第二幕
=1場
昨日は春の嵐だった。
濡れた風が桜の花びらを舞い上がらせる。
4月8日の朝。
高校2年生になって、初めての通学路。
いつもと変わらない通学路を歩いていく。
ある人は、変わらない日々に少しでも変化が訪れることを期待して。
また、ある人は、日々への変化に少しの不安を抱えて。
_僕には、よくわからなかった。
その日々の中に、自分の居場所を探すことだけで精一杯だったからだ。
__僕は。
「…何をしているんだろ」
「ヒロー!」
遠くから声が聞こえた
「ん…」
幼馴染みで同じ高校に通う咲が駆けてくる。
「おはよ!」
咲はいつもと変わらない笑顔だ。
「おはよう」
「今日から新学期だねー」
「そうだね。」
「クラス替え。あー、なんだかドキドキするな」
ぴょんぴょんと跳ねて、落ち着きがない。
「うちの高校はほとんど持ち上がりでしょ?」
満面の笑みで話す咲に、僕もつられて笑う。
「そうだけどさー。あ、ヒロと同じクラスに変わってたりして!」
「それは困るな」
「どういう意味っ」
野獣の目になって咲が僕を睨む
「なんでもないです…」
いつもと変わらない、他愛もない会話。咲との会話は僕に居場所を与えてくれる。
咲と僕の家は、昔から近所で、幼い頃はいつも遊んでいた。
それに、僕の父さんと咲の父さんは高校時代の同期で、同じ演劇部に所属していたそうだ。
僕の父さんが役者。咲の父さんは大道具をやっていた。
高校を出た僕の父さんは、そのままプロを目指す道へ。
咲の父さんは大道具の経験が影響したのか、今は大工をやっている。
そういった繋がりもあって、僕と咲は家族ぐるみの付き合いをしていた。
__中学1年生までは。
父さんと母さんが離婚した。
父さんが家を出てからは、咲の父さんが心配して、よく僕の様子を見にきてくれたな。
__うれしかった。
そんなこともあって、咲と僕は昔からいつも一緒にいた。
…いや、咲は僕のためにいてくれているんだ。
「…ろ、ヒロ…きいてる…? えいっ」
「痛て」
咲の手が僕の頭に乗っていた。
「なにボーっとしてんの?」
「いや、別に」
「どこまで聞けてた?」
「どこも聞けてない。」
「もー。あのね、こないだあかねちゃんとね…」
他愛もない会話がまた始まっていく。
=2場
新学期のクラス割は校舎前の掲示板に張り出されていた。
僕と咲もクラスを確認するところだったが、人だかりができていたので遠目から探すことにした。
「ヒロ、そういえばさ」
咲が背伸びをしながら言った。
「ん?」
「今日、放課後空いてる?」
「…空いてるけど」
「よかった。…ちょっと付き合って欲しいところがあるんだけど」
いつもと雰囲気が違う…?
「いいけど、なに?」
僕は、遠目に見える掲示板から、咲の顔へと目線を変える。
「…ナイショ」
ちょっと、暗い顔。その時の僕にはこの顔の意味がわからなかった。
というより、気にもとめていなかったのかもしれない。
「なんだよそれ」
もう一度、僕の目線は掲示板へと戻ってゆく。
「
「奏ちゃん、どうかしたの?」
「まぁ、行ってから話すよ」
奏ちゃんは咲の4つ下の妹だ。
咲の家族と遊びに行っていた頃はよく会っていたけど、それがなくなってからは会っていなかった。
たまに、小学校の登下校を見かけるくらいでしかない。
「奏ちゃん、元気?」
「元気だよ」
「そっか」
「『お兄ちゃんに会いたい』ってよく言ってるよ」
そういえば、奏ちゃんには『お兄ちゃん』って呼ばれてたっけな。
一人っ子の僕からしたら妹ができたみたいで嬉しかった。
「…あ、あったよヒロ。名前!」
「何組?」
咲が指差す方向に目線を集中させる
「1組、私とヒロ同じクラスだよ!」
2年1組
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21 11 二宮 咲
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21 13 三山 博
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_少しだけ変化していく日々。
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