第4話川村美穂
川村美穂(仮名)17歳。
幼いころから病弱でいつも家の中で外で遊ぶ同じくらいの年の人見ると親を恨んだ。
両親は美穂を可愛がる事もせず厳しく育てた。
それを親は躾と言った。
真冬のベランダにほおり投げられ病院に行ったこともあった。
風邪からの肺炎も珍しくはなかった。
「何回も死に掛けてるのに生命力はゴキブリ並だな」
と父親に笑われては殴られた。
そして復習のため・・・
自室から飛び降りて死んだら、遺書を、いや復讐の手紙を残したらあいつらはトラウマを抱えて生きていくかもしれない。
と考え実行のために手紙を書いた。
私、川村美穂は両親の虐待により精神的苦痛及び身体的に蝕まれた為
この魂、体と引き換えにあなた達を恐怖に顔を歪ませたく計画しました。
本当ならあなた達が死ぬべきなのに。
私があなた達を殺して死んだとしたら私が犯罪者となりそんな事で手を汚したくない。
のうのうと生きていけないよう私は華麗に死んで見せます。
呪ってやる。
電話が鳴った。
名前は飛鳥。
「もしもし飛鳥?」
二人はネットで知り合った。
チャットで仲良くなり本当の姉妹のように毎日電話をしてた。
「美穂。あたし疲れた!毎日毎日壁の隙間から目が見えてる!怖いよ!殺される!!」
飛鳥は薬で幻覚を見ては美穂に電話をかけた。
「飛鳥、今から私自殺するんだ。あっちで待ってるからあっちで遊ぼうねじゃぁね」
そういって電話を切った。
何度もかかってくる電話を無視して美穂は自室で手首を切った。
血を部屋に残しベランダに移動し下を見た。
5階下には植木もない死ねる高さ。
「行ける」
足をかけて空をとんだ。
途中で意識がなくなりもう目を覚まさないで逝ける。
「~さん~!!・・・ほさん!」
目を開けると白い病室。
「てめぇ何なんだこのやろう」
服をつかんで引き起こされビンタ。
「死ねなくて残念だなぁ?てめぇの足はうごかねぇってよ?呪えねぇなぁ?」
悔しかった。美穂は父親を睨んだ。
「帰って」
「誰に口聞いてんだお父様だぞ」
布団を被り帰るのを待った。
しかし布団を剥がされ手を引かれた。
「帰るぞ」
切った手首の傷口を強く掴まれ美穂は顔を歪ませた。
「無理です!まだ安静にしてないと!!」
看護師が言ってくれて帰ると思った。
「うるせぇ。明日も来る」
そう言って悪魔のような父親は強く握り締めた美穂の手首をベッドに叩きつけ帰っていった。
絶望の日々が美穂を待っていた。
死に切れず助かってしまった。
しかも足は動かない。
反抗もできない。逃げられない。
もう頼るのはこの使えなさそうな看護婦くらいだった。
「ねぇ。聞いてたでしょ。あたし死にたかったの、復讐したかったのでもこの足じゃ移動ができないよね」
看護師は
「できないですね」
「手伝ってくれるかな」
「何を?」
そこで美穂は考えた。
外出届を出して少し前にどっかで見た自殺所に行って死ぬ。
「外出届出せないかなぁ?彼氏に会いたいんだもう死なないよ」
そう安心させて
「私もついていきますよ」
と言った。
「最低、彼氏とエッチなことしてるのみたいわけ?」
看護師は顔を真っ赤にさせて
「時間までに待ち合わせ場所に来てくれたらいいです」
と言い換えた。
これでいけると思った。
それから申請が通るまで苦痛だった。
叩かれたり脅されたり。
親が帰ってからは車椅子の練習をした。
「美穂さん明日九時に出れますよ」
美穂の死ぬ日が確定した日。
これで終われる、そして復讐の始まり。
一つ調べなければ。病院の100円で10分使えるパソコンを立ち上げた。
「これでいい。これでいける」
履歴は念のため消しておいた。
「今日は晴れてますね最近雨ばかりでしたしよかったですねぇ」
看護師が美穂の車椅子を押していった。
「それに凄くお洒落して私も彼に会ってみたかったです」
ニコニコした顔で看護師が美穂を見て言った。
お洒落っていっても黒いブラウスにレースがついたスカートだけど・・・・と思いながらも
「そうだね、じゃ6時に此処で行ってきます」
手を振って平然を装い動き出した。
後ろから
「変なことはしないでくださいね!待ってますから」
後ろを向きながら手を振る美穂。少し心が痛んだ。
昨日調べた事は自殺所の場所。
あと普通に死んでもつまらない為用意するものがあった。
まず向かう前にホームセンターに向かった。
切れる枝きりはさみを買い、次に白い布と赤い便箋。
喫茶店で書いた手紙。
確実に死ねる方法わかったので実行します。
これであなたたちはトラウマを背負うことになるでしょう。
さようなら。
と赤い便箋に黒字で書いて鞄に入れた。
携帯を開き飛鳥に電話。
「飛鳥?あたし死にきれなくて今から自殺所に行くの。今度は確実。今度こそあっちで待ってる」
「美穂!置いて行かないで一緒に・・・」
飛鳥の言葉を聞く前に切って電源も切った。
これで下準備はできた。
「死の連鎖始まればいいのに」
腕で動かすのはとても体力が必要だ。
ずっと車椅子の練習はしていたがすぐ腕がつりそうになる。
少しずつ動いては休みの繰り返し。
晴れたせいで少し熱い。
自殺所についたころには14時過ぎになっていた。
「こんにちは死にたいんですけど」
「・・・・あ、はいシステムはわかりますか」
うなずいた。知らなくてもいいと思ったから。
「では、誓約書を読み上げますのでわかりましたら太枠内もれなくお書き下さい」
一、自殺志願者(以下、私)はいかなる理由があっても内部の構造を漏らしません。
一、私の遺留品は全て受け付けにて預け、身元引受人に引き渡す事を了承します。
一、私は貴社の新生命保険に加入し、得た金を国に回す事を了承します。
「生命保険てどうしたらいいんですか?」
「あぁ大丈夫ですサインでいいです形だけなんで」
美穂は少し違和感を感じたが
「はぁ、わかりました。あのちょっと此処で遺留品なんですけど、指もいいですか?」
「は?」
「トラウマを植えつけたいんです受取人は親です」
異例だった。
「はぁ・・・・はい・・」
枝きりはさみを手に取り人差し指を挟んだ。
思いっきり切ってもただいたいだけで切れなかった。
「ぎゃあああああああああ。。。切れない!ちょっと手伝って!!もぎ取ってでも取って!!」
芳樹は手伝った。
指を切るだけでも時間がかかった。
ボタボタ垂れる血。
持ってきた白い布に指を包んで鞄に入れた。
「・・・・・・・早く!はぁやく!!!!これで準備はできたもう死ねる!!」
布は赤い布になった。
芳樹は吐き気が収まらなくなってきた。
「エレベーター50階です・・・・・・・・」
「力が!!!入らないの!!!」
痛みで車輪が回らない。
でも上まで行けば飛び降りれば死ねるのに。
「押して私を死なせて!早くいきたいの!」
何も言わずに芳樹は車椅子を押した。
エレベーターに乗ってからの美穂は痛がるばかりで何も言葉を発さなかった。
扉が開いたころには軽く意識を失いかけていた。
「つきましたよ」
「淵まで押して・・」
ギリギリの場所まで押して、美穂は最後の力を振り絞って前かがみになった。
「呪ってやる」
そうつぶやいた瞬間下で鈍い音がした。
あぁ、逝けたんだなぁと思った。
遺留品の指を切る音が耳から離れなかった。
その日芳樹は事務作業に追われていた。
遺留品を受け取り先に送る仕事だ。
遺留品を受け取り初めて死を知る人も少なくはない。
返せと怒鳴る人もいるし謝る人もいる。
自分も死ぬと死んでいく人もいた。
遺留品は変わったものはあまりないが、ただふらっと居酒屋に来たような軽い荷物が大抵だ。
まれに地方からわざわざ出てきた人は荷物が多かったりする。
変わった例は死ぬ前に大好きなライブに行きたいから。や悪いことしたいと思って盗んだ。とか。
日本は平和だなぁと芳樹は思った。
簡単に死ねる。誰にも迷惑かけない死に方なんてないのに。自分も言えた口じゃないけど。
一つの箱に手がとまった。
“指の箱”そのまま送ると腐るよなぁと思いながらドライアイスを詰めた。
「・・・うっ・・・・」
手に残る感覚と臭いそして音。
「親にトラウマを植え付けたい…か俺がトラウマだよ…」
赤い色した指のようなものと手紙やカバンを箱に詰め、送った。
そのほか、受取人がいない場合の手続きをこなした。
サインの書いてある住所に死亡したと手紙を送る。
理由と日時を書いて終わり。
ただ簡単な作業。
でも死ぬ人間を毎日見送るのは最近辛くなってきた。
少し前までは自分もそんな人間だったのに。
見えないゴールにゆっくり進んでる。
その先に何があるのか
絶望?希望?もう何だかおかしい人間になったような気がした。
そういえば最近幻覚も見るし幻聴も聴く。
疲れてるだけ。と言い聞かせてきたが何だか違うようだ。
手も震えるし体も鉛が入ったようにだるい。
朝なのに暗いし話すのもだるい。
以前のようなただめんどくさいからとかではなくて…なんだろうと考えていた。
自殺所の職員は三ヶ月に一度精神健診を受ける。
人の死に関わる業種な故に精神を病むものは少なくない。身体検査もやる。
そこでのドクターストップを受けると大抵のものが辞めて行方をくらます。
長期休暇を取るものはなかなかの変り者くらいしか残らなかった。
芳樹は次の健診でストップされたらどうするか悩んだ。
このまま、死にたい人を受けとめ見殺しにしていくか、それとも…。
どっちにしても辞める事は自分の居場所がなくなる。
芳樹はただ説得するか、見殺しにするか迷った。
死ぬのは人の勝手だしでも生きていたら今の自分のように変われるかもしれない。
ただ人の為に働きたいと初めて自覚した数分だった。
“死ねば良いのに”
度々ヒソヒソと目に見えないダレカが耳元で話している。
正体はわからない見えてしまったらどうなるのか。
「やめてくれ!!!」
ある日は部屋に帰ったら蛆がいっぱいいる布団があった。
目を擦りもう一度見たときは跡形もなく幻覚だと悟った。
でもただの疲れなのか疑問に思った。
“ヒソヒソヒソ…”
「もう何も言わないでくれやめてくれ!」
“ヒソヒソヒソ…”
一ヵ月過ぎても変わることなく、いやむしろ悪化していた。
やる気は起きないし、消極的。
明らかにやつれているし、目は凹んでいた。
それでも仕事はした。
「ただ体調が悪いだけなんで」
この頃には日常的に幻覚幻聴とめまいがあった。
「はぁ…疲れたなぁ」
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