第9話終わりの始まり

殺伐とした自殺所にまた新たな志願者が訪れる。


三芳彰彦仮名36歳。

彰彦はずっと引きこもり生活をしていた。

小学生の頃からいじめにあい、中学の頃には学校そのものに行かなくなった。

働いたことも無く、ましてもや女を抱いたこともない。

風呂には入らず爪も伸びっぱなし。

髪は長くフケだらけ。

吹き出物を潰し毎日ネットサーフィンをするのが日課だった。


三年前に父親を亡くし、つい四日前に母親も亡くした。

何をどうしたらいいのかわからず、遺体を放置し、母親の亡骸を見ていた。

「彰彦はパソコンがうまいから、パソコンの使える仕事が向いているわね凄いわ」

何て何回も言われた。

動かなくなった母親を見て

「俺かーちゃんいなくなったらなんもできねぇよ」

と涙を流し冷たくなった母の手を握った。

父親の形見のネクタイを手にドアに掛け首を締めた。

しかし苦しく気が遠くなるだけ。

一人になって初めて親の存在のありがたさが分かった。

それも遅かった。

何度も後悔した。

でもこれから何をしたらいいか全く分からなかった。


『通称自殺所はー』

たまたまつけていたテレビが目に入った。

「行こう」

何も持たずに走りテレビが騒いでいた自殺所へ向かった。

途中、警察に職務質問をされた。

「その格好はどうしたの?いくつ?」

彰彦は適当にあしらい走りだした。

「まちなさい!!」

追いかけてくる警官。

彰彦は狭い路地に隠れ警官を巻いたようだ。

自殺所につくと、マスコミは既にいなく、金網があるだけで簡単に入れそうだった。


大きく立派なビルだった。

ところどころに赤く錆びたような色がついていた。

入り口に入ろうとするといたずら書きが書いてあり

『薔薇のように散れ雑魚ども』

と真っ赤なスプレーで彰彦を煽った。

「俺は悪くない」

ギィっと音を立て中に入ると何もないロビーがあった。

奥に行くと大きな扉とスイッチ。

その奥にエレベーターがあった。

躊躇なく上と押す。

が、電気が通ってないらしい。

階段で登ることにした。


途中引っかかった人の骨があったり、服だけがあったりして少し怖気づいたが、何とか10階まで登った。

ここで自分の人生を改めて思い起こした。

どうしていじめられたんだろう。

お金がなかったからか?

いつも母親が夜仕事に出ていたからか?

靴の中に入った画鋲を踏んだ時は痛かったなぁ。

机にはいつも花が置かれていたなぁ。

悪い子としたかなぁ。


次第に涙は止まらなく餌付く彰彦。

ふと横を何かが通って鈍い音がした。

下を見ると真っ赤に染まった女の人だった。

高く積もった死体の数に原型を残していた。


ようやく30階まで登ってきた。

体力のない彰彦は動悸が止まらなかった。

汗は汚れたTシャツを更に汚していった。


後ろからトントントンと駆け足で登ってくる音がした。

その人と、目が合い一瞬固まった。

綺麗な女性だった。

「あ、ども」

女性は会釈をして抜かそうとした。

「あの」

声をかけてしまった。

足を止める。

振り向き

「なんですか」

何かのセリフのように心のこもっていない返事だった。

「あ、あなたも今から死ぬんですよね」

蔑んだ目で女性は

「そうですけど。見た感じ私目当てってやつ?悪いけど不潔な人には抱かれたくないの死んでも嫌これから死ぬけれどね」

あざ笑うように女性は見下しつばを吐きつけた。

そう言われカッとなった。

気づいた頃には女性は動かなくなっていた。

首を絞めていたらしい。

彰彦の手の甲には女性が爪を立て藻掻いた跡があった。

どうも記憶があやふやだ。

初めて女性に触れた彰彦はどうしてか、興奮していた。

短いスカート、生まれて初めての女性との交流。

ストッキングを引きちぎりまだ生暖かい女性の陰部に触れた。

ネットでしか見たことのない光景。

それが今目の前にあった。

彰彦は堪らず自身を奮い立たせ挿入した。

快感に満ち溢れていた。

これが、性交なんだ。

堪らず横たわった女性に精液をぶちまけ、階段の下に落とした。


そうか、これが性交なんだ。

生きる希望を見つけた瞬間だった。

暫く階段に居座り女性を待った。

来るのはヨボヨボのおっさん。

また来たのは40代らしき女性。


下からはドサッドサッと上り終えた人が死んでいく音。

満足したら死のう。

そう決めた。

しかし目当ての女性が来なかった。

選んでいられなかった。理性は止められなかった。

見つけた女性は躊躇なく首を絞め犯して落とした。

たまらなく興奮した。

どうせ死んでいく人たち。と思い彰彦は一心不乱に犯し続けた。


次第に生きている人間を犯したいと思うようになった。

死姦するにしても、反応がないので飽きてくる。

喘ぐ女性に憧れを持った。


来る人来る人に交渉した。

断られ殺し犯した。

ただ一人を除いて。

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