第11話 少年と仲間の会話

 野営の合間。少年が皆から離れて野生の子狐に餌付けをしていた。

 そこに面倒を見ている幼い女の子が見つけて駆け寄ってきた。「狐さんだ!」と言って触ろうとするが、少年がそれを慌てて止めた。


「ダメダメ。危ないから」「? 敵意は感じないよ?」「違うよ。狐くんはエキノコックスとかいっぱい病原菌持ってるから触っちゃダメ。こんな風に一時的に仲良くできても、違う生物が共生するのは難しいんだ。連れて帰ったりしちゃ駄目だよ。触るのは駄目」「きょーせい?」「そう。共に生きると書いて共生。種族や文化が違うと、一緒に生きていけないんだ。これだけ仲良くできても」「わからないよ。仲良く出来るなら一緒に生きていけるよ?」「ううん。仲良くできても、意識の違いは必ずどこかに出てしまうんだ。例えばほら。女性の弓の使い手さん」「エシリアさん?」「そう。団員の誰かがあだ名を付けようとして怒られてしまった。彼女には名を重んじる文化がある。ベルッサムも、僕を頑なに本名で呼んでくれる。敬意の表れなんだそうだ。でも僕らは、あだ名こそが親愛の証だ。相手を敬うには違いないのに、だけど結果はそれぞれ正反対だ」「うーん」「それくらいなら大丈夫だけど、下手をしたら、良いと思った行動、何気無い行動が相手を傷付けてしまう。これが発生しやすくなってしまう。それは誰も幸せになれない不幸なことだ」

「言ってる意味が良くわかんない。何か例えは?」

「僕が良かれと思い、皆にしてしまった取り返しのつかない事がある。前の町で、肉料理を振る舞われたことがあるよね?」

「皆吐いた」

「うん。僕が今まで作った料理のせいだった。文献読み漁った。僕の料理は、甲状腺ホルモン、成長ホルモン、過剰な分泌を促す。幼人族の秘術の一つだったんだ。体質を大きくかえてしまうんだ。そのせいで、少しならまだしも、多く食べたりできなくなってしまった」

「それは、知らなかったならしょうがないって皆言ってたじゃない。それに少しの食事で生きていけるようになったよ。それは悪いことじゃないし」

「それでもし死んでたら? 取り返しのない障害を負ってたら?」少年は表情を歪ませた。強く歯を食い縛り、睨むような目付きになって唇から言葉が漏れる。

「知らないじゃ済まされない」


 少年は女の子を見た。女の子は成長していて、大きくなっていた。少年と身長が並ぶどころか、既に僅かにまさっている。

 皆が大人になっていくのが辛かった。自分一人が大人になりたいのになれず、皆からおいてけぼりを食らうのだ。

 皆と歩調が違いすぎて、価値観が違いすぎて。

 共に生きるのが困難なのだと実感していた。


「とにもかくにも、違う生き物は、共に生きるのは凄く難しいんだ。僕は幼人族でドワーフだ。きっと僕は、皆と一緒にいるとどこかでずれが生じる。今も出てる」

「私、ずれててもシャドウとずっと一緒に居たいよ」

「ありがとう。でも、違うのに共生すると、傷つけることになっちゃう。傷つけられる事もある。僕は時々それが怖くなっちゃう」

「何も怖いことなんて無いよ。きっと大丈夫だよ!」

「実をいうと、今でも皆とズレを痛感してる。このまま僕は皆と離れて生きていくべきじゃないかと思ってる」

 少年の表情を察してか、本気なのだと悟る。それを大きな声で少年の声をかき消すように叫んだ。

「やだやだやだ! シャドウは強いもん! 傷だらけでも頑張れるよ! だから私の近くにいて!」「でも、時には誰かを傷つけちゃうんだって」「私だったら平気だもん! だから遠くに行っちゃやだ!」

 なんとも身勝手な発言だった。女の子は気が付けば涙を流している。泣きながら、ただ感情を垂れ流しただけの言葉。しかし、そんな身勝手な発言が少年の心を揺らした。

「うん。僕も近くにいたい。ごめんね。不安になるようなこと言って」

「私をおいて、どっかに行ったりしないでね」

「心配しないで。もう変な事言わないから」




 魔法剣士の青年との会話。

「前のパーティでは僕は何もできずに役立たずだったんだ」「ジャックさんが? もしかして、それから強くなったとか?」「いや、今と戦闘能力は変わらないよ。あ。でも魔術を十全に使えてたから、前の方が強いのは確かだね。今は魔力の七割くらいしか発揮できないし。魔力の波形、波長を変えるチャームのせいだ」「どんなチームだったんだ」「ウェルター、アガスト、シータ。っていうメンバーが居たね。なんて登録してたかはわかんないわけだけど、ギルドにいくとたまに名を聞くよ」「ちょちょちょ、もし、もしかして、伝説のパーティじゃないか! 世界滅亡から救ったていう!」「そんな事もしたかもしんない。でも分かるように、そんときに僕の名前はないし、戦闘にもろくにあてにされなかったよ」

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