第8話 相容れない新たな仲間
「おいジャック。他の奴に、何か配っていたじゃないか。俺には無いのか?」
少年は戦士に絡まれていた。少年はあまりこの男が好きではなかった。過去のパーティーメンバーと同じような扱いをするのが不愉快だった。皆を思って栄養価の高い食事を作り、負担を掛けないように雑務をやって来ていた。それを当たり前のように。それどころか、早く作れ、早くしろ、もっとうまくできないのか、こんな物を食わせるのかと罵倒に加え、声をあらげるのだ。
だからだろうか。
少年はプレゼントの失敗作を渡した。皆に渡したような丈夫で永久的に魔力を循環させるのではなく、込めた魔力しか放出できないお粗末なものだ。最早魔道具というよりは、ただの人工魔石でしかなかった。戦闘でも、一定の魔力を垂れ流すだけで、大したこともできない物だった。
しかし、魔法の素質が無いことから、戦士の男にはそれで十分だった。
ある村に立ち寄った時のこと。村では感染症が蔓延していた。癒術の心得のある団員達で医者の真似事をしていく。しかし治療となれば、数日の滞在が余儀なくされた。
「二種類の感染症のダブルパンチだ。しかも一つは特効薬、抗生物質が効かない。治療には何日か診させてほしい」
ただでさえ頭を悩ました時に、問題は重なった。魔物が出たのだ。もともと、魔物退治が本業ではあったが、疫病の流行った村で滞在していて団員達は体力が落ちてしまっていた。少年の仲間の中にも感染者が出ていたのだ。
「一番疲れているのはシャドウだってのに、すまねえ」
少年は眠らずに患者を診ていた上に、魔物退治にも駆り出されていた。そんな団員達の働きに、村人達は感謝するばかりであった。その村からそろそろ出ようと考えていた矢先、誰かが着いていきたいという申し出があったらしい。らしいと言うのも、少年には余裕が無く、話を聞かされていなかった。同じような病気が流行らないように、対処法を村人達に懇切丁寧に説明していた。
出発の時に、見慣れない誰かがいて、はじめて気が付いたのだった。女性は、新入りの戦士に話しかけられているようで、どうでも良い話をしていた。
「あの女性誰?」「旅の人らしいよ。薬で命が助かったとか」「リーダーは見境なく薬配ってたもんね」「貴族に売り付けれたらもっと稼げてたのにね。ま、そこが団長が慕われるとこなんだけど」
ニンジャーを自称する仲間が会話に割り込み、こっそり言う。
「何であのくそゼロ戦士が我が物顔でいるんだろか。あのおっさん、最初は『こんな場所、さっさと立ち去ってしまえ』ってうるさかったのに。手柄、名声、横取りしてるみたいで気分悪い」
「旅の人は美人だからね。少しの間でも見栄を張りたいんでしょうね」
少年の仕事である食事の役割だけは、誰も代わることができなかった。少年の食事は特別で、調合に似た部分があった。おかげで団員が、年齢にみあわない実力、体力、成長を備えているのだ。
少年自身は無自覚だが、幼人族の秘術も噛んでいる。
そんな料理を作っている内に、同行していた旅の人は仲間になっていたようだった。どういった流れかわからないが、そういう事になっていた。
「へえ。あの戦士も人助けねえ」「何かの間違いかもな」
「何の話?」少年が話に入り込めば、団員達は面白おかしく説明した。
「なんかくそゼロ戦士が若い頃に少女を助けたんだと。それが今居る弓使い、……。名前、なんてったっけ?」「俺もあの人とは打ち解けれなくてな。あいにく知らない。ま。弓使いにとって、あのでしゃばりが恩人なんだと」「世界は広いようで狭いな。億の人口に対して探し人に会えるとか、どんな確率だよ!」「事実は小説より奇なり、ってやつだ」
「…………」いきなり無言になって顔を見合わす。
「あり得ねえよな?」「あり得ないあり得ない。それにしても、あの弓使い、何で判断したんだ?」「多分、あの子、頭がかわいそーなんだよ。私にしかわからない判断方法があるとかで、俺が説得しようとしたんだが聞く耳持たねえの」「もっと粘ってやれよ」「ダメダメ。駄目なあれだぜ。シャドウもかかわんねえ方がいいぜ」
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