第4話 旅団所属

 少年は気が付けば冒険団に所属していた。総員十二名の団員だ。

 最初は少年とリーダーとなる青年と、若い魔法少女の三人で活動していた。しかし今やあっという間に名声をあげ、新進気鋭として同業者から一目おかれる存在となるのだった。

 そこで少年は、幹部の地位にあり、お金の管理や雑務を任されるようになったのだ。最初は団員最強と言うことで色々やっていたが、団員も育ったと言うことで、一歩引いて見守る役割となったのだ。因みに少年は二十六歳だ。それでも少年は少年だ。その理由を知っているのは茶髪の青年であるリーダーと、赤髪の成人した魔法少女の初期メンバーだけだった。既に団として結成してから二年の月日が経っていた。


「シャドウ。東のベルベットに移動しようと思うんだが、ここからだとどのルートが最適解だろうか。旅の経験があるのはお前しかいねえし」「ねえシャドウ。ちょっと調子が悪いみたいで。この魔杖、見てくれない」「シャドウ。かてえのが出た。助けてくれ」


 少年は皆に頼られていた。シャドウとは、少年のあだ名だ。

 少年はこの生活が楽しかった。皆に必要とされ、食事も美味しいと誉めてくれるのだ。孤児の女の子を団で面倒を見ているのだが、とても少年になついており、それもまた嬉しかった。

 ある日、大きな仕事を成功させ、宴をしていた。


 少年は、前に所属していたパーティーメンバーを思い出していた。

 雑用雑務、するのは当たり前。そこには感謝もなく、むしろいさせてやるだけでも有り難いだろと言わんばかりだった。意地やら不満やらで少年はメンバーに思いを伝えた。そして気が付けば少年はメンバーから出ていくことになったのだ。周りの仲間達は呆気なく認めてしまった。放った言葉は取り消せず、引くに引けなかった。あの時の少年は若かったのだ。


「シャドウ、どうしたの?」


 少年は同僚に声をかけられ、思い返していた意識を戻す。今はまだ宴の最中であった。


「何でもない。凄く楽しいなって思って」「主役はあんたじゃない! もっと楽しみなさいよ」「主役だなんて、そんなことないよ。たまたま」「ワイバーンほとんど一人で何体も倒しておいて、何言ってるのよ」


 少年は色々なメンバーに絡まれるのだ。赤髪の魔女にリーダーに子供や仲間達。

 前のメンバーでは考えられない事だった。


「お前、影が薄い」「むしろ影がない。うんシャドウゼロ」「おお! いいあだ名だ。ピッタリだ」「シャドウゼロ」「シャドウゼロ」「シャドウゼロ」「シャドウゼロ」


 少年はその前のメンバーにつけられたあだ名が不愉快で、トラウマだった。影が薄い、お前なんていてもいなくても一緒だと。しかし、それも今の仲間によって払拭されている。敢えて少年は例のあだ名を名乗ったのだった。同じ呼び名であるが、込められた思いがまるで違う。今やあだ名を呼ばれるのが誇らしくあったのだ。少年は過去のトラウマを絶ちきれたのだ。



「僕からプレゼント!」少年が宴の盛り上がりに便乗して、手作りプレゼントを渡しはじめた。すると団員は、今まで以上に喜びの声をあげた。団員は少年からプレゼントを受けとると、皆が子供のようにはしゃぐのだ。


「シャドウ。良いのか?」茶髪のリーダーは少年に言う。

「勿論!」

「ドワーフと幼人族の技の結晶。俺らには勿体ない」


 この少年、実は幼人族とドワーフの混血なのだ。幼人族とはエルフと類似する点が多い種族だ。不老で魔力の扱いに優れている。しかし、性格はあまりに正反対なのだ。無邪気で馬鹿。故に、エセエルフと呼ばれる事もあった。

 そして少年は、ドワーフの技にも長けていた。少年の作り出す御守りや武具は、並外れたできなのだ。しかも、一人一人体質に合わせるなど、丹念込めて作られているだけあって、尚更強力な魔法道具となっていた。


「見ろよこのバングル。全てが軽く感じる! 両手で持ってた盾も片手だ!」「おおぅ……。まるでかの伝説の一族、ニンジャー……俺カッコいい」


「このイヤリングお洒落で綺麗。有り難う。ずっと大切にするね」と赤髪の魔女。


 この団員のほとんどが無邪気に喜ぶ。そんな中、少し戸惑う青年が一人。赤髪の魔女と同じ年齢の、刀を武器にする青年だ。

 最近入ったばかりで、少年を格下だとばかり思い込んでいた、勘違い青年だ。しかし今回の仕事で、改め直すことになったのだ。


 簡単に言えば、この青年は判断を見誤り、窮地に陥った。それを少年が助けたのだ。それを青年は酷く情けなく思い、同時に少年に対して敬意を払うことになった。


「良いのか? 俺は魔法剣士だから、この籠手がいかに凄いのか良くわかる。皆はそれが理解できていないようだが」青年は少年に呟く。


「勿論いいよ。仲間だもの」

「それだけじゃない。今回俺は、皆を危険にさらし、挙げ句に足を引っ張っちまった。それに、今まであんたを、団員皆を見下してもいたんだ」

「もういいよ。それで十分だよ」


 少年は青年の言葉を遮った。「君は僕らを認めてくれた。きっと皆もわかってる。その心で十分なんだよ」と。


 最初はこの魔法剣士の青年のように受け入れてくれないかもしれない。しかし、日々の振る舞い次第で自分の価値をちゃんとわかってくれる。それが実感できて、とても嬉しかったのだ。


「だからどうか受け取って欲しいな」

「有り難う」

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