第6話思い

それから芳樹は長くて短い時間を過ごした。

見かけ幼いあの子を送ってしまった。

死ぬことに理由はいらない事や死ぬことに意味なんて無い事、他人に説教するような義理も一度は死のうとした芳樹には言えない。

言ったとしても逆にどうしてこんな所で働いてるの?と突っ込まれるだろう。

更にここは商売をしている金は使わないにしろ、新生命保険の金は推測によると国になんか行ってない。

国が黙認しているというこの場所も黙認ではなく知らないのではないか?


そんな事を考えながら小一時間過ごした。

空は眩しくてクラクラするくらいだった。


歪んだ太陽。

眩しくて…何も見えない…。

手は震え、目も微かに揺れる。

相変わらずの幻聴と幻覚はおさまらない。

とうとう健診の日が来た。


「もう君辞めたほうが良いよ頑張りすぎたせいで精神が参ってるんだよ」

「俺病気なんですか」

「薬だしておくから様子見てみてよお大事に」

そう医者は言って「次の方」と言った。


結局何だったのかさえわからないまま一日目の健診は終わった。


副作用なのかわからない。目眩と吐き気と口の渇きが芳樹を襲った。

極度の緊張に達したかのような震えは増してく。

「藪医者め俺を殺そうとしてるんだ薬に毒を塗っているんだ」

と思いこみ、自体はただ悪化の道を進んでいった。



幾度恐怖に目を覚ましたか。

動悸は己でも耳から聞こえる様な音を響かせていた。

夢と現実の境界線が引けなくて度々夢だと思っては腕を切り刻んだ。

それが現実だった時は夏でも長袖を着た。

以前の芳樹はいなくなったまた別の芳樹に生まれ変わった。

体は丸くいかにも体臭が漂ってきそうだったのに対し、病的に痩せこけた。

目は虚ろ幻聴は耳の奥頭から聞こえると耳をかきむしった跡。

更には腕も虫がいるからと引っ掻き傷。

そんな姿を誰にも見せられないと仕事を休む日も度々あった。


狂いそうな頭の中の喧騒。

狂いそうな体中のはいつくばる様なむずかゆさ。

芳樹は我慢が出来なかった。

もう正義感なんて何処にもなかった。

逝きたかった楽になりたかった。

もう辛いのに飽き飽きしていた。

目を瞑ることも苦痛になった。

誰も助けてはくれない。

皆頭の中で自分を罵倒する。

だから考えてることも他人に聞こえてるんだ。

盗聴されてる。

医者に見てもらったとき頭に埋め込まれたんだ。

芳樹はこの考えもばれてしまうのではないかと自分を殺そうとした。

死ねないでいた。

殺せなかった。

勇気も何にもない。

見殺しにしていたあの人達も勇気をだして死んでいったのに。

と思いながら泣いた。

死者からの声を脳内再生しながら。

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