第5話 喧嘩は街の外でやりましょう
「なぁ、ゆんゆん。少し相談があるんだがいいか?」
クエストを終えた帰り道。今日も今日とてゆんゆんと一緒に高難易度のクエストを楽にクリアした俺は隣を歩くゆんゆんにそう話しかける。
「はい? グリフォンとの一騎打ちで疲れてるんで明日にでもして欲しいんですが…………ダストさんは後ろで応援してただけだから元気有り余ってるでしょうけど」
「そう言うなよ。俺は下級職の戦士だぜ? グリフォンやマンティコア相手にして戦ったら下手したら死んじまう」
ヒュドラにぱくっと殺られた記憶もまだ新しい。
「だったらもう少し難易度低いクエスト選びましょうよ……」
「大丈夫だ。お前はこの街でも1、2を争う冒険者だ。グリフォンくらい一人でも余裕だろう」
「なぜでしょう……褒められてるはずなのにダストさんに言われるとイラッとくるんですが」
もう少し人の言葉を素直に受け取れないのかこのぼっち娘は。人がせっかくおだてて利y……やる気出してもらおうとしてるってのに。
「一応言っとくが、お前がこの街で1、2を争う冒険者だって意見には何も嘘はねーぞ」
冒険者に限らなきゃバニルの旦那やらウィズさんがいるし、俺の見立てじゃ最近よく見かけるイリスとか言ったロリっ子もこいつより強い気がする。
それでも、冒険者という枠組みの中で見ればこいつは一番って言ってもいい実力者だ。……カズマパーティーはいろいろ判定しづらいから除外してるけど。
「そ、そうですか? そこまで言ってもらえるならダストさんに言われても少しだけ嬉しいですね」
少しだけ恥ずかしそうにはにかむゆんゆん。……一言多いのは目をつむってやろう。
その代わり明日もマンティコア討伐で頑張ってもらうが。
「それで相談なんだがな」
「あ、はい。相談ってなんですか? まさかこの間貸したお金もう使い切ったんですか? 一応言っておきますけど前のお金返してくれるまでは貸しませんよ?」
…………どっかのまな板と同じようなこと言いやがって。
「流石にまだ全部は使い切ってねーよ。……今日リーンに金返す予定だからそれでなくなるけど」
「あの……? それってつまり、私から借りたお金でリーンさんにお金を返すつもりなんですか?」
「? だとしたらなんだよ」
「……いえ、ダストさんはダストさんなんだなぁと」
なんでこいつは呆れたような顔してんだろう。俺が珍しく人に金を返そうとしてるってのに。
「ま、とにかく金の相談はまた今度だな。クエストの報酬も入るし一時は大丈夫だ」
ゆんゆんがクエストを手伝ってくれてる間なら返す金以外で困ることはなさそうだし。
「じゃあ、なんですか? ダストさんが私に相談することなんてお金のことと女性のことしか思い浮かばないんですが」
……本当にこいつは俺のことなんだと思ってるんだろう。
「よく分かったな。俺がしたいのは確かに恋愛相談だ」
まぁ、それで当たりなわけだが。……実際俺もこいつに相談することなんて金と女の事くらいしか思い浮かばないんだよな。
「はぁ…………つまりナンパもといマッチポンプするから手伝えって話ですか? 嫌ですよもう」
「恋愛相談って言っただけでなんでそんな話になんだ。…………あとその生ごみを見るような目はやめろ」
「この間、クエストだって言って騙してナンパの手伝いやらされたからじゃないですかね。…………相手の女性に警察呼ばれてお説教されたのはショックでした」
「……その件は正直悪かった。次はちゃんとうまくやるから安心しろ」
ぼっちのこいつに絡み役をやらせたのが間違いだったんだよな。今度手伝わせる時はサクラとかやらせよう。
「反省! 謝罪はいりませんから反省してください! しかもなんで私が付き合う前提なんですか!?」
「そりゃ、親友だからだろ」
「ダストさんは親友なんかじゃありません! 友達の知り合いです!」
……あれ? 前より好感度下がってね?
「ふぅ…………それで? ナンパじゃなければなんですか? 女の子紹介しろって言われても紹介できるのはアクシズ教徒のプリーストくらいですよ」
「アクシズ教徒のプリーストねぇ……アクアの姉ちゃんといい留置所でよく会う女といい恋愛対象として見れる気は全くしねーからいらないな」
どっちも見た目は文句なしなんだが…………まぁアクシズ教徒なんてどいつもこいつもそんな感じだから、ゆんゆんの紹介できるってプリーストも同じ感じだろう。
「失礼ですよダストさん。だいたいダストさんはちょっと年齢が離れてるだけで守備範囲外とか言ったり贅沢言い過ぎなんですよ。少しは身の程をわきまえないと本気で一生彼女出来ませんよ?」
「大きなお世話だよ毒舌ぼっち。…………というか最近お前の毒舌本気で酷くねーか?」
「ダストさんの口の悪さに比べたら可愛いものだと思いますけど」
一理ある。
「それに、前にもいいましたけどここまで遠慮なく言えるのはダストさんくらいですから。他の人にはちゃんとしてますよ」
まぁ、本当にそうなら別に問題ないんだけどな。こいつは無意識で毒はくことがあるから安心できない。
「なんですか? もしかして私の事心配してるんですか?」
「だとしたらなんだよ?」
また大きなお世話ですとでも言うつもりじゃないだろうな。
「いえ、ちょっと意外だなって……。本当に心配してもらわなくて大丈夫ですよ。心配してくれてありがとうございます」
…………急に素直になってんじゃねーよクソガキが。調子狂うだろうが。
「まぁ、別に心配とかはしてねーよ。これ以上毒舌酷くなったらダチが増えるどころか逃げ出すんじゃないかって思っただけで」
「私の感謝の気持ちを返してください」
早とちりしたのはお前だからな。俺は謝らないぞ。
「って……待て。一体全体何の話してんだよ。恋愛相談だよ恋愛相談! お前の毒舌っぷりなんてどうでもいいっての」
「本当に私の感謝の気持ちを返してください。…………恋愛相談と言われても、ダストさんに紹介できる女の人はいないってことで結論出たじゃないですか」
「だからそれがそもそも違うんだよ。今日の俺は別に女の子紹介してくれって相談したわけじゃねーんだ」
こいつがナンパだの女の子紹介だの早とちりしただけで。
「…………え? ナンパ手伝えとか女の子紹介しろとかいう話以外でダストさんが私に恋愛相談…………?」
おう、気持ちは分からないでもないがその信じられないものを見る目はやめろ。
「俺もこんなことをお前に相談するのはどうかと思うんだがよ。他に相談できそうなやつがいねーんだよ」
キースは論外。テイラーも恋愛事じゃ頼りにならない。リーンは……まぁ、置いとくとして。
「うーん…………一応真面目な話みたいですね。いいですよ、友達の知り合いとは言え知らない間柄じゃありません。相談を受けましょう」
そこは普通にダチだと認めていい場面だと思うんだが。…………こいつ友達が欲しい欲しい言ってんのに本当俺のことはダチだと認めないな。爆裂娘やバニルの旦那は良くて俺はダメとか割りと謎なんだが。流石の俺もあの二人と比べたらまともな自信があるぞ。……いや、本当にあの二人よりかはまともだよな……?
「上から目線なのが気になるが、受けてくれてありがとよ。実はだな、最近夢を見るんだよ」
「夢……ですか?」
「ああ、同じ相手の夢ばかり見ててな…………もしかして俺はそいつのことが好きなんじゃないかと思ったんだ」
「同じ人の夢を見る…………なんだかダストさんらしくないロマンチックさですが……確かにそれは恋かもしれません」
まぁサキュバスサービスでお願いしてんだから見るのは当たり前なんだがな。
「それで夢に出てくるという人はどんな人なんですか?」
「そうだな…………とりあえず胸とかは結構大きいな。ルナとかウィズさんよりは小さいけど」
アクアのねーちゃんよりは大きいし、ララティーナお嬢様とだいたい同じくらいか。
「いきなり答えるのが胸の大きさとかさすがダストさんですね……」
「後は歳が17歳位で黒髪で赤い目をしてる」
「黒髪で赤い目ってことは紅魔族ですね。見た目はわかりましたけど性格はどんな感じなんですか?」
「生真面目で凶暴」
「……それって一緒に成り立つんですか? まぁ紅魔族は売られた喧嘩は買う主義の人多いですしそういう意味じゃ凶暴なのかもしれませんが」
主義とか関係なく俺の知ってる紅魔族は全員凶暴だけどな。
「それでどうだ? 恋だと思うか?」
「これだけの情報で何を判断しろというのかわかりませんが…………とりあえず恋じゃないと思います」
やけに自信満々に言い切るな。
「その心は?」
「よくよく考えたらダストさんの話なんですから単なる性欲でしょう」
………………なるほど。
「…………あれ? ここ俺怒らないといけない場面のはずなんだけど何で俺は納得しちまってるんだ?」
何故か怒りの感情は起きず、むしろもやもやしたものが晴れた気分だ。
「……正直ダストさんのそういうチンピラらしい底の浅いところ嫌いじゃありません」
「おう、俺もゆんゆんのそういうぼっちになるのも納得な毒舌嫌いじゃないぜ?」
「…………………………」
「…………………………」
「『カースド・ライトニング』!」
「いっつもいっつも人をボコボコにしやがって! 今日こそ土の味味合わせてやる!」
晴れた気分を吹き飛ばし、しっかりと怒らせてくれたぼっち娘と、俺はいつものようにつかみ合いの喧嘩を始めるのだった。
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