母の追憶

「そのことがあって、私は彼をどんどんたいせつにするようになった。


またしばらく経って、彼はどんどんたくましくなっていた。

そして、海の外に夢を見るようになった。

この国の外、昼の国や夜の国に行ってみたいと、私に言うようになった。

母親だけで育てて、あの子にはたくさん苦労をかけてしまっていたのに、私は、


私はあの子の夢を拒否してしまった。


ずっと、あの子だけが、わたしの生きがいだったから、離れていってしまうことが、怖くて仕方なかったの。

もし大変な目に遭ったら。

また、あのときみたいに、海が

大切な人の抜け殻を運んでくるなんて考えただけで、私は耐えられなかった。


ひどい母親でしょう、子どもの夢なのに。

初めて抱いた夢なのに。

今、あの子の気持ちを想うと

自分をぐちゃぐちゃに引き裂いてやりたい。

でもそれも出来なくて。


最後の言葉は今でも覚えてる。

「所詮母さんにとって僕は父さんの代わりのものなんだろう」

あの子は振り返らずに家から出て行って、私は膝から崩れ落ちた。



あの子の気持ちなんて考えたことなかったことに気づいたわ。

ただ、自分のそばにいてほしいって、

そればかり。

彼は、ひとりの男の子だったのに。

もうひとりで人生を歩めるほどに力をつけていたのに、わたしが優しいあの子を縛りつけていたの。

私を振りほどく力だってあったはずだわ、

それでもあの子は何回も私を説得しようとしてくれていたのよ。

必ず帰ってくるから僕を行かせてくれ、って何回も何回も。


それでも、それでも私は」







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