第9話 問題起きる
考えの違いがあった。少年の所属する団は変わった事が多いらしかった。
「待って。男女が一つのテントで寝たりするの!? プライベートっていうものがないの!?」「そりゃ、テントの数が合わない時もあるし、誰かが体調崩したりするとそうなるが」「何! こんな食事、体がもつの!?」「ちゃんと別に食事は用意している。あの戦士の男と同じメニューで良いだろ」
おかげで疲労が溜まりやすくなっていた。特に料理や設備の管理をしていた少年は随分と文句を言われた。歌を歌いながら作業していても怒られるのだ。しかも、少年のシャドウゼロという呼び名と戦士の男の名前がはっきりしていない事でも怒られた。新入りの弓使いの女性は、戦士の男に入れ込んでいるようだった。
「隣のテントが夜中からギシギシアンアンうっせーんだよ!! テメーら二人に合わせて移動しているってのに! こちとら疲れてんだ!!」「ニンジャー、落ち着けって」
仲間の中には、怒鳴り声をあげるものも現れた。声をあげたのが普段が温厚な者だけあって、団の中でも由々しき事態だととらえるようになった。
リーダーから呼び出され、少年はいつものように二人会議を行う。その際に、提案された。
「シャドウ。次の街に、数日間滞在してみようと思うんだ。そこで、皆の休暇を考えてる」
「いいね。賛成!」
「特に一番休みが必要なのはお前だと思っている」
「うえ?」
「少しだけ離れてはどうか。本音を言うと、俺が少し休みたいんだ。少しの間だけ、何も考えずにいたい。しかし、その前にお前が休まないと示しがつかないというか。休みにくいというか」
少年はリーダーが疲れている事をしっていた。一見して能天気な性格に見えるが、誰よりも周りを思っている。時折空回りしていたり、周囲が見えないこともあるが、努力しているのはたしかだ。
そんなリーダーの言葉もあって、少年は従った。
街に到着する一行。
とても発展した街であった。冒険者や旅人も商人もいて、とにかく人で溢れていた。何かの催しもあったのか、他の団員達も目を輝かせていた。
さて、宿をとって一時解散の休暇になるのだが、少年は困ってしまった。本を買ったあと、何をすれば良いのかわからなくなって途方にくれてしまったのだ。見世物で大道芸を眺めていたが、自分でも簡単にできてしまうと思えてつまらなく感じてしまう。食事だって、種族の違いか、それほど美味しいと思えなかった。
少年はちびちびミルクを酒屋で飲むのだ。
「あら。かわいい子が居るわね」
少年の隣に女性が座った。短い髪だが、声と喋り口調で女性とわかった。しかし、女性には似つかわしくない鎧姿が印象的だ。皮鎧はところどころ剥げていて、年季の入った様がみてとれた。
暇をもてあましていた事から、少年と女性は話をした。女性は有名な傭兵団に所属しているらしかった。少し休みがてら食事をとっていたところ、場違いな存在が居たため、珍しいついでに話し掛けたのだ。
「僕もギルドに加入した冒険団の団員なんだけど、十日間の休暇を無理矢理とらされて、何をして良いのかわからないんだ」
「」
女性戦士は苦笑いする。「それは捨てる口実じゃないかと思う」と言いかけて口をつぐんだ。「そこでは何をしていたの?」「ご飯作ったり、洗濯物したり、えーと。格下の仲間を相手にくんれ」「傭兵団のランクは?」「え? ランク? わかんない」
「良ければ私たちの傭兵団あそびにこない?」
少年はその誘いに乗った。と言うのも、となりにいた女性に聞かれた時、わからない事だらけであった。どうすれば人をまとめる事ができ、どうすれば力になれるのか、他のチームから学びたいと思ったのだ。
少年は女性に連れられて、女性が所属する傭兵団の集合場所へと到着した。到着した時に、女性の戦士は「なんだよそのガキは。誘拐でもしてきたのか」「ガキの遊び場じゃないんだ」とか色々言われたが、どうにか説得してくれたようだった。
女性が所属している傭兵団は、これから訓練を兼ねた仕事に行くらしい。すぐそこの、雑魚モンスター狩りだとか。あまり危険度が高くないという事から、同行させてもらえることになった。
「危険度?」「ある程度の基準があるのよ。そうすれば無駄な被害を出すことがない」「討伐しにいくのに、思ったほど人は多くないんだね。少数精鋭部隊?」「同じ傭兵団でも、グループに分けられているから」「統括するのも負担が少なくなるんだね。アメーバ経営ににてる。人種の食い違いって大変だよね。エルフみたいに掟が人格を形成してるような単純なまとめかたは嫌いなんだ。シングルレイヤー思考って言ってね」「……」「僕やリーダーは、よくそういったことで悩んでる。一人一人の考えについて僕はリーダーからよく相談されてる。誰の考えを尊重するか、誰に折れてもらうべきなのか。皆正しいからこそ判断が難しいんだ」
街は塀で囲まれている。十数メートルもある立派な壁だ。門をくぐってそんな壁を見送った。入るときには全然気にしていなかった。
少年は、「あ」と声を漏らしたかと思えば、駆け出していた。少年は草むらに飛びかかるや、虎の魔物を引きずってきた。
「ごめんね。こいつら、油断できなくて、嫌なんだ。他の魔物と戦ってるときに飛び込んできたりするし。脅かしても脅かしても懲りずに着いてくるから、気絶させちゃった方が手っ取り早いんだ。これ、どうしよ?」「どうやったの?」「ぽこ、って感じで叩いたんだ」「……」
「ごめんね。頭叩いただけで死んじゃうとは思わなかったんだ」少年は虎の魔物を撫でていた。少年は、理性が沈んでいる状態だと、無邪気に命を断つ。加減を持ち合わせない残虐的一面も持っているのだ。
結局、虎の魔物は通りすがりの商人に引き取ってもらった。
「どのくらい歩くの?」しかし、少年の質問には誰も答えなかった。
「Bランク級の魔物じゃないか。どうして? 危険区域でもないのに」
などと誰かが呟いて後退りしていた。数十メートルの視線の先にはちょっと大きめのゴリラの魔物がいた。そんなゴリラは、毛を逆立てたと思いきや、炎を纏った。そしてこちらに向かって突っ込んできたのだ。皆は揃って悲鳴をあげるのだ。
「おらっ!」
しかし、その突進してくる魔物に、誰かが横から立ち塞がるように壁となった。そして構えていた盾に魔物がぶつかったかと思えば、三メートルはあろうかという魔物を弾き飛ばしたのだ。
「しゃっ!」
態勢を崩した魔物に向かって、別の影が走る。瞬間。ゴリラの魔物の首が宙を舞っていた。
「牙をむいたお前が悪い」と影だった男は決め台詞のように魔物に言うのだ。遅れて、首を失った魔物の体は力が抜けたように地面付したのだった。
二人の男は、少年の所属する団員であった。全身鎧に大盾を装備した青年に、忍者っぽいコスプレをしている細身の青年だ。
「あああありがとうございます!」「その大盾、鋼騎士とお見受けします」「それにあなたはベレット傭兵団の闇の雷!」
二人に感謝する傭兵団達。少年は感謝されている二人に声をかけた。
「あれ、二人とも、どうしたの? というか、この人たち、知り合いなの?」「知らんっす。人違いです。マジで違います。ふざけてすんません」「というか、シャドウ、なんでこんなとこにいるの? この人らは?」
少年は事情を説明した。他の冒険団などのチームをみて勉強しようかと思ったのだと。一方、忍者のコスプレに全身鎧の二人は休日に何をすれば良いのかわからず、ごっこ遊びの力試しに来たのだという。
「っつーか。力試しに来たは良いけど、ここが初心者コースなんだと。フル装備でようやく太刀打ちできる感じでなんか、仕事向いてない気がしてきた」「俺ら、調子にのってたんかね。農業しようかなあ。家畜の世話とか楽しそうだし」
二人は帰ろうと思っていると言った。
「帰るにしても、どうやって帰ろうか」少年が見上げていたが、二人はつられて見上げて納得した。
「わお。ドラゴンだ。流石都会の初心者コース。俺らじゃ団員総出でお迎えしないと太刀打ちできめーよ」「シャドウ、補助してもらって良い?」「生憎オフなんだけど、頑張るよ」「流石我らの副団長。便りになるわ」
一匹のドラゴンが三人の目の前に降り立った。
「ゴウ! 前に出て! あちらの攻撃は気にすんな! 僕が攻撃補助する!」少年が魔法のバリアを使い、全身鎧の仲間をドラゴンの爪から守る。すかさず、鎧の仲間が斧矛を振るった。少年が怯んだドラゴンに潜り込み、撃ち込んで意識を反らす。そしてニンジャーがドラゴンの首を断ち切った。
一息つくが、まだまだ休めそうにない。
「傭兵団は勘が良いのな。二匹目三匹目に対して待ち構えてやがる」
人々が街に向かって走っていたのだ。その先には、二匹目三匹目のドラゴンが降り立とうとしているのだった。実は、傭兵団は単に避難しようとしていただけだった。太刀打ちできる術なんて、持ち合わせていないのだ。
「おいおい。あっちがこれの二倍三倍は大きいじゃねえか。まけてらんねえ!」「負けを認めねえと。無理にけしかけんでも」
「どりゃあ!」という掛け声と共に、鎧の仲間が大きな斧を投げていた。刃の部分だけで少年の身の丈を越える異様な斧。それがブーメランのように弧を書き、三百メートルは離れているドラゴンに命中した。ドラゴンが体に斧を食い込ませながら、こちらを睨む。
「おお。お見事」「……当たるとおもわなんだ。つか、届いちまった」「おい」「どっから出したし。あれでも食い込むだけか。かってえな」「まあ良いや。俺らも走ろうぜ」
足の早い少年とニンジャーコスプレの仲間が走り、ドラゴンと戦う。遅れて鎧の仲間が駆けつけ、戦闘態勢を整えた。ドラゴン二匹を少年と忍者でうまく引き付けていた。二匹を同時に相手をしようとする算段だ。
「後退! 僕が受ける!」言うが早いか。ドラゴンが尻尾を薙いだ。尻尾の一撃は、爆音と共に城壁の上半分を吹き飛ばした。
「」「あちゃあ。そらし損ねちゃった」「……」
一方の別のドラゴンは先程から、口元に光るたまを灯していた。
「あれもなかなかヤバい気がするけど」「シャドウ!」
「あっちむいてほい!」
少年の魔術なのか、ふざけた声と共にドラゴンの首がグリンと変な方向に向いた。その瞬間。ドラゴンのブレスは関係ない方向に放たれた。皆が息を飲む。巻き込まれたなら、ひとたまりもない威力。
「もう一匹もなんかチャージしてっけど! 吸熱ボール、極!」
安堵する余裕もない。次は尻尾を薙いだドラゴンが炎を吐こうとしていたのだ。それを、鎧の仲間が投げたボールが、ドラゴンの口元に集まっていた光の玉から、一気にエネルギーらしき物を吸収していった。
隙に乗じて、ニンジャーがドラゴンの目玉を貫いた。
「王水。刃と化せ!」少年が魔法の詠唱を完成させる。
「エグい技きた! 壁の守りは俺がする! シャドウは気にせず攻めろ!」そう言って、鎧の仲間の手の中で水晶が砕けた。魔力の増幅機か、魔術を閉じ込めていた媒体か。なんにせよ、その同時に結界が展開された。
結果的に、ドラゴンは首を失い、もう一匹のドラゴンは頭をかち割られて死んでいた。
「ほええ。こんな都会でも、郊外にゃあドラゴンが出るのかあ。三体も出てくるとはおもわなんだ」「ドラゴソドラゴン。ふざけた名前でつええけど、俺らの敵では無かったな」「なに言ってんだ。シャドウと、道具一式使い捨てなきゃどうにもならんかっただろ。ギリギリもギリギリだ」「その言い方だと、僕も使い捨てにされたように聞こえるんだけど。それにしてもこのドラゴンたち、操られてた感があったね」
そうは言っているが、三人は完全な無傷である。しかも、ドラゴンが出てきた事に関しても、イレギュラー中のイレギュラーだ。街が壊滅する危険もあったのだ。現に、少年が反らしたドラゴンの尻尾の一撃は、城壁を派手に壊している。あらぬ方向に放たれていたブレスも、数キロメートルという凄まじい爪痕を残していた。
それをたった三人で三体のドラゴンを討ち取ったのだ。
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