第2話 気にしないで・・・

男性


気にしないでと、僕の手をふりほどく彼女。

僕は、そんな彼女の涙の訳を知らない。

でも、これだけの土砂降りの中、傘もささずに呆然と立ち尽くす姿は、雨でかき消されていてもわかるほどの悲しみをまとっていた。

無言で傘を差し出す。

ただただ、彼女の横で彼女の流す涙を見つめながら。

彼女と知り合ったのは、最近の事だった。

初めて入ったコーヒーショップ。

そこで、彼女は注文を間違え僕の席へと持ってきた。

二人とも不思議そうな顔でお互いを見つめ、数秒後、彼女は顔を赤く染め深々と頭を下げ消えていった。

と思った直後、後ろで大きな物音がした。

彼女は注文の先を間違え、挙げ句に、その手に持っていたお盆を派手にひっくり返していた。

哀れに思えてというと上から目線になるが、片づけるのを人助けと思い手を貸した。

彼女は穴があったら入りたいという気持ちだったのだろう。

それは偶然の出来事で、まるでマンガや小説にでも出てくるようなありふれた出会いだった。

その後も店に行くようになり、何度か話をする程度の関係になった。

恋心なんて洒落たモノではなかったが、彼女に好意は持っていた。

何度か顔を出すようになり気付いた事がある。

彼女には、付き合っている彼氏がいるようだ。

見た目も可愛らしい彼女の事だ。

恋人がいてもおかしくはない。

恋人との関係に口を挟む程の関係ではなかったので、あまり気にとめず、どちらかというと応援している方だった。

おっちょこちょいの彼女には、幸せになってほしいいとも思うくらいだ。

そんな彼女が、街中で土砂降りの雨に濡れ、呆然と立ち尽くしている。

事情はよくわからなかったが、なんとなく状況をのみこんだ。

心も体も冷え切った、そんな彼女を放っておくことは出来なかった。

たぶん、男として。

傘を片手に脇に立つ自分に視線を向けることなく立ち尽くす彼女。

いつも笑顔だった彼女に表情はなく、ただ、大きな瞳から流れるモノを雨で見えなくしている。

ただ、それだけだった。

僕の熱で、少しでも彼女の冷えた心と体を癒すことは難しいとわかっている。

そう頭ではわかっていたが、体は彼女を抱きしめていた。

涙を流し続ける彼女に、寄り添うことしかできず、かける言葉もみつからない。

ひとしきり泣いた後、彼女は僕を不思議そうな顔で見上げる。

そこに表情はなく、そして、また涙が彼女のほほを流れていった。

どのくらいたったのだろう。

気付くと、雨がやみ、そして彼女の涙もやんでいるようだった。

持っていたハンカチを手渡し、かける言葉もなくその場から離れた。

これ以上一緒にいたら、自分の保っていた理性も流されてしまいそうになると思ったから。

明日は、店にいるだろうか。

また、笑顔で迎えてくれるだろうか。

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