第13話 『パンツ』に潜む女性らしさ~まとめ

「さて、いよいよ実践編も終わりに近付いてきたよ、よむ夫くん。

 『スカート』『ショートパンツ、キュロットスカート』と続いて、今回はボトムスに『パンツ』を選んだ場合の解説だ。

 既に説明していることだけれど、ここで言う『パンツ』とはいわゆるズボンのことだよ。ジーンズやスキニーパンツ、チノパン……などなど、よむ夫くんでも名前を知っているアイテムはいくつかあるだろう?

 とはいえ、これらは、僕の解説のコンセプトである『現代ラブコメの地の文で、二次元美少女キャラの私服を2、3行描写するための知識』とは相性が悪いんだ。ハッキリ言って、少し難しいところがある。

 その理由は……前回の『ショートパンツ、キュロットスカート』編を乗り越えた君なら、わかるかもしれないね。


 そう。これらはすべて、『足を隠す』ボトムスなんだ。

 スキニージーンズは足の形にぴったりと添うようにデザインされているし、ダメージ加工の施されたジーンズからはわずかばかりの素足が覗く。でも、これは決して、足を出していることにはならないんだよ。

 ただの自論ではあるけれど、小説――イラストのない文字だけの世界において、足を出すことと女の子であることは限りなく等しいところにある。

 もし君に、物語の特別なシーンで女の子の私服を書く機会が巡ってきたら、僕の言葉を胸の片隅にでも留めておいてほしい。


 とはいえ、僕も別に『絶対に書いてはいけない』なんて言いたいわけじゃない。

 女の子の服装には、必ず理由があるものだ。それは単純に「好きだから」っていう、それだけのことでも構わない。

 ただ、ここまでの僕の話を聞いた上で、『服装を利用して、女の子のキャラ性を演出したい』と思う気持ちを感じてくれたのであれば――もう少しだけ、僕の話を聞いていかないかい?

 ここから僕が話すのは『どうしてそのアイテムを選んだのか?』について。

 そして――『そのアイテムを選ぶことで女性らしさを増すキャラ』についてだ」


* * *


1.『かわいい』×『おとなしい』

「さて、ボトムスに『パンツ』を選ぶにあたって、もっとも難しいのはこの属性を持つキャラだ。どちらも女の子らしいイメージの言葉だからね。特に、清楚な女の子キャラの場合、「足を出すのが恥ずかしいから」なんて理由でも付けない限り、デートの場面で使うことはできないだろう。

 けれど、それ以外のシーンで使うのなら、難易度は格段に下がる。女の子の友達同士で買い物に行くシーンや、飼い犬の散歩に出かけるシーン、近所のコンビニやスーパーまで買い物に行くシーンなんかが該当するね。つまりのところ、「異性からの視線を意識する」シーンでなければ、いくら使っても構わないんだ。

 この場合、アイテムの組み合わせは『ジーンズ』に『チュニック』や『ワンピース』など、丈の長いトップスを選んで、アウターに『パーカー』『カーディガン』『コート』を使うといい。足元は『パンプス』の他『スニーカー』も選択肢に入るよ。夏場は『サンダル』、冬場は『ブーツ』で代用できるのもお約束だね。

 ひとつ気を付けてほしいのは、ここまで活躍した『ブラウス』を使いづらくなっていること。これはとした『スカート』タイプのボトムス(『キュロットスカート』も該当する)を引き立たせるためのとしたトップスだから、『パンツ』を選んだ際にはあまり相乗効果が期待できないんだ。


 また、この組み合わせには、自然と『パンツ』を使用できる、ある種の例外のようなキャラがいる。それは、ボーイッシュで口数の少ない(ダウナー系)、小動物みたいな女の子だ。

 このタイプに該当するキャラの私服は、ここまでの『かわいい』×『おとなしい』では当てはめにくい部分が多々ある。もしかしたら、よむ夫くんも困っていたんじゃないかな?

 このタイプのキャラの私服を『パンツ』中心で考えるのであれば、トップスは『カットソー』『Tシャツ』『タンクトップ』、アウターに『カーディガン』『パーカー』『コート』『ダウンジャケット』など、活発系の服装で挙げていたアイテムを組み合わせると、それらしくなると思う。足元は『スニーカー』がメインだね」


2.『かわいい』×『活発』

「男女関係なく親しくなれるからこそ、いざ異性に女の子らしい部分を見られることに戸惑い、恥じらう……なんて、ありそうだよね。僕がそういうシチュエーションで想像するのは、学校の制服のスカートの下にジャージを重ね履きしている女の子だよ。少年向けのライトノベルではあまり見かけないけれど、学園ものの少女漫画では必ず1人はそういうタイプがいるんじゃないかな。

 そういう女の子の特別な私服に『パンツ』を選ぶのだとしたら、考えられる理由のひとつとしては、異性に女の子らしく見られたいけれど、見られたくない……言わば『安全圏』としての使い方がある。

 ボトムスは『ジーンズ』、トップスは『ワンピース』や『チュニック』『キャミソール』。アウターは『パーカー』や『カーディガン』『コート』。シューズは『スニーカー』『パンプス』どちらでも問題ない。

 組み合わせは1で挙げたものに似ているけれど、こちらは「異性からの視線を意識している」からこその使い方だ。

 本当はワンピースやスカートを着たいけれど、足を見せることにどうしても抵抗があって恥ずかしい――その葛藤と戦ったからこその妥協点とでも言うのかな。そんなバックストーリーが女の子の服装に見え隠れしていたら、それこそかわいらしいと思わないかい?

 また、これは蛇足かもしれないけれど、そういう女の子ほど、「女の子だけの場面」ではかわいい一面を覗かせてくれるんじゃないかな。異性とのデートでは『ジーンズ』を履いてくる女の子が、友人との買い物では『スカート』や『キュロットスカート』を履いていたら、それを偶然目撃したら……きっと、そのギャップに驚くだろうね」


3.『かっこいい』×『おとなしい』

「さて、『かわいい』属性の持ち主とは打って変わって、『かっこいい』属性の持ち主は、『パンツ』がとてもよく似合うんだ。

 『シャツ』や『ニット』に『スキニーパンツ』、かっちりした『ジャケット』や『ロングカーディガン』といった丈の長いアウターを着て、足元はヒールの高い『パンプス』……クールで、すらりとスタイルの整った美人の出来上がりだよ。アクセサリーは『ピアス』や『ネックレス』の他、手首に着ける『バングル』や『腕時計』なんかもいいね。『スカート』の項目で挙げたアイテムの大半がうまく組み合わせられるはずだよ。

 とはいえ、こういった見た目になると、今度は主人公が近寄りがたくなるほど大人っぽい雰囲気を醸し出す可能性も出てくる。そんな時は、あえて主人公と距離を近付けるようなイベント、ハプニングを起こしてみるのはどうかな? ボトムスを『パンツ』にしていると、女の子らしい部分がどうしても薄れがちだから、そのあたりを上手くカバーできると思うよ。

 服は着る人の印象を自在に変えるけれど、それを着ている女の子自身の性格が変わるわけじゃない。そのことを忘れずに、演出を工夫してみてね」


4.『かっこいい』×『活発』

「3と同様に、こちらも『パンツ』のよく似合うキャラが作りやすい。

 特に、男勝りなキャラなんかは自然と『ジーンズ』を履いているんじゃないかな? そういうキャラを女の子らしく描く必要がある場合、足ではなく首や腕、手首などの露出を上手く利用するといい。どちらも男である主人公より細いし、首なんかは特に、のどぼとけがないことが大きな差異だからね。

 もしくは、女性の腰回りやお尻の丸みをことさら意識するシーンを作るという方法もあるよ。男性は腰が平坦に作られているけれど、女性の腰は『きゅっとしたくびれ』なんて言葉で形容されるように、腰骨に凹凸のラインがある。パンツやスカートは、ウエストではなく骨盤に引っ掛けて履くことが正しいと言われているよ。もっとも、この知識は地の文の描写にはあまり関わってこないけれど、ね。


 キャリアウーマン系の女性についても、ボトムスの『パンツ』は使いやすい。定番のパンツスーツの他、襟のかっちりした『シャツ』と『ニット』、『ジャケット』にベージュや紺色の『チノパン』の組み合わせは、いかにも「仕事中!」といた雰囲気が出てくるよね。もちろん、足元はヒールの高い『パンプス』だ。

 さて、こうした格好でも女性らしさは演出される。『ショートパンツ』の項で挙げた『タートルネック』利用法の他、胸の大きさそのものを利用してシャツの開いた襟元を意識させる方法や、『ネックレス』を利用して首の色白さや細さを際立たせる方法など、女らしさを際立たせるパーツを強調するようにアイテムを組み合わせるのが得策だ。長い髪をまとめてクリップなんかで上げて、うなじを見せてみるとか、ね」


* * *


「……と、これで実践編のひととおりの解説を終えたことになる。途中からはかなり演出上のテクニックの解説をしてしまったけれど、単純に地の文を埋めることに困っているのであれば、


1.最初にボトムスを『スカート』『ショートパンツ、キュロットスカート』『パンツ』から選ぶ

2.キャラの属性を分析し、『スカート』の項目で解説したアイテムを季節に合わせて選ぶ


 ……という手順だけで問題なく女の子キャラの私服を作れるようにしてある。色やデザインなんかは特に描写しなくても、これだけで立派な格好になるはずだよ。

 その上で、もっと女の子を可愛く見せたい、もっと演出に利用したいという気持ちが生まれてきたら、僕が説明していたことについて少しずつ考えてほしい。


 そもそも、僕がどうしてこんな風に女の子の私服について解説しようと思ったのかといえば、二次元美少女の私服と現実世界においての女性のファッションが乖離していることが理由なのだけれど、もうひとつ。

 服装を用いた演出方法について、とても面白いと思っているからなんだよ。


 長いスカートが翻ることも、ハイヒールが床をこつこつと鳴らす音も、暑い日の、汗が滲む鎖骨のラインも。どれも、作品の『雰囲気』という、言語化しづらい空気感を作り出すのに一役買ってくれる。

 現実世界の日常にありふれているからこそ、読者と共有しやすいイメージ――それが、ファッションだと思うんだ。

 書き手と読み手、互いが理解して通じ合えるギリギリの境界線を探すのはとても難しいけれど、だからこそおもしろい。

 そして、境界線を探るためには、まずそもそもの『女性の服装』について知る必要がある。


 最初は単語だけでいいんだ。ある程度の組み合わせを覚えたら、そこで終えてしまっても、まったくもって問題ない。

 ただ――もしかしたら、その先に進みたいという気持ちが出てくるかもしれない。特に、リアルな現代ドラマを描くとしたら、ここまで僕が解説したこと以上の知識が必要になる。

 そんなとき、情報の海に溺れ、波に流されてしまわないためにも、小さな指標のひとつとして、僕の話が役に立てば……そんな風に思っているよ」

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