第5話カップル

森川有実、有森裕也いずれも仮名16歳。

毎日一緒にいたい。

でも共に実家では融通もきかない。

かといって二人暮しなんて到底できない。

毎日いたい。毎日声聴いて毎日笑って毎日抱き合いたい。

そんな事を通学途中話すのが日課になりつつあった。

「なんで裕くんは16歳なんだろう」

何気なく言った言葉だった。

「え?」

険しい顔をして裕也は振り返った。

「だって18だったら結婚して毎日一緒じゃん!」

裕也を追い抜き歩いて後ろを向いて笑顔の有実。

「俺が悪いの?ごめんね」

少し怒り気味の裕也に対して有実は

「そうだったら良かったねって事じゃん!裕くんあたしといたくないの?!」

と裕也の制服を摘みながら言うと

「そんなんじゃないけどさ…」

とうつむいた。そして

「結婚なんていいもんじゃない」

と付け足した。


有実はわからなかった。

好きな人と毎日過ごせること、ご飯食べてお風呂はいって…。

何が悪いのかわからなかった。


「なんでよ!裕くんといたいもん!裕くんが言うなら何でもできるもん!」

「俺んち、親いねーんだわ」

裕也は施設から養子に貰われた子、他人に育てられ、血も繋がらないのにとても良くしてくれる。

でもそれに答えられない自分の情けなさ、そして本当の親に会いたいと思っていることを有実に話した。

「裕くん…」

「哀れんでるか?有実には親がいて俺はいない可愛そうに見えるか?」

強めに言って学校とは反対に歩いた。

「ちょ…裕くん!」


「あたし、裕くん好きだよ。どんな裕くんでも大好きだよだから待って」

裕也は

「じゃあ会いに行くのついてくる?」

と止まって有実に言った。

有実はもちろんと首を縦にふった。



「俺は捨てた親は親と思わない」

歩きながら裕也はぼそりと呟いた。

「どうして会いに行くの?」

そして一つ声のトーンを落とし裕也は言った。

「復讐だよ」

少し足早になった裕也の背中を見つめ有実は怖くなった。

ぎらぎらした目に低い声。いつもと違うと感じた。

「や、やめない?復讐」

「こぇぇのかよ、今更。さっきまでは俺となら的な事言ってたよな?」

いつもと違う裕也が怖くて走りだした。

「どこ行くんだ?」

すぐ捕まる。泣きながら謝るも逃げられない。

「やだぁ…ごめんって裕くん痛いやめて」


暫く言い争いがあり、人通りは元々少ない路地裏。

静かになった路地裏は赤く染まった。


誰が何と言おうと自供はしない。

誰が何と言おうと精神が病んでるように見せるから。

まだ10代だし。罪は軽いよね。

重い石を投げ捨て血をスカートに擦り付けてその場から離れた。

でもばれるばれる前に二人になろう。一緒に暮そう。

そうだ、死んじゃおう。 今なら会えるよね、裕くん。


「裕くん待っててね今行くから」

本当は一緒に居たかった。

ずっと裕也の血に浸っていたかった。

でもそれではいけない。

一緒に居れない。

永遠の一人になってしまう。

捕まってからじゃ遅いの。

でも・・・。

葛藤は果てしなく続いたように思えた。


「ここは・・・」

「こんにちは、願望者の方?」

いかにもオタクという匂いがプンプンする。でもどこかおかしい男が小さな椅子に座り有実に話した。

「なんですか?ここ」

「ここは自殺所だよ。死にたいやつらが集まって命を投げ捨てる場所。死にたいんだろう?」

男は目が据わり有実を見つめた。

「自殺所・・・」


「死にたい。裕くんの場所に行きたい」

「なんだかわからないけど貴女はいくつですか?」

「大人よ。何でもいい私は死にたい!どうすればいいの」

血まみれの有実に男は据わった目で

「わかりました。誓約書を読むのでサインをお願いします」

と事務的作業を行った。


あぁ早く横になりたいそう思う男。

最近体調が優れない。

もうフラフラで働く気力がない。

でもこの子は生きていなければならない気がする。

でも頭でわかっているはずなのに。

どうしてだろう。

何だか他人なんてどうでもいいような気がした。




「受取人はママでいいや」

遠く聞こえる声。

勝手に手を動かし案内するさま。

情けない。

また人を・・・



「ではエレベーターを上って下さい。いい旅路を」

「裕くぅん!!!!」

有実はフラフラしながらでもまっすぐ歩きエレベーターに入った。


それからのことは覚えていない。

ただ真っ白になって

裕くんのそばに行きたくて

飛んだのに

行けなかった。



「とか思ってるのかなあの子」

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