第6話 年上の新人加入

 少年が所属する団も、随分安定した状態となっていた。運が良いのか悪いのか、行く先々は仕事で溢れていた。暴れる魔物を仕留めたり、盗賊をとっちめたりだ。もともとリーダーや団員達は揃いもそろって能天気な性格であった。団員の誰一人とて魔物を追いかけている訳ではない。拠点も持たずに気ままに移動してばかりいるのだ。きっと、拠点さえ持てれば、入団希望者で溢れることだろう。それほどに少年の所属する団は名をあげている。


 赤髪の魔女は修行する青年を見守っていた。


「すっかりシャドウの弟子ね」


 そんな魔女の呟きに青年は「まあな」と答える。魔法剣士である青年は、最初はこんな性格ではなく、もっと自信過剰な部分があった。それがこんな性格になってしまうなんて、と魔女は笑う。


「どんな自信家も、ジャックさんの実力を見せられては黙り込むさ」

「ジャック? ああシャドウの本名ね。ま。普段は子供なのに。戦闘になると、途端にかっこ良くなっちゃう」

「幼人族の血筋であんな性格なんだと。理性が浮き沈みしてしまうのだとか。本来、幼人族は言葉を細かく使わずに、感覚でコミュニケーションを行うらしい。かわりに一種のテレパシー能力があるそうだ」

「確かに覚えがある。盗賊のしたっぱから、拷問も何もしてないのに情報全て引き出しちゃったものね。というか、おもちゃ追いかける感覚で諜報員を三人とらえたのには流石に笑っちゃった」

「しかも一人は並外れた実力者。それを猫がネズミを追いかけるのが如く」

「そうよ! 猫! 『見て見て! 変な人捕まえた』って言いながらだもん! まさに猫よ!」


 少年に視線を移す二人。少年は孤児の女の子と一緒に歌を歌いながら洗濯物を干していた。女の子と並んでいても、その姿は本当に子供としか見えないのだ。


「ジャックさんは他者を育成する能力も凄い。この団は若者ばかりいる。18歳の俺やリリーでさえもここでは年長扱いだ。そんな若者がここまで力をつけてるのに驚いてばかりだ。ミシェルも、8歳のくせして、防御魔術と癒術と薬は前線でも活躍できるレベルだ」

「ミシェルは凄いけど、驚くこと? 凄いの?」

「リリーはわかっていない。10名以上のメンバーをまとめていくのは凄いことなんだ。それに、世間では俺ほどの実力は神童と呼ばれていた。この団員は皆、それに匹敵してる。ストレスも感じさせず、かつ、一人一人育成するのは凄いんだ。旅も、この団はどこよりも快適に移動している。実際はもっと疲れるんだ」

「ドワーフの血? 纏めるのが得意って傾向はあるし。戦闘の時は何度も庇ってくれたし」

「かもしれない。とにかく凄いよ。ずっとついていきたいって思える」


 少年の存在は、団にとっては不可欠な存在となっていた。




 ある時。少年の所属する団に数人の入団希望者が現れた。魔法剣士以来の出来事だ。


「いやいや。騎士団でも何でもない。ただの自由気ままな旅団だ。そんな大それたものじゃない。確かにギルドに登録はしていたけども」


 団長は説明する。しかし諦める様子がなかった。断る理由も無いため、結局数人の加入を認めた。しかし内二人はすぐに脱退したのだった。


 団員とリーダーが訓練もそこそこに話をしていた。

「なあ団長。この間の新入りたち、何ですぐやめちまったんかな?」

「なんか、なんか凄く活躍している騎士団と間違えたらしい」

「あんだけ団長が説明してたのに」

「間違えたんならしょうがない」とニンジャーを自称する団員が会話に割り込む。

「団長。俺らの団って、名前とかねえの?」

「あるにはあるが、どんな名前で登録したか忘れてしまった。仕事こなすと勝手に更新されてるから、心配はないぞ」

「そう言えば、新人は年上ばかりだったな。俺ら見て、『本当に女、子供ばかりじゃないか』ってぼやいてたな」

「そう言えば、残った新人。あれはどうだ? 馴染めれそうか?」リーダーは少し新入りを気にしていた。

「なんか変わってる気がする。というか、シャドウゼロって名前が団に二つあるとややこしくてたまんねえ」

 ニンジャーも少し不満を持っていたのか、一緒にぼやく。

「今さらシャドウの呼び名を変えるのは難しい。っつても、シャドウはあだ名だし、シャドウの方の呼び名を変えるのが当たり前になるのか。それにしても、シャドウゼロって、どこの地域の名前なんだか。内心、怪しくてたまんねーわ」

「シャドウゼロ?」

「そう呼べと言われたし」「おうおう」


 リーダーは首を捻るのだ。「アッシュって名前じゃなかったか?」


「?」「?」

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