第二章

第3話第二章

第二章

 皇帝が平時起居するエルマンド宮は、官庁街の真ん中に鎮座する。元来は要塞防衛司令本部であった建物を改装、増築したものである。そこにはまた、皇室警護隊本部が設置されていた。

「はぁ…面倒臭いね。報告書なら転送したのに、何故呼び出すかね」

エルマンド宮の廊下を歩きながら、カイム少佐は愚痴を吐いた。

「テロリスト達の身柄引き渡しに念を押すためだったのでしょう?」

付き従うミリナの答えに、カイムは鼻を鳴らした。

「ふん。そんな事は言われなくてもしてあげるよ。こちらの取り調べが済めばね」

「しかし少佐、取り調べと言っても…」

「ああ、一人しか無理だろうね。みんな生体ユニットがダメになっていたし」

「…それは少佐が剣で養分供給系を破損したからでは?」

カイムが左手を掛けている高周波振動剣を一瞥する。

「仕方がないだろう?完全交換体なんて、何がどこにあるか判らないし…」

その様な二人の会話に割り込んだ者があった。

「カイム、カイムではないか!?」

未だ幼さの残るその声は、キャノンランドで来場者に語り掛けていた少女のものであった。小走りに近付いてくる足音。声の主を熟知している二人は、立ち止まって踵を返すなり、恭しく頭を垂れた。

「これは皇帝陛下、ご機嫌麗しく」

女王の時とはまた異なる錫杖と服装の彼女こそ、正アクイナス帝国第三代皇帝ハナ・クリスナⅡであった。その背後に控える男装の麗人は、巨大モニタ上で狙撃銃を構えていた女性であった。平静を装いつつ、二人に向けられる視線には敵意が宿っている。

「直るがよい。此度は何の用かな?まさか貴公が要人警護でもあるまい?」

まるでカイム達がふらりと遊びにでも来た様な口ぶりである。

「ははは、これでも仕事なのですよ。アーリア司令と、帝国領内に侵入する不逞の輩の情報共有について、少々打ち合わせを」

「そうであったか。アーリアは神経質になってはいなかったか?またその不逞の輩がしでかしおってな」

皇帝はカイム達の活動を聞かされていない。いかに保護国とはいえ、他国の軍隊が自国民保護等の目的以外で動くのは問題がある事、何より皇室警護隊の威信、存在意義に関わる事等により秘密とされているのである。

「陛下、お急ぎを」

背後から侍従たる男装の麗人が、引き離そうとするかの様に急かす。

「そう急かすでない、アリス。時間はかからぬ」

「どちらへお出でですか?」

行き先については熟知していたが、自然さを装うため訊ねる。

「うむ、離宮へな。いつもの事ではあるが、煩わしい事よ」

微かに眉根を寄せる。

「陛下、お聞き分け下さい。ここでは敵の攻撃により市民や観光客等に被害が」

「判っておる。それではカイムよ、またの機会にの。今度はあの、居合い抜きと言うのか、あれをまた見せてはくれぬか?」

「相応しき場所が与えられましたならば」

人好きのする笑顔と共に答えた。

「そうであるか。用意をしよう。ところで、このまま離宮へ共に赴いてくれるならば心強いのであるが」

「陛下…」

侍従は少し咎める様な口調で言った。

「はは、戯言じゃ、許すがよい。では行くぞ、迎えが待っておる」

再び頭を垂れたカイム達の横を、歩み去ってゆく。

「これから先も、こういう目に遭うんだろうね」

未だ十代である皇帝の背中を見送りながら、ぽつり、呟くカイムに。

「ならば、いっそ退位なされば宜しいのです」

それは帝国の終焉を意味していた。

「そうだね…私達が敵になる前にね」

とても小さく、カイムは呟いたのであった。


 大型旅客船”アークエンジェル”は、定刻通りに第六港湾区に進入した。かつてこの正アクイナス帝国が”殲滅要塞”と呼ばれていた頃には、軍艦がひしめき合う様に停泊していた宇宙港は、今や各国からの客船が舳先を連ね、優雅さを競っている。この港湾区は客船専用であり、停泊用設備など、大幅な改修が行われていた。

 ”アークエンジェル”周辺に、自動タグボートが集合し始めた。船腹に取り付き、指定された桟橋まで誘導する。接岸するや、来客用エアロックに桟橋から延びてきた通路チューブがドッキングした。エアロックを出た乗客達は、チューブを通る間無重力状態を楽しむ事となる。そうして桟橋に降り立った人々の中に、その女性は居た。褐色の肌に黒い瞳と髪、パンツスーツ姿のその女性は、軽やかな足取りで入国カウンターへ向かった。その後を二人のスーツ姿の男達が少々間を置き追跡していた。

 入国カウンターは桟橋内にある。何本かのレーンのうちどれかに並び、順番が来ると脇の機械にパスポートを翳す。瞬時に暗号化された個人情報や入国許可証などの情報を読み取り、顔や指紋などの照合のために使用される。もし書類に不審点や、照合結果が”ペルソナ・ノン・グラータ”(好ましからざる人物)であった場合など、カウンターは閉鎖される。入口側の扉が閉じ(出口側は最初から閉じている)、警備兵に連行されるのである。同時並行で実施される危険物所持検査に引っかかった場合も同様である。

 入国審査を難なく通過した女性は、最後に荷物受け取り用のカードを渡された。それを手に荷物受取所へ向かう。そこには、カード挿入口と足元にコインロッカーよりも一回り大きな扉があるだけの、無愛想な装置が何台も並ぶ部屋であった。そのうちの一台のカード挿入口に渡されたカードを挿入すると、暫くの後下の扉が開き、旅行鞄が一つ出てくる。取っ手を伸ばすと、それを滑らせつつ出入り口へ向かった。二人の男は、手ぶらのままイヤホンマイクに何事かを小声で呟きつつ、やはり少し間を置き追跡を続行したのであった。


 何重もの重厚な扉で閉鎖されていたゲートが開く。そこから先は、離宮であるオテルドルレアン宮へ続く一本道である。ゲートの構造からして察せられる通り、正アクイナス帝国最後の砦であり、関係者以外一切立ち入り禁止の区画であった。開かれたゲートを、何台もの装輪装甲車が通過してゆく。その車体何カ所かに、大小様々な盾と王冠をあしらったエンブレムが描かれていた。皇室警護隊であった。ゲート向こうは薄暗く、道路両側には一切建物の類は無く、アーケード状の歩道が続いている。そこには警備兵達が展開し、屋根の上には機関砲座が等間隔に並んでいる。警備兵や機関砲座を除き、帝国領内の市街地はどの階層もそこと同様な構造であった。帝国領は、玉葱状の構造を持っている。半径数キロメートルある中核部より、外側に十六~二十五の階層があり、一階層の地上部の高さは四十メートル余り。地下構造も含めれば五十メートル余りとなる。元来が軍事施設であるので頑丈に出来ており、ある階層で大爆発が起きようと他の階層へはまず影響は及ばない。宇宙港などは数階層ぶち抜きとなっている。中核部は巨大ビーム兵器と附属設備、反重力炉や汚水処理、空気浄化設備などの生命線が集中配置され、最重要機密かつ最重要警戒区域となっている。

「いつ見ても、つまらぬ光景であるな」

窓外(装甲車に窓はないので、周辺警戒用カメラの映像を、窓枠状のモニタに映しているのであるが)を眺めながら、溜息混じりに皇帝は呟いた。彼女の座乗する装甲車には、皇室警護隊のエンブレムの他、ツタ模様の装飾が施されている。彼らの使用する車輌は、防御力のみならば戦艦並みなどと言われており、おおよそ個人携帯用の兵器などでは、撃破は困難なのであった。

「陛下…」

向かいから声を掛けられ、そちらへ首を巡らせる。

「何か?」

目の前には、あの侍従が着席していた。二人ともソファに腰掛けているが、殺風景な車内では浮いている。

「どうか、あの様な発言はお慎み下さい」

「あの様な、とは?」

問い掛けられ、侍従はチラリ、運転席の方を見遣った。警備兵二人が向かい合わせに長椅子に腰掛けている。テーブル上のスイッチを操作すると、警備兵達との間にシャッターが降りてくる。二人きりになったとたん、侍従が話し出した。

「カイム少佐に、離宮までの同行を希望する様な事をおっしゃいました」

「そうであったな」

「もし、あのお言葉を口実に、あの者達が離宮まで同行してくる様な事となれば、いかがなされたおつもりですか?」

「余は心強い、と言った筈であるが?」

侍従は小さく溜息をついた。

「陛下、以前も申し上げた通り、あの者達は我らの味方では御座いません。いつ背馳するやも知れない、潜在的な敵に御座います。今回の暗殺も、あるいは彼らが手引きした可能性も御座います」

その可能性は極めて低い事を知りながらも、皇帝が事情を知らないのを良い事にそう吹き込む。

「…つまり、余自ら暗殺者の手引きをする事になりかねない、と?」

「僭越ながら、そう愚考いたします」

「…なるほど、一理あるやも知れぬな…ところで、もしアリスよ、貴公の推測通りにあの者達の計画が推移したとして、余を手に掛けた後どうなるのであろうか?」

「最初から、死は覚悟の上かと」

「あの者達は、あるいはな。では、その後は?」

「帝国軍統合参謀本部は、全軍に対し共和国への戦闘準備命令を発令するでしょう」

「”正アクイナス帝国処分条規”は無視して?」

「陛下が暗殺されたならば、当然の措置です」

「では、もし余が退位した場合は?」

「もし他国からの圧力によるものと見なされるならば、同様の事となりましょう」

「そうであるか…ところで、その時帝国領内におる他国民はどうなるのであろうか?まさか余を退位させ、あるいは暗殺しておいて、国民は素直に帰国させて貰えるなどと、無邪気に信じてはおるまいよ?」

「それは…ですが、国民を人質に取る様な事をすれば、救出部隊との衝突は避けられません。最悪人質に多数の死傷者が出る事となるでしょう。そうなれば、我々はどの様な報復を受ける事となるか」

「そうであろうな。我らは滅びるかも知れん」

開かれた右手を見詰めつつ独白した。その愛らしい面に悲哀が漂う。しかし、その目は伏せられる事も彷徨う事もなく、忠誠心の固まりの様な侍従へ、つ、と向けられた。

「もし、あの者が害意をもって向かって来たならば、余の力を発動させたとしても、恐らくは敵うまい。所詮我らは、結局は誰かの思惑により生かされているにすぎぬ」

傍らの錫杖を、右手で掴む。

「余は帝国民に棄てられるまで退位はせぬ。殺されもせぬ。帝国が共和国の一員に、平穏のうちに移行できるよう皇帝であり続ける」

「陛下…」

今にも零れ落ちそうな涙を堪えつつ、両手で顔を擦り、頬を叩く。苦心して平静の表情を取り戻すと、侍従は再びテーブルのスイッチを操作し、シャッターを収納したのであった。

 やがて装甲車は停止した。検問所であった。先頭の装甲車に搭乗していた班長がIDカードを提示し、警備兵がハンディターミナルで確認すると、ゲートのシャッターが上げられ、バリケードが道路内に引き込まれる。車列は敬礼に見送られながら、オテルドルレアン離宮の正門を目指したのであった。


 カイムのオフィスで彼はミリナの報告を聞いていた。今回の暗殺未遂に関する調査報告であった。

「あの者達は”ワイルド・ウィーゼル”のメンバである事が、腕のタトゥーから判明しました」

タトゥーと言っても、意識的に浮かび上がらせるタイプのものである。

「あそこかぁ。まぁ、傭兵団と言うより暗殺者集団だからね」

「はい。未だ人数及びメンバの素性は不明ですが」

「それは取り調べ次第かな。準備はまだ?」

「出来次第、連絡が」

「そうか。ところで、彼らがキャノンランドに武器を持ち込んだ方法は?」

「チューブを利用したものと思われます」

「証拠が?」

ミリナは一つ頷いた。キャノンランドは重要な施設であり、皇帝もキャストとして出演する事があるため、さりげなく厳重な入場チェックが行われる。ゲートから危険物を持ち込む事はほぼ不可能と言えた。ランド内にも警備員はもちろん、キャストに扮した皇室警護隊の警備兵が配置されているのである。

「地区担当の物流管制センターから提供されたチューブの稼働状態を精査した結果、ランドの荷物集配所を出た生鮮食料品用コンテナに、不審な動きが見られました」

「不審な動き?」

「はい。約1分間、停止していた可能性が。不自然な加減速が記録されています」

チューブとは全自動の貨物輸送網である。領土全体を網羅し、設定された区画毎の物流官制センターで監視、制御している。もちろん区画を跨いでコンテナを流通させる事も可能である。

「つまり、その1分間に武器を便乗させて貰ったと?アクセスハッチの開閉状況は?」

「記録されています。ランド外とランド内で」

「ふぅん。仲間がランド外で武器を仕込んで、ランド内に客として入場し、受け取ったのが彼らか」

「あるいは、ランド内に協力者が?」

「身元調査は厳重にやっている筈だし、そうでなければ良いんだけれどね。何れにしろ、チューブのアクセスハッチのセキュリティを強化するよう忠告しよう」

「やはり”帝国義勇兵”の仕業でしょうか?」

”帝国義勇兵”とは、アクイナス帝国軍の元軍人、その子孫(共和国軍の現役軍人など含むと推測される)などが、共和国打倒及び正アクイナス帝国排除を謳い結成したテロ集団である。彼らにすれば正アクイナス帝国は帝国を冒涜する許し難い存在である、という事らしく、領土侵攻作戦計画や暗殺計画を幾度となく実施し、悉く失敗してきていた。計画阻止のその裏には、カイムの実家であるタカツカサ家も深く関与してきたらしいのだが…

「どうだろうねぇ。あそこはあくまで自力で行う事に固執してきているからなぁ。まさか、メンバって事もないだろうし」

と、ミリナのイヤホンマイクに着信があった。

「…了解。少佐、準備完了との事です」

「了解、行こうか」

椅子を立ったカイムは、ミリナを従えつつオフィスを後にしたのであった。

 耐爆ガラスの向こうには、さして広くない部屋があった。その中央には担架状の台が置かれ、その上には円筒形の透明なケースがあり、液体が満たされている。その中に吊され、たゆたっているのは、人の中枢神経系であった。テロリストの完全交換体から摘出したものであった。ケースの下から伸びたチューブ類が、脳幹近くに設置された人工循環器に接続されている。ケースの下には、四本の支柱に支えられた何本かのリングがケースを囲う様に設置されている。その上方には幾つものマニュピレータが見切れていた。

「始めて下さい」

ミリナの合図に一つ頷き、男性のオペレータがコンソールを操作する。ケース内の液体が、ぼんやりと青く輝きだした。リングから放射された電磁波に反応し、発光しているのである。これが彼らの取り調べであった。

「何か出てくるといいねぇ」

ミリナの横でケースを見守るカイム。

「ほんの僅かでも、記憶を抽出出来れば…」

生身や身体の一部を人工物と交換した不完全交換体に対してはまた他の記憶抽出方法が存在するが、外部からの干渉等から特別に脳などの生体ユニットを保護されている完全交換体には、この方法が一般的であった。

「依頼主が判れば最高だけれど、せめて仲間が判ればね」

「アブシデ協商同盟加盟のいずこか、でしょうか?」

「かもね。”解放戦争”の時だって、傭兵にちょっと戦わせて、しっかり連合軍の尻馬に乗ったんだしね…ただ」

「この時期に、ですか?」

考え深げなカイムの胸中を、ミリナは忖度した。

「うん、そうなんだ。それが疑問なんだよなぁ」

右手で顔をさするカイム。この疑問の背景には、アクイナス帝国皇室の莫大な資産の帰属という問題があった。 ”解放戦争”の敗北によりアクイナス帝国最後の皇帝フェリポ・マクシムⅡが退位した後、正アクイナス帝国皇帝フェリポ・マクシムⅢが即位すると、その父である元皇帝が国外の資産、その大部分を新皇帝に贈与すると言い出した。皇室には長年優秀な資産運用担当者が仕え、その資産を膨張させ続けてきたのであった。今や個人資産として贈与するにあたり、巨額の税金納付や、国庫から皇室へ拠出されてきた諸経費の返納などが行われたが、それでもなお世界に多大な影響を与えうる程の資産が贈与されたのであった。連合諸国は、それが反連合活動に投入される可能性を盾に取り、未だ全面的な資産凍結解除に反対している(贈与時の税金などは一部解除して貰い支払った)。とはいえ、実のところこの莫大な資産を、連合諸国で仲良く分配しよう、という魂胆が垣間見えていたのである。そのためアクイナス共和国に対し、その凍結資産放棄を要請していたのであった。未だ後嗣のないハナ皇帝の崩御により、直系相続人の途絶えた皇室の資産は、アクイナス共和国の国庫に納まる事となる(そう”正アクイナス帝国処分条規”に規定されている)。そうなる前に共和国に凍結資産放棄を確約させ、その後ハナ皇帝には退場を願う、というのが連合諸国、とりわけ最大の凍結資産を抱えるアブシデ協商同盟にとって最良のシナリオの筈であった。未だ共和国は個人資産に関する事だからと、要請を拒み続けていた。この図式を裏返せば、共和国も同様だからであった。連合諸国に資産凍結解除を行わせた後皇帝に退場願うならば、莫大な資産はそのまま国庫に納まるのである。帝国にとって共和国は味方と言い切れないのであった。以上述べてきた背景により、カイム達は暗殺時期が尚早と判断し、不審に感じていたのであったが。

「でもまぁ、もっと別の動機もあり得るしね。”解放戦争”で辛酸を嘗めさせられたとか、あるいはそもそも反乱を企てた元帝国民だとか」

「しかし、今更暗殺を?」

「そうだねぇ…まぁ、これでヒントが得られればいいけれど」

「記憶抽出開始しました」

オペレータの操作で、耐爆ガラス上に映像が表示される。ザラつき歪みのある映像は、細切れで脈絡がない。

「後で補正、精査しないと」

少々うんざりした様にミリナが呟く。その間にも映像は流れ。

「ん?」

カイムが声を漏らしたとたん。

「何だ!?」

オペレータが焦燥の声を上げた。

「どうした?」

「人工循環器が発熱して!」

ケースを見れば、液体が泡立ち始めている。

「不味い、止めて!」

ミリナの指示の間に、人工循環器が閃光を放ち、破裂した。ケースに穴が空き、噴出する液体と共に、挽肉状と化した中枢神経系が流れ出す。

「あーあ、これで引き渡せる犯人はいなくなったね」

「事故、でしょうか?」

「いや、恐らく取り調べ対策の自爆装置だね。条件で自動的に発動するのか…まぁ、昏睡状態にしてあったんだから、意識的にって事はないか」

オペレータの呼び出した研究者らしい男達が後始末する様子を眺めながら、カイムは腕を組んだ。と、イヤホンマイクが電子音を鳴らす。

「ん、誰かな?」

ミリナに目で席を外す事を伝え、部屋を出て行く。

 廊下に出、胸ポケットの情報端末を取り出す。画面には、褐色の肌の、同年代らしい女性の顔。

「カルロ…」

久々に目にするその顔を、カイムは少し眉根を寄せて眺めた後、通話ボタンを押したのであった。


皇室警護隊司令アーリア・ケイツは激昂していた。ブチギレ、と言ってよかった。

「ここまで愚弄するか!」

モニタを投げ飛ばすぎりぎりのところで理性を保ち、デスクを拳で叩く。モニタには、テロリストを引き渡せない旨のメールが表示されていた。

「何故我々に先んじて動けるのでしょうか?」

正面で直立している男の副司令が問い掛ける。

「知るものか!知っていたなら先んじられる筈がない!」

ほつれた髪を直す。

「やはり、タカツカサ家独自の情報網が構築されている、という噂は本当でしょうか?」

「…その噂が本当ならば、我々は既に共和国の統治下にあるのと大差ない、という事か…」

荒くなった息を整え、口惜しげに呟くと両手で頭を抱えたのであった。

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