第4話 春の連休前

男性


就活は本当に大変だった。

大変だったけど、俺は第一志望の会社に合格した。

俺頑張ったって、自分をほめるくらい、本当に大変だった。

しかも、希望の部署に行くことが出来た。

ラッキーとしか言いようがないくらいについてる。

やりたい仕事につけたのは幸せだと思うが、理想と現実は全く違って覚えることが多く大変な毎日。

社会人って大変だなって、時々どっか他人事のように思える瞬間がある。

こういうところが、ゆとりだとか、まだ学生だとかいろいろ言われる原因なんだろうか。

ちなみに、俺の教育担当の先輩は女性だった。

見るからに出来る女といった雰囲気の先輩は、かっこよく、なんでもテキパキこなす人で、すごいの一言である。

これだけ完璧なのだから、悩みなんてないのだろうと思っていたが仕事の合間、テラスルームで一人スマホを見ている先輩を見かけた。

先輩は高嶺の花で声をかけにくいので、俺は遠くから見ていた。

先輩・・・浮かない顔をしている。

ため息と一緒に涙が流れていったように見えた。

あれは、なにかの見間違いだったのだろうか。

その後も先輩は普段通り、厳しくも優しくいろいろ教えてくれている。

とにもかくにも、自分でも不甲斐ないと思うくらい毎日怒られてばかりだ。

ある日、朝から先輩の機嫌が悪そうだ。

もしかしたら今日は大事なプレゼンがあると聞いていたので、その事でも考えているのだろうか。

それとも、この前の涙の理由の続きなのだろうか・・・

何があったか気になっているが、聞けるわけもなくいつも通り仕事をがんばる。

そして、いつも通り怒られる俺。

不甲斐ない俺・・・

先輩の役に立ちたいと思ったりするけど、こんな新人が余計なことしてもな・・・

昼休み、先輩は一人外へ出かけたのが目に入った。

あまり気にしていなかったが、俺もたまには外で食べようと思い外へ出た。

何気なく入ったラーメン屋。

ここは最近流行っているラーメン屋で、気になっていたのでどんなものかと期待して入る事にした。

流石に並んでいる。

やっとで入れた店内。

案内された席に座るとびっくり。先輩の隣の席だった。

なんだか気まずい。

そして、今朝感じた感覚は気のせいでなく、なぜか機嫌が悪そうだ。

話しかけるのに少し気が引けたが、この距離で何も話しかけないというのも、それはそれでやはり気まずい。

たわいもない話をそこそこして、注文が出てくるのを待った。

ラーメンを食べ、少し汗ばむ先輩は、なんだか色っぽかった。

ふと、男としてどうしようもなく目がいく。

先輩の胸元。

これは、男としてどうしようもない衝動であって、けっして下心があるとかそういうわけではなく・・・

つい目がいってしまうのは、生理現象のようなもので・・・

オマケのように気がついてしまった。

先輩のシャツにスープのシミが・・・

これはどうしたらいいのだろうか・・・

この先輩の不機嫌さが増す気もするけど、言った方がいいのだろうか?

そして、男としての本能というか、なんというか・・・

そんな、少し抜けた所を見て、完璧な先輩が可愛く感じた。

先輩は、食べ終わるとすぐに行ってしまった。

もう会社に戻るのかと思い時計を見た。

マジか!

自分も急がなくてはならなかった。

今回は急いで食べる事になったけど、今度は仕事の合間じゃなくゆっくり別の日に味わおう。

急いで会社に戻る途中、ふと思った。

今日の先輩の予定と、シャツのシミ。

余計なお世話と思ったが、先輩の役に少しでもたちたいと思い、会社までの途中にあるスーツショップへ駆け込みカーディガンを1枚購入。

時計を見た。ギリギリセーフ?な時間。

やはり怒られた。

実際は、ギリギリアウトの雰囲気だった。

怒られてそんな雰囲気じゃないとわかっていたけれど、先輩に恥をかかせてはいけないと思いカーディガンをそっと渡した。

それを着たかっこいい先輩が、少し可愛く見えた。

つい、言葉が出た。

言ってて恥ずかしいな俺。

なぜか、先輩は後ろを向き、急ぎ足で仕事に戻っていった。

なんだろう?

なんかあったのかな?

さっきとは雰囲気が変わって、少し機嫌が良さそうだ。

ちょっとは役に立てたのだろうか。

先輩。

俺は、あなたの単なる後輩で新人ってだけですよね?

それ以外にはなれないんですか?

後でまだ機嫌が良かったら、連休の予定はあいているだろうか聞いてみようと思う。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る