第5話 エルフが旅立つ

 エルフの里でのこと。

 そこには少年が助けたエルフの少女がいた。少女は大切そうに少年の鞄を抱き締めている。中にはたくさんの金貨が入っている。勿論それだけでなく、宝石や鍋や石ころと結構ごちゃごちゃと入っている。しかし、鞄も魔法が掛かっているのか、か弱い少女でも持てるくらいに軽いのだ。これ等がいかに価値ある物なのか、想像に難しくない。魔力を感じ取る能力を持ち合わすエルフであれば尚更だ。


「エシリア。また里を抜けようとしたらしいな」


 少女はエシリアというらしい。長年面倒を見てきていた年長のエルフは少女に声をかけたのだ。

 日頃からエシリアというエルフの少女は、「例のあの人」を探しに行きたいとほざくのだ。そして機会を見ては里を抜け出ようとしていた。里の皆が言って聞かしても不満そうな表情を浮かべるだけだ。里のエルフは少女の雰囲気を察してか、常に監視するようになったのだ。そのまま月日だけが経過し、少女もすっかり女性となってしまっていた。


 少女にとって、少年との出会いは凄まじく強烈な思い出となっていた。命を助けられ、傷の手当てもしてくれ、美味しい料理も振る舞ってくれた。エルフの大人の戦士さえも返り討ちにしてみせる程の強さ。それが未知の種族ともあれば、少女にとってみれば何が何でも知りたくてたまらない存在だった。最早、呪いであるかのように少年の影は彼女の頭から離れず、焼き付いているのだ。

 たとえ時間が経とうとも、少女の中でその出来事が風化することは一切なかった。



 エシリアとかいう少女は、里の成人の儀をむかえていた。数少ない祝い事だ。里のエルフ達は浮かれていた。

 そんな日に、エシリアというエルフは決行した。


 里を抜け出したのだ。

 持っていた荷物はかつての恩人の物。そこから発せられる魔力は未だに衰えていない。この魔力の波形、波長をたどればいつかきっとあの人のもとに辿り着くのだと考えていた。

 できることなら、あの人に仕えたい。身も心も捧げたい。そう思うのだ。

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