責任って何のことだよ」
借りは作っちまったが責任取るようなことは別にしてない気がするんだが……。
「や、やっぱりなんでもないです!」
「?……そうか」
ゆんゆんが何を言ってるのか全然分からないが、旦那曰く俺は女心の察しが悪いらしいので考えるだけ無駄だと納得する。
「ところでダストさん。恋人と悪友だったらやっぱり悪友のほうが大切ですよね?」
「…………ぼっちこじらせてるお前がそう思うのは仕方ねぇが、恋人できたら相手にそんなこと絶対言うなよ」
このぼっち娘の恋人になる奴は苦労するだろうなと思う俺だった。
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