第2話鮎川芳樹

「もう疲れたなぁ生きてるのも飽きたなぁ」

仮名、鮎川芳樹当時25歳。

今となっては自殺所受付で働く男。この者もかつては自殺志願者。

しかし、特に死ぬ理由もなくて生きる理由もなかった。

突発的に死にたいと思った後に自殺所を訪れた。

当時は受付案内人もいなくて最悪サインも何も書かなくても命を捨てられる無法地帯だった。


「めんどくさいしいいか」

芳樹は真直ぐエレベーターを上り屋上に向かった。

有り余る莫大な借金、面倒な人生、醜い体。

「死んだらなにやろーかな」

めんどくさがりの芳樹。

何するにもだるい。で物事を終わらせる。


チンとエレベーターが開くと勢いをつけて飛び降りた。

「わあー」

形だけでも焦った振りをしてみる。

「あれ?」

50階から飛び降りたはずなのに生きてる芳樹。

風に流され42階の踊り場で立ち上がった。

稀に見る強運の持ち主。

それが現在受付を担当している鮎川芳樹である。


社長、川村健により鮎川芳樹を雇う事を書面にて提示。

鮎川芳樹も

「どうせ帰っても詰まんないし、死にたい奴の顔みたいしいいよ」と適当に交わした。

寮、食事がある変わりとくに休みはないという仕事。

故に給料もない。しかし芳樹は「あっても休みないんだったらゲーム買えないしいーや」

とあっけらかんと答えた。


そんな人間が集まり、清掃員、受付、事務が出来た。


自殺所の忙しい期間は二月から六月。

理由としては、正月のお年玉がなくなった、新しい出会いが面倒、仕事が合わなかった、五月病を抜け頑張ろうとしたが無理だった。

などである。

クリスマス時期やバレンタイン時期にも多い。有名人が死んだ時も追っかけ死もまれにあるくらいだ。


公にバイトを募集出来る業者ではないので今いる人数で回すことになる。


芳樹は最近変わった。

めんどくさいも言わなくなった。

数々の人間の死に立ち合った芳樹は本当の人間になりつつあった。

こないだ来た何とか弓子さんだって生きていればこんな風に思うのかなあと自動ドアのすきま風の冷たい空気に体を冷やされながら考えていた。

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