第3話日向飛鳥

“私もあの花のように散りゆくのかそれとも無駄に生かされるのか”

ここに自殺願望者。

仮に向日飛鳥、22歳。

飛鳥は幼少期両親による虐待で手に障害を負った。

両親は現在何処にいるかもわからず、ずっと伯母に育てられたが、伯母も陰湿ないじめをした。


二十歳になってすぐ家からでたが、働くところも制限される身体。唯一テレホンオペレータの仕事をもうかれこれ七年。

障害者だからと遠回しに給料を天引きされたりするが我慢をした。


飛鳥の趣味は空想と歌だった。

手を使わないから。ただ、それだけ。

勿論恋人らしい恋人も出来ず22になってしまった。

トモダチもいないし味方もいない。


更には睡眠障害と鬱の併発で精神科を通う始末。

睡眠薬を沢山酒で流し飲んでは腕を切って風呂場で寝た日もあった。

薬を多く飲み過ぎたその後は記憶がなくて医者に怒られる。

良くなるばかりか悪くなる一方だ。

「マイスリーとパキシルと後前回のまた二週間分ね、多く飲まないようにねそれと頓服でデパスね」

医者は単なる薬屋。ほしい薬を出してくれる薬屋。


もう家に帰るまでドキドキしてるし、帰ってからも副作用でドキドキ。

口は乾くし目は不思議と上を向く。

唯一のトモダチが覚醒剤常習者。こないだも「草やらないか」と半ば無理矢理吸わされた。でも悪いことをしてるとスリルがあった。全てが忘れられた。

気が付けば色んな薬に手を出していた。


「Sもうやめる」というと「チクッて俺を豚箱に入れる気だろ」と言って頭を持って床に叩きつけた。

だからはまった。もう抜けられない底無し沼に入ったかの様。

悪い仲間は増えてく一方なのに本当のトモダチはいない。

ただ女だけなのにキマッた状態でまわされたり、写真を撮られ、脅されたり。逆らうことも出来なかった。


トモダチじゃなくて友達が欲しいと気付いたときはもう手を付けられなかった。

勘繰りと手の震え幻聴に幻覚。

“死んでしまえ”と頭の中で叫ばれたり、体中の虫。

もう耐えられないと向かったのは自殺所だった。


「本当に、良いんですね?」

「いいんです。私もう耐えられません死んで忘れたい」

芳樹は飛鳥にペンを差出し「太枠内をもれなく書き込んでください」と言うと

「ごめんなさい私手が不自由で書けないの」

芳樹は手を見た。

枝のような腕、震えた指先は枯葉のように色が変わっていた。

「わかりました代筆します」

そう伝え、書き込んでいった。

「誓約書なんてあるんだ、死ぬだけなのに。面倒ね」

軽く芳樹はうなずき読もうとした。

「ねぇ聞いて。私薬に溺れてこんな腕なのこんな身体なの。男にまわされて病気にもなった。だから死ぬの」

飛鳥の腕には無数の切り傷と引っ掻き傷同様に身体にもあった。

幻覚で虫がわいた際取ろうとした時の傷。

「なんでもいい早く逝かせて」

「…引取人はどうしますか」

飛鳥は涙ぐんで「いない」と言った。

「いなければ死ねないの?また生かされて耐えるの?」

辛い毎日、苦しくて明日が見えない。

「どこかないですか?なければ…」

「なければ…?」

芳樹はファイルをだした。

小さな紙だった。

“遺留品の引受人が居ない場合、荷物を持ち焼却”

「僕は嫌なんですけど」

「それでいい」

「熱いし痛いですよ」

飛鳥は黙ったまま頷いた。

芳樹は納得ならなかったがそれも飛鳥の運命と割り切らざるをえなかった。

「…その赤い扉の向こうにありますので。お疲れさまでしたよい旅を…」

後味悪い。芳樹はそう思った。

飛鳥は鞄からポングを出して火をつけた。

「最後に吸い切らなきゃね」と泣きながら。

軽くむせた後赤い扉に向かって歩いた。

「あぁ幸せ」



飛鳥は思い出していた。

ネットの友人が自殺を失敗して下半身不随になって自殺所に行こうと決めたって言ってたこと。

自殺所なんていいところだと当時思った。

「飛鳥あっちで待ってる」

そういって彼女は死んだ。

「美穂すぐ行くあたし、熱いけどね思ったよりすぐじゃないかもね」

錆びたドアを開けると中はツンとした臭いに焦げた臭いがした。中に入ってドアをしめて放送が流れた。

「本当にいいですね?スイッチ押します」

「あなた自殺の手助け向いてるよバイバイ」


芳樹が押したスイッチはいつもよりすごく重くて何度も押したことがあるのに何故か怖かった。


ドアの向こうからは炎の音と暴れ回る音。

「ああああああああああああああああああ!」

次第に暴れは収まり炎の音が虚しく響いた。

一時間半過ぎて清掃員がドアを開けて片付けた飛鳥の灰は50階からまいた。


飛鳥の灰は風にのって何処に行くんだろう。

と思いながら自分の場所に戻った。

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