1通目 母さんへ

「フランさん」


そう呼びかけると、彼女は一瞬だけ、

とても嬉しそうな顔をした。

でもその表情はすぐに少しだけ淋しい、優しい表情に変わった。

僕はなんだか、なにも知らないのに少しだけ胸が苦しくなって、宛名を確認するふりをして俯いた。


「あなたは?郵便屋さん?」

「ええ、フランさんにお手紙です。」

「まあ、どなたからかしら」

「ジャック・フランさんからです」


なにかが割れた音がした。

慌てて顔を上げると、彼女の持っていた花瓶が割れたことに気づいた。


「大丈夫ですか、怪我はありませんか」

「ええ、大丈夫よ」


大丈夫ではずだった。

彼女は左手を隠していた。

僕は恐る恐る後ろに回って、彼女の左手を見た。

その腕にできた真っ赤な線が、じくじくと涙を垂らしていた。


「手当てさせてもらえますか?」

彼女は悪戯がばれた子供のように笑って、

そして少し申し訳なさそうに言った。


「お願い出来るかしら」

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