第4話 『お約束』は守りましょう

――めぐみん視点――



「お頭様お頭様。少しいいですか?」


 我が盗賊団の秘密k……もといアジト。ソファーに沈んでいた私に下っ端1号のアイリスが話しかけてきた。


「なんですか? いい加減その指輪を私に取り上げられる決心がついたんですか?」


 その小さな指にはめられた安っぽい指輪。高貴な彼女には不釣り合い過ぎるそれに苦々しい思いを感じながら私は言う。


「……まだそれを言うんですか。たとえ相手がお頭様であろうとこの指輪は絶対に渡しませんよ」

「……まぁ、そうでしょうね」


 仮に自分が指輪をもらった立場として、アイリスが王女の立場からそれを寄越しなさいと言おうと絶対に渡しはしないだろう。

 だからと言って納得できるわけでもないので、こうして事あるごとに寄越せと言ってしまうのだが。


「その件じゃないならどうしたんですか? またセシリーお姉さんがエリス教徒に嫌がらせをして留置所にいれられたんですか? 言っときますが私はもう引き取りに行くのは嫌ですよ」

「それはまだ大丈夫です。今日のセシリーお姉さんはまだ起きてきていません」


 既にもう昼を過ぎているのだが。盗賊団は別にいいとしてもプリーストとしての仕事は何もないんだろうか。あれで一応アクシズ教団アクセル支部の支部長のはずなんですが。

 ……まぁ、アクシズ教徒の生態系なんて考えるだけ時間の無駄ですね。


「じゃあ、なんですか? 言っときますが『あれ』に話しかけろと言うんでしたら全力で拒否しますよ」

「さ、流石に『あれ』呼ばわりは酷いんじゃ…………いえ、要件は確かにそれなんですけど」


 そう話す私とアイリスの視線の先にいる『あれ』……もとい、ゆんゆんはなんだか見たこともない大きな卵を幸せそうに撫でていた。

 …………たまに思い出したようにニヘラと笑うのがなんだか気味が悪い。




「…………あれ、何の卵かわかりますか?」


 強い魔力を持った卵というのは分かりますが……。


「多分、ドラゴンの卵じゃないかと…………私も前に本で見ただけなので自信はないですが」

「…………なんであの子は最低でも一つ数千万もするものを持っているんですか」


 ぼっちでお金の使いみちがないにしても、流石にそこまでの蓄えはなかったはずだ。


「私に聞かれましても…………。ドラゴンの卵というものは基本的に市場には出回りません。ドラゴン牧場で孵化させられて人に慣らされてから市場に出回るからです」


 そう言えばじゃりっぱも隣国のドラゴン牧場から買ってきたという話でしたか。


「ですので、仮に卵の状態で買おうと思えばどんな竜種の卵でも億単位のお金が必要です。数千万というのは冒険者がダンジョン等で運良く見つけて売る時の値段ですね」


 億単位……単独で大物賞金首を倒せばそれくらいのお金は稼げるかもしれないですが……。


「それに、市場には出回りませんから買うとしたら独自のツテが必要ですね」

「あ、それでゆんゆんが卵を買ったという線はなくなりましたね」


 ぼっちのあの子がそんなツテを持ってる訳ありませんから。


「実際、貴族や大商人と言った人たちの中でもそういったツテを持っているのは一部ですからね……。それ以外の人にくるドラゴンの卵売りますという話は十中八九詐欺らしいですし。多分、ダンジョンかどこかで見つけたんじゃないでしょうか」


 うちにその詐偽の狙い撃ちにされているのがいるんですが、どうにかならないですかね。


「ただ最近は野良ドラゴンが生息しているダンジョンやフィールドが殆ど無いんですよね。野良ドラゴンを見かけるのはエルロードの金鉱山のように、どこからかやってきて棲みついたという話がほとんどです。なのでただでさえ希少な野良ドラゴンのそのまた希少な卵を見つけるとなるとお兄様並の幸運が必要な気が……」

「それもう不可能って言ったほうが正しいんじゃないですか」


 あの男の幸運値は魔王軍幹部が驚愕するレベルですから。




「けれど、王族であるアイリスがドラゴンの卵を見たことがないというのは意外ですね。王族であればツテを用意するのも簡単なのではないですか?」

「ベルゼルグにはドラゴン牧場がありませんから言うほど簡単ではありませんよ。無理をすれば確かにどうにかなるかもしれませんが……わざわざ高いお金を払って卵で取り寄せる理由はありませんね」


 この国の王族のこういう質実剛健なストイックさは嫌いになれない。


「それにドラゴン使いのいないこの国では高いお金を払ってドラゴンを取り寄せてもお金に見合った戦力にはなりませんからね。紅魔族の方やお兄様のような変な名前の方たちの報酬を増やしたほうがよっぽど有意義なお金の使い方です」

「そうなのですか?」


 ドラゴンは最強の生物。戦力としてみればかなりのものになると思うのですが。


「ドラゴンといえど生まれてすぐに最強という訳じゃありませんから……10年くらいじゃグリフォン並で実際に最強の生物と言える威風を持つのは20年くらい経ってからなんですよ」


 まぁ、確かにじゃりっぱが最強の生物と言われても首を傾げますが。


「では、その20年くらいたったドラゴンを取り寄せればいいのでは?」

「その頃になりますと値段が羽上がりますし、苦労して取り寄せてもドラゴン使いがいないと割とすぐに死んでしまうんですよね」

「さ、最強の生物とは一体……?」


 我が爆裂魔法ならともかくアイリスの爆裂もどきでも一撃でしたし割とがっかりなんですが……。


「ステータスは凄く高いんですが知能が普通の魔物より高い程度なので……引き際を間違ってしまうんですよね。魔王軍の親衛隊クラスが数人いれば割と簡単に狩られてしまいます」

「ロマンの欠片もありませんね。……そう言えば、アイリスが倒したあのドラゴンは何年くらい生きたドラゴンなのでしょうか?」

「知能はそれなりに高そうでしたが人語を解してる感じでもなかったので……多分100年くらい生きたドラゴンかと」

「100年生きて一撃とは……」


 ドラゴンが想像以上に弱いのかアイリスが規格外に強いのか。


「流石にアクアさんの補助魔法がなければ一撃では無理だったと思いますよ。それにララティーナが盾になってくれたからこそ全てを一撃にかけられたわけですし」

「ふっ……勝ちました。私ならアクアの補助なし詠唱なしで一撃でしたよ」

「……お頭様はいろいろおかしいので比べないで下さい。……とにかく、あのドラゴン相手なら実践経験の少ない私一人だと苦戦したと思いますし、けして弱い相手ではありませんよ」


 それでも一人では勝てないとは言わないんですねこの子は。聖剣の力と王族のステータスを考えれば当然かもしれませんが。

 ……実践経験をつめばこの子はどれほど強くなるのでしょうね。


「しかし……何て言うか、アイリスに物を教えられるとなんだか変な感じがしますね」


 いつもは世間知らずなアイリスにいろいろ教える立場なだけに。


「あのですね、お頭様。一応私は王族でして……小さい頃からたくさん勉強してるんですよ」


 王族が英才教育を受けているのは分かってはいるんですがこうイメージ的にというか……。


「それに、ドラゴンのことは重点的に教えられましたからね」

「? 何故ですか?」


 最強の生物とはいえ単なる魔物の事を王族が詳しく学ぶ必要があるんだろうか。


「だって……魔王軍との戦いが始まった当初、戦いの鍵はドラゴンとドラゴン使いが握るだろうと言われていましたから」

「言われていた……? 今は違うのですか?」




「はい。……私達人間が上位ドラゴンに見捨てられた時から、それは違ってしまいました」






「ねぇ、めぐみん、イリスちゃん。二人ともさっきから何の話をしてるの?」

「ゆ、ゆんゆん!? い、いつからそこにいたのですか!?」


 見捨てられたとはどういうことか。それを聞こうと口を開く前に、いつの間にか私達の傍へやってきていたゆんゆんに話しかけられる。

 変な笑みで上の空だったからと油断していた。まさかアイリスが王族であることとか聞かれてしまったんじゃ……。


「いつからって言われても、ついさっきだけど……」

「そ、そうですか……(なら、アイリスが王族であることは聞かれてないみたいですね)」

「(そうみたいですね。……ですが、なぜお頭様は私の正体を隠すのですか? ゆんゆんさんなら話しても問題ないと思うのですが)」

「(何をバカなことを言っているのですか。このぼっち娘は常識人を自称してる面倒くさい子なのですよ。あなたの正体を知ったら更に面倒くさいことになるのが目に見えています)」


 まぁ、本当は気づいているのかもしれないし、気づいていても頭のなかで考えるのを拒否してるだけの気もしますが。追い詰められたら開き直る子ではありますが基本的には小心者ですからね。王族を義賊とは言え盗賊団に巻き込んでるなんて事実、この子は認められないでしょう。


「何を2人で内緒話してるの? ……めぐみんがエルロードから帰ってきてからこっち、二人共距離が近いよね。言い争いしてるのもよく見るし。もしかしてイリスちゃんも王女様の護衛についていってたりしたの?」


 またこの子は判断に困ることを言いますね。やっぱり頭じゃ気づいてても心が認めないとかそんな感じなのかもしれない。


「別にあなたに話せないことを話してるだけですよ。なので気にしないでください」

「その言い方で気にしないと無理に決まってるじゃない! ねぇ、めぐみん! 私達親友なんだよね!? 私に話せなくてイリスちゃんに話せることってなんなの!?」

「あなたに話せないことはあなたに話せないことですよ。親友であることは認めてあげないこともないですから聞かないでください」

「…………まぁ、親友だからこそ話せないこととかあるだろうしね」


 ……そこで納得してしまうんですか。この子は相変わらずチョロいですね。


「(お頭様。ちょうどいいので今、卵のことを聞いていただけませんか?)」


 ちょんちょんと私を振り向かせてアイリス。

 ……そう言えばいつの間にかドラゴン講義になってましたが、そういう要件でしたか。


(…………けど、聞きたくないですね)


 このぼっち娘、そわそわしててどう見ても卵のことについて聞いてほしそうにしていますし。こちらから素直に聞くというのもなんだか負けたような気がする。

 呆けてたくせにこっちに来たのも多分私達がドラゴンのことについて話してたからでしょうし。


「納得しましたか? では、私はまだイリスと話すことがありますので。ゆんゆんは向こうへ行っててください」

「そ、そんなこと言わないでもいいじゃない。ほら、めぐみんだって私に聞きたいことあるんじゃないの?」

「ありませんよ」

「う、嘘だよね……? さっきだって、話の内容はよく聞こえなかったけど『ドラゴン』って単語出てたし…………ね? 聞きたいことあるでしょ?」

「ありませんよ。…………たとえ仮にあったとしても、私からは絶対に聞きませんよ」


 この子の態度でそう決めた。


「…………………………」

「…………………………」


「……分かったわよ。ねぇ、めぐみん、イリスちゃん。この卵のことについて聞いてくれない?」


 勝った。




「全く……聞いてほしければ最初からそう言えばいいでしょうに。あなたは相変わらず意地っ張りですね」

「ねぇ、めぐみん。それあなたが言う? 言っちゃう?」

「…………正直この場ではお頭様のほうが意地っ張りというか……大人げないと思います」


 うるさいですよ。


「それで? 結局その卵は何なんですか?」


 勝負に勝ったこともあってか私は素直に卵のことを聞く。アイリスの講義で微妙に世知辛い現実を知ってしまったがドラゴンはドラゴン。最強の生物という称号は紅魔族の琴線に大いに触れる。


「やっぱり気になってたんじゃない…………んふふー、気づいてるみたいだけど、これはドラゴン、それもブラックドラゴンの卵なんだって!」

「ブラックドラゴン……確か上級の竜種のドラゴンでしたか。あらゆる竜種の中で1番凶暴な性格をしているという話でしたね」


 アクアが前にゼル帝がブラックドラゴンになるのだけは嫌だと喚いていた気がする。


「ドラゴンは卵の時に与えられた魔力次第で竜種が変わったりしますから、本当にブラックドラゴンが産まれるかは分かりませんが…………ブラックドラゴンは凶暴でほとんど卵を産んだりしませんから、もし本当にブラックドラゴンが産んだ卵ならいくらになるか…………ギルドで売却しても2億エリスは堅いんじゃないでしょうか」


 アイリスの反応。…………どうでもいいですが、この子は億単位の金銭感覚は普通に持ってるのですね。串焼きの相場とかは分からないくせに。


「…………それ、本物なんですか?」


 アイリスの言葉を信じるなら、この卵は希少どころの話じゃない。


「私も疑ったんだけど…………感じる魔力的にドラゴンじゃなくても凄い生き物の卵なのは確かだと思う」

「凄い魔力を感じても生まれてくるのはただのひよこという可能性はありますよ」


 いえ、ある意味ゼル帝も凄い生き物なのは確かですが。


「まぁ、ブラックドラゴンかどうかはともかくイリスの見立てでもドラゴンの卵みたいですし、ドラゴンの卵なのは確かなのでしょうが…………どうしてそんなものを持ってるんですか?」


 結局一番聞きたいことはそれだ。他はなんとなく聞かなくても分かるが、それだけは本当に想像がつかない。ブラックドラゴンの卵だと言うなら尚更だ。


「………………言えない」

「…………はい? 今なんて言いました?」

「だから…………言えない」

「…………あれだけ聞いてほしそうにしといて、肝心な所でそれとか喧嘩売ってるんですか?」

「だ、だって……! (ダストさんにもらったとか言っても多分信じてもらえないし、信じてもらったとしてもダストさんに貰ったものを大事に抱えてるとか…………言えるわけないじゃない)」

「なんですか? 聞こえないんですが」


 ごにょごにょとして一体何を言ってるのか。…………カズマがいれば読唇術で分かったかもしれないんですが。


「とにかく言えないの! そ、それよりもめぐみん知ってる? ドラゴンってすっごく頭良くて人が喋ってることも分かるんだって」

「知ってますよ。イリスとその話をしてましたから」


 本当に分かるようになるのは最低でも100年くらいかかるのが普通らしいですが。


「すごいよね! しかも大きくなったら人の姿にもなれるんだよ? そうだよね、イリスちゃん」

「えっと…………はい。確かにドラゴンは大きくなったら人化の術を覚えるそうですね。(……4、500年くらいしたらの話ですが)」


 ……アイリスが小声で言った言葉は聞かなかったことにしよう。


「…………まさかとは思いますが、あなたは生まれてきたドラゴンを育てて友達になろうとか、そんなことを思ってるわけじゃないですよね?」

「…………そうだけど、悪い?」

「いえ……悪いとは言いませんが……」


 カズマが言うにはボールが友達だという奇特な人もどこかにいるみたいですし。それに比べればドラゴンと友達というのは普通かもしれない。

 …………うん、この子はボールどころか植物と友達というアレな子ですからむしろ健全になってますね。


(私にはよく分からない感覚ですけどね……)


 元人間であるウィズや、100歩譲って普通に話せるバニルと友達になるというのはまだ分かる。けど、言葉を交わせない相手と友達になるというのはよく分からない感覚だ。ペットや使い魔として大事にするというのなら分かるのだが。


(…………あの男なら分かるのでしょうか?)


 もしもあの男の正体が本当にアレなのだとしたら。ゆんゆんの気持ちを分かってやれるのかもしれない。

 …………いや、分からないか。あの男だし。どうせ本当にアレだとしてもドラゴンのことなんて道具としか思ってないに違いない。良くて使い魔やペットと言ったところだろう。





「……ところで、生まれてくるドラゴンの名前は決まってるのでしょうか?」


 あの男のことは今はどうでもいいと、私は頭の中から追い出し、ついでに話題も変える。


「決まってないけど…………私がちゃんとつけるからね?」


 先んじて牽制するとはやっぱりゆんゆんも成長してるのだろうか。なんだか最近はチョロいだけのぼっちじゃなくなってる気がする。


「親友からのお願いです。一生で一度でいいからドラゴンの名付け親になってみたいのです」


 けれど親友からのお願いといえば流石に断れないはず。さっきも親友という言葉で誤魔化せましたし。………………じゃりっぱにはごめんなさい。


「もう……めぐみん? 親友って言葉はそんな風に便利に使ってちゃ駄目だよ? じゃないとろくでもないチンピラ冒険者になっちゃうんだからね」


 なん……だと…………。バカな、あのぼっちで友達がほしいと泣いてた構ってちゃんが…………いえ、別に悪口じゃないですよ? 里でのゆんゆんを客観的に見たらそうだよなぁってだけで。

 …………本当にこの子は成長してるのだろうか。そうだとしたら少しだけさb――


「――エクスプロージョン!」

「めぐみん!? いきなり叫んでどうしたの!? というか、今日はもう撃ってるから撃てないのは分かってても爆裂魔法を叫ばれたら心臓に悪すぎるからやめて!」

「……すみません。いえ、本当にただちょっと叫びたくなっただけですから」


 ですのでアイリス。そんな部屋の隅っこにいないでこっちに帰ってきなさい。私が悪かったですから。



「いきなり叫び出すとか……本当にもう、めぐみんはしょうがないんだから……」

「あなたにだけは言われたくありませんよ」


 だいたい何で私が叫ぶはめになったと…………いえ、まったくこれっぽっちもゆんゆんは関係ありませんが。


「何をいきなり頭をブンブン振ってるのめぐみん? ほら、イリスちゃんがさっきいきなり叫んだのも相まって変なもの見る目してるよ?」

「い、いえ、ゆんゆんさん。私はけしてそのようなことは……! た、ただその……お頭様? 必要でしたら王都でも腕利きのプリーストをご紹介しますよ?」


 ……本当に爆裂魔法を唱えてあげましょうかこの子達は。


「うちには運と頭に目を瞑れば世界最高のアークプリーストがいますから必要ありませんよ。……まったく失礼にもほどがありますよ」

「今のめぐみんの発言に比べたら全然失礼じゃないと思うけど…………って、あっ! もうこんな時間!?」


 時計を見て驚いた声を上げるゆんゆん。


「ごめん、めぐみん。私今からちょっと行かないと行けないところがあるんだ。それでお願いがあるんだけど、この卵に魔力を込めるように温めててくれない?」

「はぁ……まぁ、魔力も回復してきたところですし別に構いませんが…………どこに行くのですか?」


 卵をゆんゆんから預かりながら私は聞く。


「えーっと……単なるクエストだけど」

「冒険ですか!? ゆんゆんさん、私も一緒に行ってもいいでしょうか?」


 クエストと聞いて目を輝かせるアイリス。…………エルロードで十分冒険したでしょうにこの子は。


「だ、ダメだよ! イリスちゃんをあんなのに付き合わるわけにはいかないから!」

「そう……ですか…………残念です」

「ま、また今度皆でクエストに行こうよ! ね? セシリーさんとかクリスさんとかも一緒にさ!」

「そう……ですね。はい、その時を楽しみにしていますね」


 アイリスが納得したのを見て安堵の息をつくゆんゆん。

 ……しかし、ゆんゆんが『あんなの』と表現するとは……一体全体何をするんだろうか。それとも、誰かと……?


「と、とにかく時間だから行くね!」


 そう言って慌てて出ていくゆんゆんを見送る。一応私もアイリスもいってらっしゃいと言ってあげたのだがあの様子では気付いてないだろう。

 ……あの子はもう少し自分が周りに気にかけられてることに気づいていいと思う。


「ところでお頭様。1つお願いがあるんですが」

「なんですか? 今の私は卵を温めるのに忙しいので何かしろと言われても出来ませんよ」


 しかしドラゴンですか……ドラゴンスレイヤーの称号にも憧れますがドラゴンを使い魔にするというのもいいですね。……ゆんゆんよりも魔力をたくさんあげれば生まれた時に私を主だと認めるとかないですかね。


「いえ、その……私にもドラゴンの卵を温める作業をやらせてもらえないかと……」


 目を輝かせてアイリスは言う。

 好奇心の塊のアイリスが……しかもたくさん勉強したというドラゴンの卵を前にしたらそう思うのは当然かもしれない。

 ですが……。


「嫌ですよ。……どうしてもと言うならその指輪を私に貸してください。大丈夫ですよ、ちゃんと後で返しますから」

「うぅ……お頭様のいじわる! 出来るわけないじゃないですか!」


 恋敵にはちょっとだけいじわるをしてしまう私だった。

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