第2話:月光の導き

危険を冒して前へ進もうとしない人、

未知の世界を旅しようとしない人には、

人生はごくわずかな景色しか

見せてくれないんだよ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



















ホ~ ホ~


「ふぅ……疲れた。」


ふとチェアーに腰掛けながら呟きが洩れる。

アーチを囲うテントを張り終えた俺は

近くの沢まで水を汲みに行くと飯盒の準備に

取り掛かった、何故街に降りないかと言えば

気分の問題だ。

飯盒に持ってきていた米を入れ水を測ると

焚き火に放り……こむなどはせず、

組み立てて置いた窯に吊るし火に当て時間が

来るまで放置、次に朝方に仕掛けた魚の罠に

掛かっていた鮎二匹をさっと軽く洗い、

研いだ木の枝を豪快に突き刺すと焚き火の側に

突き刺し置く、後は焼けるまで待つだけだ。


俺は、チェアーに座りながら、

薄暗くなった空間に立ち上る焚き火の煙を

見ながら物思いにふける。


正直、俺は今の現状に空いている。

って言っても、別に今の生活が不満な訳ではない

仕事として食っていける額は稼いでいるし、

宝掘師としての名声もそこそこある、

彼女は……まぁ、そのうち出来るだろう(白目)

何にせよ確かに充実した生活を送っていると

思うが…何だろう…強いて言うならスリルが

不足している。

こう、血踊り、心沸き立つ冒険的な宝探しを

身体が心が求めている、と言う話しを以前祖父に

話したら、「んな、映画みたいなことあるか」って

鼻で笑われたのでデコピンで悶絶させた記憶が

懐かしい記憶である。


宝掘師を目指すようになってから色々な

モノに手当たり次第に覚えていったりもした、

高校時代はそのため周囲からハイスペック兄さん

なんて渾名を付けられたりした。

卒業後、宝掘師として活動を開始すれば

すぐ様成果も出した、

古代邪馬台国の女王の墓をあばき、

カリブの深海に沈む沈没船の財宝を見つけ、

砂漠に隠された神殿遺跡の場所を見つけたり

時には、現地民やライバル宝掘師と衝突して

いざこざ何てのもあったがそれはそれで

楽しい思い出だ、しかしちょうどそれを

皮切りにだ、宝掘師の数が異様に増え始めたのは

俺のような年若い高卒坊やがというのを発端に

我は我はと三流宝掘師、または素人達が

所構わず現れ世界の至る所で宝が発見された、

そう言った者達の大半が墓荒らしに似た行為

を行い闇に財宝を売り捌き利益のみに執着する、

そんな輩が現れ出し、終いには国が宝掘法何て

言う、国の立会いの元に宝掘を行い出た宝は

国家財産何て訳の分からない法が可決された時は

全世界の宝掘師が憤慨した。


そして、現在では宝掘師は国家公務員と

同じ扱いになり、仕事の大きさ危険度に応じて

様々な重機何かが投入されたりし、最早

昔のような血踊る宝探しは過去の遺物となった。


故に、今回のこの発掘には久しぶりに

テンションが上がった、国の立会い人を祖父が

行うというのを表に実質的には単独の宝掘が行えたのだから、祖父にはその点感謝している。


パチッ…パチッ…


「おっ?焼きあがったか。」


木串に刺した鮎の塩焼きを紙皿に乗せると

飯盒をかまどから降ろし蓋を開ける、

蒸気を上げながら中の白いご飯が姿を表す。


「ふぅ、明日からまたつまらん宝掘かぁ、

あぁ…今日はもうしっかりと堪能するぞ!」


半ばヤケクソだろう声を上げながら、

野性味溢れる夕食へと舌づつみを

うつ司であった。


すっかり日が落ちた夜空には幻想的な満月が

月明かりで地上を照らしていた。













~PM23:30


辺りは暗闇に包まれ月光が木々の隙間から

仄かに照らしている、ホーウホーウと梟の

鳴き声が森に響き不気味な空間をつくっている。


「おい、本当にここで間違えねぇのか?」


そんな人っ子一人寄り付かない森の中、

何やら物々しい装備をした集団が懐中電灯で

辺りを照らしながら行軍していた。

数にして五人、肌色が黒や小麦、白といった

なかなかにグローバルな人種が揃っているようだ

そんな中の一人、黒人の男性が声の

発信元のようだ。


「あぁ、間違いないよ。情報屋リークス

話しだとMr,榎谷はイギリスから帰国すると

この地に来たって話しだ、現地民の方々にも

情報収集をしていたのを目撃しているみたいだ」


黒人の質問に金髪の老齢と言ってもまだ

40代後半位だろう眼鏡をかけた男性が答える。



一つ、面白い話しをしよう。


《ジョン・フレデリック》、かの有名な

イギリスの宝掘師である、までは

その響き渡る名声で世を震撼させた彼は

今は活動を行わず評論家として余生を過ごしている。

そんな彼が現、宝掘師みなに向けて言った

面白い発言がある。


『他者から強奪する者は盗掘家、

しかし、私達も墓荒らし紛いの事を

しているのだから、ある意味 盗掘家だ』


これは、彼が若い頃にした経験談を元に

言われた言葉である。


意味としては、他者の見つけた財を横取り

する行為を行う輩は盗掘家だが、

実際に我々、宝掘師も墓荒らしなどの点に

ついては同じ扱いになるのでは?と、

実に面白い言葉遊びである。



つまるところ何が言いたいのかと言えば、

彼等は盗掘家である。

イギリスを拠点に活動する彼等は知り合いの

情報屋から司の情報を取得、動向を調べ上げ

今に至るといったところである。


「へへっ、榎谷司と言えば稀代の宝掘師と

まで呼ばれる奴だ、きっと凄まじい宝を

見つけてんだろうよ。」


黒人の男の発言に仲間達は笑う

その時、先頭のイギリス人からストップが

かかる、何かと思えばライトに照らされたのは

鳴子である、高さを少し高くしているのは

大型の動物専用ということだろう。


「ふぅ、危ないな。榎谷司、名前に事欠かぬ

智謀と言う訳だ、背を低くして鳴子に

触れるな」


イギリス人の後に続きながら男達は

鳴子の罠を回避する、彼等の目的は司の

持つ録画テープそれさえ壊してしまえば

この司の発見した建物に関して関与することが

可能である、つまるところ見つけた状況証拠を

消去して自分達の状況証拠に置き換えることで

手柄を自分達のモノにしようとしているのだ。


世間一般的に盗掘家が使う手であり、

こればかりは、状況証拠を撮った時点で

別場所に送っておくなどをしなければ、

回避のしようがないさらにこの場所は

かなりの山奥のため、通常の方法では画像が

送れないこともこの盗掘家達の策の内であった。


「Mr,榎谷を見つけしだい捕縛、

データ機器を破壊して我々のデータに

すげ替える、多少痛めつけても構わない、

というやつだよ。」


イギリス人の言葉に、男達は小声ではあるが

楽しそうに笑い合う。



「なるほど、じゃあ俺があんたらを

迎撃するのもって訳だな?」



故に、反応するのが遅れた。

すぐ様反応を示す五人、しかし…


「うぉわっぁ!?」


身体を反転させようとしたうちの1人が

たちまち逆さ吊り状態になる。


「気を付けろ!罠が張られてぬぁっ!?」


声を掛け注意を促した1人の姿が掻き消える、

否、地面に掘られた落とし穴へと落ちたのだ。


「ちぃ!?無闇に動くな!奴の思うツボだ!」


イギリス人が残っている2人に声を

掛ける、3人はお互いに背合わせになり

周囲を警戒する、なかなかに結束力は高いようだ

闇を風や木々の擦れ合う音が不気味に響く。


「Hey! 弱虫なファッキン野郎!

闇に隠れながらしか何も出来ねーのかよ!」


黒人が闇間に叫ぶ、この拮抗した状況では

盗掘家達が一番にするのは司の把握と

罠の把握である。


「おい、おい、

掛かって来いy「もう来てるよ」グッホッ!?」


黒人に続いて罵倒をとばそうとした

ロシア人の声が途中で途切れた理由はすぐに分かった司の手がロシア人の顔を捉えそのまま流れるように地面へと後頭部から打ち倒したのだ。


「っ!?うォォォォォォ!?」


以外にも反応したのはイギリス人の方だった

手に持ったナイフで司へと切りかかるが、

イギリス人の振るう腕にそっと手を当て

全く力を感じさせないゆったりとした動作で

その腕を受け流すとそのまま身体を滑り込ませ

イギリス人の身体を黒人へと投げ飛ばした。


突然飛んできた仲間を黒人が回避出来るはずも無く2人は巻き込まれながら仲良く木へとぶつかり

その意識を飛ばした。









AМ23:58





「…ふぅ、トイレしようと起きてきてみれば

何か盗掘家の連中が居るし…どっから漏れたんだ?情報…」



五人を仲良くロープで縛り上げると

椅子に座りながらゴチる司。


司にとって今回みたいなことは別段

珍しくはない、今までにもこの手の連中には

痛い目に合わされた経験が幾らかあるため

護身術や戦闘術などを身につけている。


余談ではあるが、司は自分は達人には

なれないと言っているがその強さは普通に

達人クラスなのだ、基本的に一般人やチンピラ、

格闘術を齧った程度の連中では司には勝てないだろう。


「へへっ、おい、ジャパニーズ…

俺達にこんなことしてただで済むと思ってんのか?俺達のバックにはとんd「あぁ、いいから

そんな嘘は、バックにそんなのが付いてんなら

銃の一つや二つ出してるだろ?下んねぇ

言い訳しても縄は解かないから。」」


五人の内の一人、一番体格のいいあの黒人が

いつの間にか意識を取り戻し司に脅しをかけるが

正論を返され沈黙する、仮にその話しが本当だと

しても司の頭の中には様々な迎撃法があるため

特には気にしていない。




23:59,35


「あぁ、それと一緒で構わないよ」



23:59,45


「ん、了解、じゃあ明日の朝になおやすみ。」


23:59,55


4



3



2



1




00:00


司が携帯を切ると同時にそれは起こった。

雲間から降る仄かな月光がアーチへと

当たるとアーチが眩い光を発光させる。



「なっ!?なんだ!」



流石の急自体に司は焦る、そして

光が強くなると同時に







司の姿は掻き消えた………














『昨夜未明、Y県S市の山奥にて

宝掘師、榎谷司さん(20)の行方がわからなくなりました、尚、現場にいた盗掘家グループからの

供述によれば、〝不思議な光が奴を連れ去ったと〟よく分からない事を言っており、警察は

依然として行方がしれない司さんの捜査に当たる方針です…

以上、次のニュースです。……………』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る