少女漫画脳
「ちくこ~ちこく~」
なんて往年の少女漫画の定番みたいな台詞を言いながら、あたしは学校に向かって走っていた。
朝食の食パンを咥えているから、上手く発音は出来ていなかったかもしれないけれど、誰も聞いている人はいないから問題ない。
誰かに向けて言ったわけでもないし。
でも、遅刻しそうなのは事実なので、足に力を込める。
今日は転校生が来るから早く行かなくちゃいけないのに、こんな日に限って目覚まし時計が壊れてしまうなんてついていない。
「はっ……これは」
遅刻・食パン・転校生。
これは、曲がり角で転校生とぶつかって運命の出会いを果たしてしまうのではーー
なんて、現実には起きるわけもないのだけれど。
どうせ少女漫画風なら、白馬の王子様でも迎えに来てくれないかな、なんて。
「はぁ……」
思わずため息をつくと、食パンが口から落ちてしまった。咥えていただけだから、半分以上も残っていたのに。
「……もったいない」
食べれるところだけでも、と思って食パンに手を伸ばす。
その瞬間。交差点の横方向から、
転校生、ではない。
人間、ですらない。
自動車だ。
ーー避ける暇はなかった。
◇
「えー、続いてのニュースは本日の早朝に〇〇市の交差点で起きた車の衝突事故についてです。ーー衝突した2台の運転手は2人とも軽傷。現在は病院でーー。事故原因については、高校教師の女性が一時停止を無視したこととーー。車内からは食べかけの食パンが発見されており、食事をしていて注意が散漫になっていたとーー」
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